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通えないのかね。

「おい真夏起きろ!」


「なんだよ秀一」


「なんだ、じゃない行くぞ」


「今日はパス」


ジャージを着た秀一が一向に起きてこない真夏に痺れを切らし部屋に入ると真夏はまだ寝ていた。


「俺は行くからな」


「がんばれー」


真夏は布団から右手をだけ出して秀一を見送る。やむなく秀一は1人で真夏の部屋を出るのだった。


「頑張れ愛佳ちゃん...」


秀一が部屋の扉を閉める音が聞こえると真夏は布団の中で呟いた。


「おっはよっう!」


「....何故ここにいる?」


「おっはよっう!!」


「...だから...」


「さあ出発!」


「分かった、せめて静かにしてくれ」


玄関の扉を開けると愛佳が立っていた。

どうやら愛佳は説明する気も無いようなので秀一は諦めて一緒にロードワークに出掛ける。

元々3歳から秀一の祖父が課したトレーニングだが小学校に上がると愛佳と麻里が加わり3人で行う様になり翌年には真夏も加わり4人でのトレーニングになっていた。...去年の始めまでは。


「気持ちいいね!」


汗を掻きながら愛佳は笑顔で秀一に言った。


「そうだな」


相変わらず秀一は仏頂面だ。

秀一にしてみれば昨日から今日の出来事がジェットコースターのようで理解が追いつかないのだ。


やがて2人は公園に着く。

其所で柔軟やストレッチを行う、お互いの手を掴みストレッチをする。

愛佳は久し振りに握る秀一の手の感触にドギマギしていた。


「おい」


「え?」


「痛い」


秀一の声に愛佳は我に返る。

秀一は地面に足を広げて前屈の姿勢で愛佳は後ろから秀一の背中を押していた。

1年以上触る事が無かった秀一の背中をつい夢中で押しまくっていたようだった。


「ごめん」


「いいよ」


恐縮する愛佳に秀一は優しい顔をした。

先程までの仏頂面じゃない秀一の笑顔、そういえば愛佳は昨日から秀一の笑顔を見たのは初めてだった。


「秀ちゃん」


「なんだ?」


「高校の申し込みは?」


「ああ、今日するよ」


「そっか、寮生活楽しみだな」


愛佳の最後の言葉に秀一は首を捻る。


「おい寮って?」


「秀ちゃん、どうやって通うつもりなの?」


「電車だろ?」


「無理よ」


「いや試験受けた所が学校だろ?」


秀一は試験会場を思い出す。

確かここから電車で30分程の場所だったはずと。


「あそこ系列校の大学キャンパスだよ?」


「え?」


「会場に入る時に建物見なかった?」


「ああ」


「ひょっとして学校案内やパンフレットも?」


「見てない」


余りの無関心振りに愛佳も呆れる。


「愛佳すまないが高校の事を教えてくれ」


「良いけどパンフレット見た方が早いよ」


「捨てた」


「え?」


「まさか行く事になると思わなかったから」


愛佳は昨日まで秀一は池島高校に行くつもりだったと思い出す。

そして玲美と別れた事も。

これから秀一と一緒の学校に通える事実に愛佳は震える。


「聞いてるのか?」


「え?」


また愛佳は自分の世界に入っていた様だ。


「だから俺が行く高校だよ、何で寮になるんだ?」


秀一は呆れた様に聞く。


「あ、私達が行く静嵐高校は此処から150km離れてて...」


「何150km?」


「それで勉強やスポーツに力入れていて、遠方からの生徒を受け入れる為の寮があるの」


秀一は初めて聞く静嵐高校の情報に唖然とする。


「電車で通えないのか?」


「無理だよ片道だけで3時間はかかるよ」


愛佳の言葉に秀一は寮生活を覚悟する。

高校浪人までする気もないから当然と言えば当然だった。

そんな秀一の様子を見て愛佳は呟く。


「どうして『愛佳はそんな遠くの高校を選んだんだっ』て聞いてくれないんだね」


「なんか言ったか?」


愛佳の呟きは秀一に聞こえなかった。

愛佳が静嵐高校を選んだ理由は秀一が玲美といる姿を見たくなかったからだ。

例え同じ高校に進まなくとも近くに住んでいれば秀一を見かけてしまう。だから愛佳は寮のある高校を選んだのだ。


「静嵐高校が寮生活って真夏は知っているのか?」


「もちろん、私が行くのを決めた時から知っているよ」


「そっか、真夏淋しがるな」


秀一はそう言って背伸びをした。

昔からそうなのだ秀一は無関心を装って実は愛佳や真夏、麻里の事までよく見ていてくれていた。

玲美と秀一が交際するようになって秀一は全く周りに気づかえなくなっていた。しかし今は以前の秀一に戻りつつある。

その事が嬉しい愛佳だった。


「なあ!」


「はい?」


秀一の声に愛佳は慌てて返事をする。


「また聞いてなかったな?」


「ごめん」


「もう1回言うぞ、寮に入るなら色々用意しないといけないから、俺と買い物に付き合ってくれ」


『俺と(買い物に)付き合ってくれ』そのフレーズに舞い上がる愛佳。


「はいこんな私で良かったら末永くお願いします」


顔を真っ赤にして頭を下げる愛佳を見て、

『また勘違いしているな?』

そう思う秀一だった。


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