いつもの日常
この世界は理不尽と悲しみに満ちている。なぜかって?それは、世界に明確な善悪などないから。
相手の立場に回れば正義や悪なんて簡単に変わるし、そもそも善悪は人間の"道徳"といった非常に曖昧な境界線が物を言う理不尽なものなのだ。
......俺は、何がよくて何が悪い、みたいに批判家のようなことを言う気はない。そもそも、その資格がない。だから、だからこそ。自分の手の届く範囲で、大切な人を助けたいんだ。
これが俺の信念、最後の良心。俺がこれ以上外道に堕ちないための、崖っぷちの理想。
────だから、俺から何かを奪おうとする人間は何があっても排除する。殺してでも、ね。
△▼
俺は神隠し、というものに出会ったらしい。どうにもその頃の記憶はなく、ただ結論だけが残った。
異常なまでに強化された肉体、戦場でさえ冷静でいられる冷酷な精神。相変わらず魔法なんて微塵も使えないが、肉体戦においては玄人となんの遜色もない体捌きが可能になった。
ただ、その代償か、瞬きする間に5年の月日が経っていた。当時12才だった俺も17才へ。いやはや、恐ろしいものである。こんなペースで年をとろうものならあっという間に成人し、年老い、そして死にゆくことだろう。
「おい、アオト!早く魔法を使わんか!!」
「先生、アオト君には少々厳しいかと。初歩の初歩である灯火さえ使えない有り様では、ねぇ?」
魔法は、確かに強力だ。使いこなせれば、ね。
多くの魔法使いは自分達が魔法を使えるだけで、己こそが強者だと勘違いするが、案外そうでもない。中途半端に力を付けるから、増長する。
中途半端な魔法なら、鍛え上げられた肉体の方がよっぽど強力でなにより実践で生き残りやすい。
...まあ、自分で言うのもなんだが、詭弁だ。確かに生き残りやすいのだが、確実性はない。術者に接近するのだ、死ぬリスクも推して然るべきだ。
その点魔法は集団戦において最強だ。遠くからバンバンするだけで10や20の命が簡単に散る。俺も、いや誰でも死ぬだろ。あれこそ魔法の強みなのだから。
「......『奔流せし水の息吹き』!!」
体に魔力を巡らせ、その言葉をトリガーに膨大な量の魔力が外へと飛び出す感覚と共に多大なる疲労感を覚え、フラりと目眩がする。...否、目眩がする、そう思った頃には既に遅く。俺の体は重力に負け、地面に熱い包容をしていた。
途端に沸き起こる失笑と嘲笑の嵐。それがどこか心地よく感じるくらいには俺も疲れているらしい。
これが何度目かの気絶か、数えるのもダルくなってきたのだが、のべ153回目ってところか。いや、神隠しの間にも何回かあったはずだから.........
意識は闇に落ちた。
ありがとうございました。