95話
「さて、やるか」
俺がそう言うと、アイリスが聞いてくる。
「え、やるって何を?」
「さっき言ってた裏切り者に会いに行くのさ」
「え、裏切り者が誰か分かったの!?」
今度はパトリシアが聞いてくる。
「ああ。かなり前から気になってたやつがいたんだよ。それで、クラウスターさんにその魔族について調べてもらってたんだ」
「そんな事をしていたんですか」
ノセレさんは驚いている。
「その裏切り者って誰なんですか?」
メイリーが聞いてくる。
「それは人間界の様子を探っている魔族の方々です」
「何ですって!?」
「え!?」
「そんな!?」
パトリシア達は驚いている。
「確か、一族で人間界の様子を探っているんですよね?」
「はい。その方々が、今まで偽の情報を魔王様に渡していたようです」
「今まで気がつかなかったんですか?」
ヨセリアさんがそう言う。
「歴代の魔王様は人間と関わろうとしませんでしたから、特に違和感を感じなかったのでしょう。しかし、今回難波様が違和感を指摘してくださいました」
クラウスターさんは俺の方を向いて言う。
「それから難波様、魔王様がお呼びです」
「分かりました」
俺は頷き、ドアの方へ向かう。
「ま、待って!」
そこで、アイリスが俺を呼び止める。
「どうしたんだ?」
「私も行く!」
「え、でも……」
「行くから!」
そう言ってきた。
仕方ない……
「クラウスターさん、いいですか?」
「ええ、構いません」
「それなら私も行くわ」
「私も行くわね」
「私も!」
「私もお供します」
え、みんな行くのかよ!?
「ええ、構いませんよ」
いいんですか!?
「……分かったよ、それじゃあ行こう」
俺がそう言うと、みんな頷く。
そうして、俺達は魔王の所に向かったのだった。
俺達はクラウスターさんに案内され、魔王がいる部屋の前まで来た。
この部屋、来た事がないな。
俺がそう思っていると、クラウスターさんは俺達に言う。
「こちらです」
そう言って、ドアを開けるクラウスターさん。
「中へどうぞ」
そうして、俺達は中へ入る。中には、魔王とエルフィーさんがいた。
「待っていたぞ」
そして、魔王がそう言って来た。
「それで、裏切り者は……」
俺がそう言うと……
「そう焦るな。先ずはこれを見て欲しい」
そう言って指差すのは……
「これは?」
「絵画?」
そう、アイリスの言う通り絵画だ。
「これがどうかしたんですか?」
「難波レイ、君の先程の力だが……」
魔王は恐らく、俺の王の力の事を言っているんだろう。
「王の力の事ですか?」
「王の力と言うのか。それは、どこで習得した?」
前の世界で、何て言えないよな。
俺は適当に誤魔化す事にした。
「何か変な夢を見て、突然出来るようになりました」
「そうか……」
何とか今のでいけたか。
実際、王の力は前のVRの世界で習得したものだ。あの後、俺はあの世界でだけ使える力なのかどうかを試した。結果、他の世界でも使える事が判明したのだ。
そして、俺は王の力について調べた。そして、王の力にはどんな効果があるのかと言うと、俺の敏捷を通常の1.5倍程に引き上げてくれる事が分かった。
「それでは、君はこれの意味が分かるか?」
そこで、魔王が聞いてくる。
魔王が指差すのは、絵画の下に書いてある文字だった。
そこには、こう書いてある。
『我、手にするは魔王の力』
『闇を纏い、光を飲み込む』
『我が魂、その力を使い』
『暗く深い闇の深淵へと葬り去る』
そう書いてあった。
……おいおい、これって……
俺はそれを読んで、理解した。
これは、魔王の力を得るための呪文だ。
まさか、そんなものまであるなんて……
「どうだ、理解できたか?」
そこで、魔王が聞いてくる。
「ええ、まあ。それより、あなたはこれを唱えたんですか?」
俺はそう聞く。魔王なら、この呪文を唱えていても不思議じゃない。
