そういうものよ。
「小百合、あんたね~」
敷島香織は心底呆れた声を出しながら山崎を見た。
ここは山崎小百合の自宅の応接間、隣には服飾部部長の清水奈都と副部長川井涼子が座っていた。
3週間の自宅謹慎となった山崎小百合は家から出る事が出来ない。幼馴染みの敷島に服飾部の事を聞きたいと頼み、敷島は清水と川井の2人を連れて来たのだ。
「な、何よ」
敷島の呆れた声に山崎は不満げだ。
「山崎さん、あなたは結局秀一君の事を知りたくて私達を呼んだのですか?」
清水も呆れた顔で山崎に聞いた。
「ど、どうして?」
なぜバレたのか分からない山崎だが先程から清水や川井に質問した内容は、
『広田君の好きな食べ物は?』『趣味は?』『誕生日は?』全て秀一に関する事ばかりだった。
「要するに山崎さんは秀一君が好きなんですね?」
川井も呆れていたが年長者で理事長の娘である山崎に酷い態度は取れないので流す様に聞いた。
「し、仕方が無いじゃない...」
あっさりと秀一が好きな事を認める山崎に敷島はもう一度溜め息を吐いた。
「山崎さんは昔からですか?」
川井が敷島に尋ねた。
「いいえ小百合は惚れっぽい性格だった訳では無いんだけど...」
「吊り橋効果ね」
やり取りを見ていた清水が呟いた。
「吊り橋効果?」
「そう危ない所を助けて貰って秀一君に惚れちゃったのよ」
「そんな錯覚みたいな恋じゃないわ!」
清水の断定した言葉に山崎は言い返す。
敷島も疑問点をあげた。
「吊り橋効果ならお互いでしょ?小百合のは一方通行よ。広田君は何にも感じて無いでしょ、だから違うわね」
「酷いよ香織もみんなも...」
容赦ない3人に山崎は項垂れた。
「あのね、私達があんた達にどれだけ迷惑を被ったか忘れたの?」
山崎の態度に敷島の言葉が思わずきつくなる。清水は敷島を宥めながら山崎に言う。
「まあまあ敷島さんも落ち着いて、私も秀一君を好きになる人の気持ち位は分かるよ、でも山崎さん、さすがにこの前の事があってすぐに『秀一君、あなたが好きです』って節操が無いよ」
「分かってる、そこは本当に反省しています。
でも秀一君の事を調べなくてはいけないの、これは理事長である私の父親の命令でもあるのよ!」
「理事長が?」
「なぜ?」
「意味わかんない」
「それはね....」
理事長の名前を山崎が持ち出すと敷島達3人は首を捻った。山崎はすぐに事情を説明する。
今回の事で広田秀一の事を理事長である父は気に掛けている事、
広田秀一の事を逐一報告する様に頼まれた事、
青山愛佳に対しても誠心誠意謝るように言われた事等である。
「なぜ理事長がそこまで秀一君に拘るの?」
「確かに今回の騒動では活躍してくれたけど」
「小百合、本当にそれだけ?」
清水や川井は信じらない顔で聞き、敷島は真意を尋ねた。
「本当よ、お父様は秀一君をお認めになっているの」
山崎は思わず胸をそらし何故か誇らしげに言った。
「認める?何を?」
「いや、あの、秀一君の実力をかな...」
敷島が聞くと今度は恥ずかしそうに呟く山崎。
敷島は山崎の父親が秀一を認めたと言う言葉が分からない。
山崎小百合の父親は慎重にして時に大胆、常に深慮策謀の人。
家族同士の付き合いも長いので山崎小百合の父親とはどういう人物か分かってるつもりだった。
「案外秀一君を気に入って山崎小百合と引っ付けたかったりして?」
「嘘、止めて秀一君はみんなの秀一君なんだから!」
川井が冗談めかして言った言葉に清水は慌てて止めた。しかし敷島は首を振る。
「小百合の父親は本当の娘バカよ、例え広田君が大富豪のエリートサラリーマンで世界一のハンサムでも認めないわ」
敷島はそう断言した。
『しかし秀一はお父様に認められている、私の相手に相応しいと』(実際は山崎小百合の勘違いだが)そう考えると脳髄から痺れる物を感じる山崎だった。
「それじゃ秀一君の何を認めたの?」
「影響力かな...」
「影響力?」
「ええ、寡黙だけど周りを常に観察していて、冷静に見えて熱い物を持ち合わせているわ。
誰もが引き込まれるカリスマ性、きっと2年後には生徒会長にと考えているのよ!」
「「なるほど!!」」
敷島の自信に満ちた言葉に清水と川井は納得し山崎は『そういう事にしておこう』と思った。
「そう言った訳だから小百合、諦めなさい」
「なんでそうなるの?」
山崎をそっちのけで話が盛り上がっていたかと思っていたら不意に敷島にそう言われ焦る。
「分からないの?広田君の影響力は私達の手の届く物じゃないのよ、それに広田君の事を心底想い続けている人は3人もいるのよ?」
「3人?」
敷島の言葉に山崎は考えを巡らせる、
(青山さんは間違いない、後2人は誰だろう?)
「清水さんと川井さん?」
「私達はそこまでじゃないわよ」
慌てて2人は首を振った。
「まさか香織?」
「私は違うわ」
敷島も静かに首を振る。
「じゃあ誰?」
「麻里さんと真夏ちゃんよ」
「それ誰よ?」
川井の言葉に山崎は聞いた。初めて聞く名前だ。
「麻里さんは愛佳ちゃんと同じ秀一君の幼馴染みね、今は違う高校だけど。後、真夏ちゃんは秀一君の妹」
「妹?」
「そう、真夏ちゃんはかなりのアニスキーかな」
「間違いなくアニスキーよ」
「アニスキー?」
「つまり兄好きね」
清水と川井の意味不明な言葉を敷島が説明した。
「ブラコンって事?」
「少し違うわね、とにかくお兄ちゃんが大好きな子よ、秀一君を独占するのじゃなくて愛佳ちゃんや麻里さんの事も好きなのよ」
「そうそう、2人以外に秀一君に言い寄る事は許さないって感じかな?」
真夏の事を楽しそうに清水と川井は話し、敷島は笑顔で頷いていた。
「清水さんと川井さんはそれで良いの?」
「良いのって?」
「あなた達も青山さんや麻里さんって人程じゃないけど秀一君が好きなんでしょ?」
山崎の言葉に2人は顔を見合わせる。心なしか顔が赤い。
「まあ好きかな...」
「私も」
「それじゃ私の気持ちも...」
「でも駄目、秀一君の眼中にあるのは3人、愛佳ちゃん、真夏ちゃん、麻里さんの3人なの」
「服飾部のみんなもそれは分かってる。だからこそ大切にしたい、今の関係をね」
山崎の質問に清水と川井は切なそうに答えた。
「だからね山崎さん、私達は秀一君を愛でるの」
「愛でる?」
「ええ、大切にするのよ」
「そう、大事にしながら賛美するの」
『愛でる』か、言いたい事の意味は分かるがやはり諦め切れない山崎小百合だった。




