そいつは馬鹿かね?
合宿のプランが決まった。
夏休みの2週間を使い集中的に演劇部の衣装を作る事。
小物類については手縫い針を上手く使える川井先輩が中心となって一部の部員達が作る事。
材料の生地については色や柄の模様を見たいと演劇部からの要請があり、演劇部と服飾部、両方の部員達と買いに行く事等を決めた。
「秀一君明日、私と演劇部に採寸をしに行くわよ」
「採寸ですか?」
「ええ、少し確認したい事があってね」
翌日秀一と川井先輩は演劇部の部室前にいた。
川井先輩はにソフトメジャーを首にかけ、秀一はノート等の筆記用具を手にしていた。
「失礼します、服飾部です。採寸に来ました」
部室の扉を開けると演劇部の部員達の視線が2人に注がれる。男子部員の姿は見当たらず、周りは全て女子の様だ。
川井先輩は部室の奥に座っている1人の女子生徒に歩いて行く。
「今日は採寸お願いします」
「ええ。ところで後ろにいる方は?」
「うちの部員で広田秀一君です。
秀一君ご挨拶を」
「はい」
川井先輩の促す声に秀一は静かに歩いて行き、女性の前に立つ。
「1年C組広田秀一です。服飾部でお世話になっております」
そう言って秀一は頭を下げて挨拶をする。
「.....」
「あの?」
秀一の顔を見て女性は赤い顔で固まってしまったので秀一が優しく声を掛けた。
「あ、ああ、ごめんね、さ、3年演劇部、部長の敷島香織よ。宜しく」
ガチガチに緊張した敷島さんの挨拶、周りの部員達も驚きつつも納得している。秀一は入室以来にこやかな笑みを絶さずにいたのだ。
演劇部に来る前、川井先輩が秀一に言ったのだ。
『演劇部では終始笑顔でお願い』と。
「では採寸を始めますね」
「分かりました、最初は私からお願いするわね」
敷島部長が椅子から立ち上がり川井先輩が首に掛けていたメジャーを手に取り採寸が始まった。
「失礼します、肩幅は...」
川井先輩が測った数字を秀一はノートに控えて行く。
ノートに簡単な体の絵を書いて素早く控える。それだけの事に演劇部の部員達は秀一に釘付けだ。
沈黙の中、敷島部長は川井先輩に話しかけた。
「涼子、今回は無理言ってごめんね」
「いえ、服飾部としても貴重な体験と感謝しております」
「...コサージュ位なら演劇部で購入するわよ」
敷島部長の言葉に川井先輩は首を振る。
「依頼を受けた以上は作るしかありません。手芸部の出来には敵わないでしょうが一生懸命作らせて貰います」
力強い川井先輩の言葉を敷島部長は黙って聞いていた。
「今の手芸部は腐っているわ...」
敷島部長の呟きに周囲が凍る。
「今から私は独り言を呟きます。みんなも手芸部に対する独り言を許可するわ」
敷島部長の言葉に演劇部の部員が頷いた。
川井先輩が秀一に目配せをすると秀一はノートを捲り空白のページに演劇部、部員達の独り言をノートに控えて行く。
[服飾部と演劇部の遺恨はそれほど酷くない]
[演劇部は今回の依頼を出す人数は当初10人の予定だったが手芸部の部長が横槍を入れて倍の人数になった]
[小物類についても手芸部の協力は演劇部の方から断っている]
手芸部の部長は自分の親が理事長である事を傘に、同じく親が理事の演劇部部長の敷島に命令をしていた。
「悔しいけどね...」
敷島部長は悲しそうな顔で呟いた。
何か因縁があるのだろう。
そして1番の情報、[クラブ会議に手芸部部長で出席していた人物は実は今回の首謀者ではなく別の人物が黒幕だと言う事]
「本当の黒幕は誰です?」
「北川、北川武志よ」
敷島部長が名前を出すと演劇部の部員達は皆顔をしかめた。
「あいつは最低野郎よ、手芸部や演劇部を自分のハーレムと勘違いしているわ」
「手芸部を追い出された子の中にも北川の誘いを断った理由の子もいるわよ」
次々と上がる苦情の声を川井先輩と秀一は呆れながら聞いていた。