「いや、私には何も起きなかった。原初の魔王が、この呪文を残したのだが、歴代の魔王は皆、これを唱えても何も起こらなかった」
原初の魔王か……
「リベレイト」
俺は刀を出し、目を瞑る。
そして……
「我、手にするは魔王の力」
「闇を纏い、光を飲み込む」
「我が魂、その力を使い」
「暗く深い闇の深淵へと葬り去る」
「サタン・ソウル・ドライブ!」
その瞬間、俺の体を闇が覆う。
「あ、あなた……」
「これは……」
「レイ!?」
「え、難波君!?」
「お姉様!」
「何が起こったの!?」
「パトリシア様、メイリー様、離れてください」
みんなが慌てる。
そして、次第に闇が晴れていき……
「……これが、魔王の力……」
俺は黒色の光を纏い、黒色のマントを羽織っていた。そして、刀は黒色に染まっている。
「レイ、それ……」
アイリスが心配そうに俺を見てくる。
「アイリス、どうしたんだ?」
「いやいや、それはこっちが言いたいわよ」
俺がそう聞くと、ヨセリアさんが言ってきた。
「これは魔王の力だよ。俺の王の力と同じものさ。王の力を使った姿が王化、魔王の力を使った姿が魔王化ってとこかな」
俺がそう言うと、みんな絶句していた。
「……まさか、人間が魔王になるとは……」
「そう言われても……まあ、そんな事もありますよ」
俺はそう言う。
「また強くなったの?」
パトリシアがそう聞いてくる。
「……正直、分からない。少し試してみるか」
俺は刀を鞘から抜き、構える。
そして、刀を振るった。
しかし……
敏捷じゃないな。
全然刀の振りが速くない。
それなら……
「アイリス、剣を出して俺の攻撃を受けてくれ」
「え……分かった」
少し悩んだ後、剣を出すアイリス。
「行くぞ」
俺はアイリスに向かって、刀を振るう。
ガキイィィィン。
刀と剣がぶつかる。
攻撃力が上がったわけでもないか。
「アイリス、今度は攻撃してくれ」
「え、いいの?」
「ああ。本気でいい」
俺は刀を構える。
アイリスも剣を上段に構える。
「行くよ!」
そして、剣を振り下ろした。
俺はそれを刀で受ける。
ガキイィィィン。
「え!?」
「……成る程」
やっと分かった。
「ありがとう、アイリス」
「え、う、うん」
「どうしたの?」
パトリシアが聞いてくる。
「ああ、この魔王の力はな、防御力に秀でているようだ」
「防御力に?」
「そうだ。さっきのアイリスの攻撃、普段なら俺が弾き飛ばされていた。それなのに、攻撃を受けてもビクともしなかった」
「うん、私も本気で剣を振るったんだけど、全然押し込めなかった」
アイリスもそう言う。
これだと、この魔王の力は防御力を1.5倍程に上げてくれるという事になるな。
そうして、俺は魔王の力を手に入れたのだった。
俺は魔王と一緒に、城の地下にある牢獄へと来ていた。
「ここに捕らえてある」
魔王はそう言って、明かりをつける。
そこには、この間この城を訪れた魔族がいた。
「こいつに全部吐かせた。こちらの事は任せろ」
魔王はそう言う。
「分かりました。それじゃあ、俺は人間界の方に向かいます」
「よろしく頼む」
そうして、これからの方針は決まったのだった。
夜。
俺の部屋にアイリスが来ていた。
「ねえ」
「ん?」
「その……やっぱり、私じゃ駄目?」
そう聞いてくる。
「……ごめんな」
「あ、ううん、こっちこそごめんね」
アイリスはそう言う。
……やっぱり、悪い気がするな……
俺はそう思い、俯いているアイリスを抱きしめる。
「え!?」
「付き合う事は出来ないけど、これぐらいはな」
俺はアイリスの頭を撫でた。
「俺のために魔界まで来てくれて、ありがとな」
「……もう、絶対にいなくならないでね」
「ああ、約束する」
そうして俺が頭を撫でていると、アイリスは寝てしまった。
疲れてたんだな……
俺はアイリスをベッドに寝かせた。
さて、明日から忙しくなるな……
俺はそう思いつつ、窓から外を見ていた。




