私も行くわよ。
真夏との電話の翌日の放課後、寮に帰る前に秀一は愛佳を呼び出した。
「な、何かしら秀ちゃん...」
真っ赤な顔で秀一を上目使いで見つめる愛佳の姿に、また愛佳が勘違いをしている事に気づくが秀一はそのまま話を始める。
「真夏から昨日、麻里の現状を聞いたんだが...」
「...え?」
秀一から意外な名前を聞いた愛佳は固まる。
(ひょっとして秀ちゃんが黒春高校に行ってなくて私と同じ高校に行ってる事がバレたのか?
いや、昨日真夏と夜遅くまでラインをしたがそんな会話は一切書いてなかったから違う話か?)
一瞬の内に真顔になる愛佳。
愛佳の様子から真夏は約束通り麻里の話をしていない事を知る秀一だった。
「麻里は今あいつらに復讐をしようとしているんだ」
「あいつら?」
「俺が中学の時にいたグループの奴等さ」
「どういう事?」
「実はな......」
秀一の話を愛佳は真剣な態度のまま聞く。
いつもの愛佳の顔ではなかった。
そして秀一の話は終わる。
「成る程...」
「だから俺は月末に1度地元に戻るつもりだ」
「秀一はどうしたいの?」
秀一は愛佳の言葉に戸惑う。愛佳の事だから『麻里を助けてあげて]と言うだろうと予想していたからだ。
「正直なところあいつ等がどうなろうと関係無いが、麻里が危険な事を考えているのも放っても置けない」
「秀ちゃん...」
秀一の言葉に愛佳はしばらく考えている様子だったがやがて秀一の方を見つめ返した。
「私も行くわ」
「愛佳?」
「私も行く、麻里を放って置けない気持ちは私も一緒よ」
「良いのか?俺と同じ高校に行ってる事がバレるかも知れないぞ?」
愛佳の言葉を受けて秀一は聞いた。
「良いわよ、それで麻里にどれだけ恨まれても。
だって今でも私は麻里の親友よ」
「分かった」
愛佳の強い決意を秘めた目に秀一は一緒に行く事を了承する。
「それなら月末と言わず早く行った方が良いのかな?」
「それは大丈夫よ」
秀一の問いに愛佳は速答で答える。
「麻里は行動する時は時間をかけて調べあげるの、それは何週間も何ヵ月もかけてね」
「そうなのか?」
「ええ」
「それなら愛佳から麻里に連結を入れておく事は出来ないか?
『軽はずみな事はするな』とか」
「無理よ。この1年間、麻里の携帯は私や真夏の連絡には全てブロックが掛かっているの」
「そうか」
せめて愛佳から連絡を入れておければと思った秀一の期待は無駄と分かる。
残念そうな秀一を見て愛佳は提案をする。
「確か池島高校には筋肉2号さんが行っていたわよね」
「え?」
突然明るい声で愛佳は言った。筋肉2号とは斎藤謙二の愛佳がつけた呼び名だ。筋肉1号は...
言うまでも無い。
「だから連絡したら?麻里が学校で無茶をしたら止める様にね、それなら学校だけは安心よ」
「分かった、早速寮に帰ったら謙一に頼むよ」
「そうね話はそれだけ?」
「ああ、帰る日はまた相談しよう」
「うん分かった」
「愛佳、それじゃな」
「バイバイ秀ちゃん、また明日ね」
寮に戻る秀一の背中を見送る愛佳、本当は一緒に帰りたいが男女の寮生同士が寮に近づくと何かと問題なのだ。
「やれやれ」
秀一の姿が見えなくなると愛佳の表情はまた真剣な物になる。
「麻里は相変わらずだな、秀ちゃんの事になると突っ走ってばかりで」
愛佳はそう呟いて昔を思い出す。
愛佳と麻里は幼馴染みで大親友だった。
しっかり者の麻里にどこか暢気な愛佳、2人の性格は全然違うが、なぜか気が合うのだった。
秀一にも甘えてばかりの愛佳とすまして素直になれない麻里、お互い告白出来ないまま来たがそれでも2人の気持ちは分かっていた、『いつかこの3人の関係は終わる。でも今だけはこの関係でいたい』と。
秀一が玲美の告白を受けて付き合いだした時、愛佳はショックで秀一と距離を取った。
麻里は諦め切れず玲美のグループに入った。
麻里の行動、それは秀一を取り返して、また以前の愛佳と麻里、秀一の3人の関係に戻したかったんだろう。
麻里は自分の想いを秀一に伝えるつもりだったのだろうが、それだけでは無かったと心の底では分かっていたはずだ。
もし愛佳が麻里の様に飛び込んで秀一を奪い返していたなら元の3人の関係に戻していただろうから。
「全く世話が焼けるな...」
愛佳はそう呟いた。




