参ったね。
のんびり行きます。
県立池島高校の合格発表日。
合格に沸く者や、不合格に落胆する者達で溢れていた。
「よしやったぜ!」
「私もあった!」
「俺もだ」
「良かった私もあった!」
「...あれ?」
「嘘、秀一だけ無いの?」
「マジかよ」
「どうすんだ?」
「秀一って意外とバカだったのか」
広田秀一は中学からの仲良しグループ5人と同じ高校を受験して、1人不合格となった瞬間だった。
「まさか秀一が落ちるって予想外だったけど、まあ良いわ」
呆然とする秀一に北川玲美が溜め息をしながら言った。
「玲美、良いってどういう意味だ?」
意外な玲美の言葉に秀一は聞いた。
玲美は秀一とは去年の初めから付き合っていたからだ。
「それはね...」
玲美が冷たい瞳で秀一に話そうとした時、後ろから一人の男がやって来た。
「俺が教えてやるよ」
突然現れた男はそう言いながら玲美の肩を抱く。
嫌がる素振りもなくうっとりとした玲美の態度に秀一は唖然とする。
「誰だお前は?」
「玲美の彼氏だよ」
男に代わって秀一の質問に一緒に発表を見に来ていた立花純一が答えた。
「彼氏ってどういう事だ?俺が玲美の彼氏だろ?」
「まだ分からねえか?お前は振られたんだよ」
「そういう事です」
更に追い討ちをかけるような言葉を同じく一緒に発表を見に来ていた和田翔と中山麻里が言った。
「まあそういう事だ、ここでは目立つからどこか別の所で説明してやるよ」
男は秀一に冷たく言うと玲美の肩を抱いたまま歩き始めた。
後の4人も男に続いて歩きだす。
1人少し離れて後ろを付いていく秀一。
楽しげに5人仲良く話す様子は男と初対面では無い事を示していた。
そして駅前のファーストフードに着いた。
他の5人は注文した商品をトレーに並べて6人テーブルに着く。
秀一は何も頼まずに座った。
「何から聞きたい?」
男はジュースを飲みながら秀一に聞いたが、秀一は先程より少し冷静になって男を見ていた。
「そうだな名前は?」
「佐藤だ、佐藤亮」
「どこで玲美と知り合った?」
「塾だ」
「塾?」
「そうだ志摩塾だ」
志摩塾と聞いて2年前に麻里が行っている塾に玲美が行き始めた事、既に別の塾に行っていた秀一は諦めた事を思い出した。
「いつから玲美と付き合ってるんだ?」
「おい」
秀一の質問に答えず佐藤は低い声を出す。
「なんだ?」
「玲美はもう俺の女だ、気安く名前を呼ぶな」
目を細めて凄む佐藤だが冷静な秀一は動じない。
「本当馴れ馴れしいわね。正式に別れましょ」
玲美はうっとりと佐藤の腕を取りながら秀一に言う。
「そうだ、玲美の事を思うなら男らしく別れてやれ」
「ああ、女々しい態度は同じ男として見苦しいからな」
「頭の中身も玲美と秀一は釣り合って無かった訳だしな」
次々と悪意に満ちた言葉を受ける秀一。
合格発表を見るまでは普通にしていたのが今は信じられない。
「分かった別れよう。
だがさっきの質問に答えろ」
「何だっけ?忘れちまった。もう1回言えよ」
「いつから玲美と付き合っていたんだ?」
「お前また呼び捨て...」
「答えろ!」
呼び捨てに怒る佐藤を遮る秀一の声が響いた。
先程迄て全く違う雰囲気と態度に佐藤を始めとする4人は怯えた。
ただ、1人中山麻里を除いて。
「秀一、凄んでも無駄よ。2人は去年の夏から付き合っているわ」
怯えて口が利けなくなっている佐藤に代わって麻里が答えた。
「そうなのか?」
秀一は佐藤を睨みつけながら聞くと佐藤は頭をコクコクと頷いた。
玲美は初めて見る秀一の様子に驚き呆然としている。
「そうか、分かったよ」
秀一は静かに席を立った。
「そう言う事だ、俺と玲美はもう全て済ましてるんだよ。お前がもたもたしてたから俺がキス以外玲美の初めては全部いただいてやったぜ」
ようやく話せる様になった佐藤は悔し紛れに帰ろうとする秀一に言った。
「ち、違う!」
佐藤の言葉に否定する玲美、実際キスはしたが最後までは許してはいなかった。
慌てる玲美に麻里が言った。
「良いじゃない、恥ずかしがらなくて」
「やるな亮、俺は麻里とキスすらまだだぞ」
「羨ましいな」
男達は佐藤の嘘に気付かず賞賛の声をあげる。
そんな5人を見て秀一は溜め息をついて言った。
「お前らを友人だと思っていた事が俺の黒歴史だ。
特に玲美、お前と付き合っていた事がな」
そう言い残し秀一は店を出て行く。
秀一の最後の言葉が突き刺さった玲美は完全にショックを受けている様だ。
「玲美、大丈夫か?」
「亮は優しいな、これからも玲美を守ってやってね」
麻里の言葉と優しく肩を抱く佐藤に玲美はようやく立ち直るのだった。