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そういう事だったのね。

「それじゃ行って来ます」


「気をつけて」


「ああ」


「来年は私も行くからね」


入学式を明日に控えた日曜日、秀一はいよいよ家を出る。

これから3年間の寮での生活になるのだ。


「真夏、別に一緒の学校に来る必要はないぞ」


「いいの」


「分かった、まあ好きにすればいい」


真夏は駅まで見送ると聞かなかったが、目立つと麻里に見つかってしまうといけないと愛佳から説得され家の前での見送りとなった。


「それじゃ」


秀一は大きなバッグ1つ抱えて家を出た。

布団やシーツの類いは寮で用意されており、秀一は必要な物は現地で揃えるからと言って筆記用具に着替え位しか持たない出発だった。


駅に向かう道程で秀一は余り見たくない顔に出会った。


麻里である。


黙って前を通り過ぎようとする秀一。


「随分淋しい旅立ちね」


「.....」


「まあ黒春高校に入学する訳ですもの恥ずかしくて人目につきたくないわね」


麻里の挑発に知らぬ顔で歩くが麻里は一緒に着いてくる。


「何の用だ?」


「あなたに元カノと間男の今を教えたくて」


「元カノ?」


「そうよ玲美、後は亮ね」


「興味ない」


全く表情を変えずに歩き続ける秀一、しかし僅かな表情の変化を麻里は見逃さない。

秀一の言葉を無視して麻里は話す。


「玲美は亮との浮気がバレて入学式をすっぽかして家に引きこもってるわ。

亮も学校で暴れて謙二に返り打ちに逢って今はすっかり大人しくなってる」


「謙二が?」


秀一の足が止まる、謙二、斉藤謙二は秀一の祖父が営む道場に通う秀一の親友だ。

中学校は違うが秀一が池島高校を受けると聞き一緒の高校に進むべくわざわざ偏差値の下げての入学だった。

麻里から前日電話を貰い秀一の事情を聞き(麻里が企んだ事は言わず)当日の騒ぎとなった。

因みに玲美のクラスに噂を広めたのも勿論麻里の仕業だった。


「あいつも馬鹿だな」


秀一はそう呟いた。

謙二の事を気にかける秀一の表情は先程の玲美の時と明らかに違う。


「あなた玲美の事を何にも感じないの?」


「何も、とまではいかないな。一応1年付き合っていたし、純一や翔の事も思い出したくはないがな」


「亮は?」


からかう様に麻里が聞く。


「誰だそいつ?」


「誰って玲美を奪った男よ、忘れたの?」


「ああ、そんな名前だったか、本気で忘れてた。

玲美と付き合っていた事も本気でどうでもいいんだ」


あっけらかんとした態度の秀一、そしてまた歩き出す。

当然麻里は面白くない。


「あなた元カノの事でしょ?

告白したのは玲美からでも自分で付き合う事を選択しておいて少しおかしいでしょ?」


「ちょっと待て」


麻里の言葉に秀一は立ち止まる。


「何よ」


「確かに告白したのはあいつだ、だが付き合うのをけしかけたのはお前だぞ」


「え?」


意外な秀一の言葉に初めて動揺する麻里。


「ちょっと待って、けしかけたって?」


「忘れたのか?お前があいつ(玲美)と一緒のクラスメートで俺に言ったんだろ?

告白したいって言ってる友達がいるって」


「言ったわよ!それが何でけしかけた事になるのよ!」


麻里はもう叫ぶような大声になっていた。

秀一は早く話を終わらせるつもりで話を続けた。


「あのなあ、あの時お前は俺に何て言った?

『秀一が告白を断り続けるのは特定の付き合いたい人がいるからか?』って言ったな?」


「え?」


「言ったんだよ、それで俺が『何でそうなる』って聞いたらお前は『1度位付き合ってみたら』って言ったんだよ、だからかあいつ(玲美)の告白にOKしたんだ」


「あ....ああ!」


麻里は思い出した。

確かに言った、しかしそれは(私か愛佳)と特定して欲しかったのだ。

そして1度位付き合ってとは玲美ではなく私、つまり中田麻里と付き合って欲しかったのだ。


「そういう事だ、それじゃな」


「待ってよ」


「何だよ」


「何であの時追いかけて来なかったの?」


「はあ?」


「何で玲美と秀一がキスしてるのを見て私が出ていった時に追いかけて来なかったのよ!」


麻里の言葉にに秀一はしばらく頭を捻る、思い出している様だ。


「ああ、あの時か、追いかけようとしたよ」


「嘘!」


「本当さ、でも純一やあいつ(玲美)が言ったんだ、『翔が麻里に告白する邪魔をするな』って」


「え?」


「『麻里が翔を意識していて、翔がそれに応えて麻里に告白する、俺が玲美とキスしているのを見て麻里は翔への気持ちが抑えられなくなったから出ていった』って言われたんだよ、違うのか?」


衝撃の事実を知らされ呆然とする麻里、

もう戻らなくなってしまった現実に何をして良いのか分からず立ち尽くしていた。


「それじゃな、もう忘れろ。俺もお前を忘れるから」


最後の秀一の言葉は麻里の心に刻まれた。


[お前(麻里)を忘れる]


「秀一!!」


麻里の言葉に秀一は振り返らず行ってしまった。




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