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諦めるんだな。

「全員そのまま動くんじゃない!」


会議室に入って来た数人の教師の中の1人はそう叫んだ。

あいつは見覚えがある。

井藤と言う体育教師で柔道部顧問、去年俺に目をつけてクラブに勧誘したり、断ると難癖をつけたりと嫌な野郎だったな...最初の頃は。


「斎藤、大丈夫か?」


「ええ、俺より山崎と広田を」


俺が井藤先生にそう言うと素早く別の教師を呼んだ。


「山口先生、広田を! 北村先生は山崎を!」


「はい」


井藤先生の指示で2人の教師は山崎と秀一の元に走る。俺は教師達がこの会議室に早く来れた理由が分からない。


「どうして先生は?」


「あれだよ」


俺の質問に井藤先生は会議室の片隅に置かれていた物を指差した。

(成る程)俺は納得する。


「広田、大丈夫か?」


秀一の目を見た山口先生が驚いている。

催涙スプレーを至近距離からマトモに受けた目は充血して腕で擦ってしまったのか目の周りは腫れ上がっていた。


「ええ」


秀一は気丈に振る舞うがあれは痛そうだ。俺の電気ショックより始末が悪いぞ、催涙スプレーが粗悪品だったのかな。


「広田、保健室だ」


「秀ちゃん行こう」


「ああ」


青山に手を取られ秀一は会議室を出てい行く。あの秀一が素直に従うとはよっぽど痛いらしい。

改めて怒りが沸き上がって来た俺は足元に転がるあいつに引導を渡す事にする。


「先生」


「ああ斎藤、頼む」


俺は井藤先生と一緒に北川を長テーブルに仰向けで寝かせた。

柔道整復師の資格も持つ井藤先生の指示で俺が北川の体を固定して先ずは右腕を治療する、手技療法ってやつだ。


「行くぞ」


「はい」


井藤先生の声に合わせて俺は力を込めて北川の体を動かないように固定させる。同時に脱臼していた北川の右腕をめた。


「ぐあ!」


痛みで北川覚醒したみたいで飛び起きやがった。


「痛ぇ痛ぇ...」


北川は情けない声で泣きやがる。

何が痛いだ、井藤先生は上手く填めたぞ?

俺でも填める事は出来るが井藤先生は経験も知識も段違いだ。俺も1度柔道部の助っ人で稽古していた時に肩を外してしまい井藤先生に入れて貰ったが下手な治療院より上手かった。


「斎藤、次だ」


井藤先生は北川の反対側の腕も治療した。

両腕を填め終わり俺は北川の両腕を首から三角巾で吊るしてやった。

ちょうど良い生地が無いから先程まで北川の口を塞いでいた俺のお気に入りだった向日葵のハンカチでだが。


「山崎さん大丈夫?」


「はい...」


女性教諭の北村先生に体を支えられ山崎は静かに体を起こした。

真っ青な顔だ、俺でさえ泣きたくなる程の激痛だったから女の山崎の受けた苦痛は想像に難くない。


「せ、先生、僕、斎藤と広田に襲われて...」


突然北川が長テーブルから起きて井藤先生に泣きつきやがった。


「北川!お前何を...」


「た、助けて...」


「待て斎藤」


俺が北川に迫ると井藤先生は俺に目配せをして止める。


「北川、お前は斎藤と広田に襲われたのか?」


「はい。僕が会議の後、嘘を吐かないで欲しいとお願いすると山崎に命じられた広田と斎藤が僕の腕を...」


井藤先生の問いに北川は我が意を得たりと涙ながらに嘘を連ねるが俺はもう焦らない。


「そうか、ではあのスタンガンやスプレー缶は?」


「ぼ、僕のじゃありません...」


思わぬ質問にしどろもどろに答える北川の様子を俺は冷ややかに見ていた。


「そうか、あれはお前のじゃないんだな。

山口先生スタンガンやスプレー缶は直接触らんで下さい。後で警察に提出して指紋を採りますから」


さあどうする?スタンガンやスプレーにはお前の指紋以外ついて無いぞ。


「あ、待って、あのスタンガンやスプレーは僕のです」


北川の奴認めやがった。


「今お前の物じゃないと言わなかったか?」


俺は思わず突っ込んでしまった。


「うるさい!護身用だ、人殺しが!」


この野郎言うに事欠いて人殺し呼ばわりか。


「北川もう終わりだ、先に退出した生徒会の役員達が隠しカメラを設置して行ってな、映像と音声は学校関係者に配信されていたんだよ。

まさかこんな馬鹿な事を直ぐにすると思わなくて駆けつけるのが遅くなってしまったがな」


井藤先生が北川に全ての終わりを告げる言葉を言った。


「う、嘘だ...僕の方こそ脅されて...こんな事を」


まだ北川は何かを言おうとする。


「貴様いい加減にしろ!」


俺が北川に唖然としていると会議室に新たに入って来た1人が怒鳴った。

高級そうなスラックス、筋肉質な両腕に日焼けした顔、オールバックの髪型。

かなり厳つい。漂わせる雰囲気は只者じゃないと俺は実感した。


「お父様...」


山崎が驚いた様に言った。

成る程、あれが山崎の親父で理事長か。


「お、おじさん、僕は」


「黙れ!この屑が!貴様よくも家の娘を...」


怒りに体を震わせる山崎の親父さんを見て北川は破滅を実感した様だ。


「やれやれ」

ほっとすると体の痺れがまだ痛む事に気がつく俺だった。


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