キレたかも知れんね。
理事長による秀一への騒動から2ヶ月程が過ぎたある日の夜10時頃その知らせはやって来た。
「母さんからか珍しいな」
携帯のパネルを見た秀一は母親からの電話に胸騒ぎを感じながら出た。
「はい、秀一です」
『秀一?落ち着いて聞いてね、真夏と謙二君が私の病院に救急車で運ばれて来たの』
母親の言葉に秀一は体中の血が沸騰するのを感じる。
「何だって!真夏は怪我してるのか!謙二はどうなんだ!」
『落ち着いて、真夏は左腕の脱臼と膝の擦り傷で謙二君が...』
「謙二は?」
『全身打撲で重傷よ...』
「なぜだ?なぜそんな事に」
『麻里ちゃんもその場にいたのよ、『4人組の男達に襲われた』って』
「襲われた?」
『ええ、詳しくは明日朝に病院に来て、私の勤める病院よ』
「今から行く」
『え?途中で電車無くなるでしょ?』
「今から行くから」
秀一は電話を切ると謙一の部屋に向かった。
「来たか」
謙一は既に着替えており秀一を部屋に迎えた
「聞いたか?」
「今親父から電話があった」
「行けるか?」
「最初からそのつもりだ、ほれ」
謙一はヘルメットを秀一に投げた。
「すまんな」
2人は寮を出る。学校に置かれた大型バイクに跨がる。
教職員の駐輪場に置かれたバイクは謙一の物で学校には一部の教師を除いて内緒であった。
「飛ばすぞ」
エンジンを掛けた謙一は秀一に告げた。
後ろに座った秀一は無言で頷く。
バイクは夜の街を疾走する。150km離れた病院まで2時間ちょっとをかけて走り到着する。
バイクを病院に停めると救急治療室に2人は走った。
「秀一!」
治療室の前に麻里と謙一の父親が待機していた。
「親父、謙二は?」
謙一は父親に尋ねる。
「ああ、意識はあるが体の骨が数本折れている。鉄パイプで全身を殴られたそうだ」
「秀一、秀一...ごめんなさい...」
麻里は秀一の姿を見て泣き崩れた。
麻里の目の周りは赤く腫れて包帯が巻かれていた。
「麻里、目をどうした?一体何があった?」
秀一は麻里を長椅子に座らせて尋ねた。
「2人はあいつらよ!」
「あいつら?」
「和田と立花よ!和田翔に立花純一よ!!」
麻里の名前に秀一は首を捻る。
「中学の時の連中よ!」
麻里の言葉に秀一は思い出す。中学時代秀一と麻里がいたグループのメンバーの名前だ。
「間違いないのか?」
「ええ、あいつら覆面していたけど間違いないわ。逃げる時に『翔行くぞ』って叫んでいたの」
「なぜ謙二が...」
謙一は麻里に詰め寄る。
「私が説明する」
謙一の父親が割って入る。
麻里は足を震わせて落ち着いて説明が出来ないと見たのだ。
真夏の塾の帰り道麻里は一緒に帰っていた。
数日前から真夏は男に尾行されている気がしていたので麻里に頼んでいた。念の為少し離れた所で謙二も見張っていたのだが、人通の少ない所で一瞬の隙を突いて4人組の男達に真夏と麻里は襲われてしまった。
急いで駆けつける謙二の後頭部に鉄パイプが襲う。咄嗟に避ける謙二だが同時に3人同時の攻撃に不覚をとる。忽ち全身を滅多打ちにされてしまった。
一方の真夏も最後の1人に左腕の関節を極められていた。
不意の攻撃にこちらも不覚をとったのだ。
麻里は最初に顔にスプレーの様な物をかけられ無力化されていた。
『うぐッ!』
関節を外された真夏の叫びに男は立ち上がり他の3人を引き連れ走り去った。
その間僅か数分の出来事だった。
無言で秀一と謙一は聞いていた。
その時処置室の扉が開いた。
「秀一、謙一君もう着いたの?」
中から出てきた秀一の母に2人は駆け寄る。
「母さん、真夏と謙二は?」
「電話の通りで真夏は脱臼、謙二君は打撲。幸いにも骨折は4ヶ所で全て亀裂骨折よ」
「入って良いか?」
「良いわよ」
母の返事と同時に皆処置室に入った。
真夏は腕を吊るして座っていた。
「真夏!」
秀一の姿を見た真夏の目から涙が溢れた。
「兄ちゃん!!」
真夏は立ち上がり秀一に飛び付き泣きじゃくる。
「...兄ちゃん、兄ちゃん」
「怖かったな大丈夫だ、俺がいるぞ」
「うん」
優しく頭を撫でると真夏は少し落ち着いたように座りやがて横になり静かな寝息をつき始める。麻里は真夏のベッド脇に座り付き添った。
「謙二、大丈夫か?」
後ろのベッドでは謙一が謙二に聞いている。
「...すまんな兄貴、不覚をとったよ。真夏達は大丈夫か?」
「大丈夫だ、心配するな」
謙一と父親が優しく手を握ると謙二はホッとしたのか眠ってしまった。
「柔道の技?」
秀一は母親から詳しい話を聞く。
警察の事情聴取を一緒に聞いていた母親は状況から真夏の腕を外した技が柔道の腕挫十字固めである事を聞いた。
「そんな技を女の子に...」
謙一は顔を真っ赤にして怒りを露にする。
秀一は逆に表情が全く消えて静かに目を瞑っている。
「犯人は誰だ?秀一心当たりは無いか?」
謙一の言葉に秀一は静かに首を振り
「4人か...2人は特定されているから捕まるだろうが残りは誰だ?」
そう呟き静かに立ち上がった。
「秀一、落ち着いて!」
「そうだ、秀一君落ち着くんだ!」
秀一の母の声も謙一の父親の声も聞こえていない秀一だった。




