93話
「あれは……」
「あなた、何か知ってるの?」
「あの姿は、魔界に伝わる伝説と酷似している」
「え、伝説ってあの!?」
魔王とエルフィーの2人が言っているのは、魔界で語り継がれる伝説だった。
その伝説とは、原初の魔王についてだ。原初の魔王については色々と書かれているのだが、中でも目を引くのは、魔王が纏っていたという闇だ。
その闇と、レイの纏っている光がとても似ているのである。
「……これは、後で確認しなければならないな」
魔王はそれ以上は何も言わず、真剣にレイの事を見るだけだった。
「……あれは一体何かしら?」
「分かりません。でも、綺麗です」
パトリシアとメイリーは、レイが纏う光を見てそう漏らすのだった。
「これはまずいのかしら?」
アイリスを応援しているケーナは、レイがパワーアップしたのだと気づいた。
「頑張りなさいよ、アイリス」
それでも、アイリスを応援するのだった。
「さて、行くぜ」
俺はその瞬間、一気に走り出す。
「えっ」
アイリスが気付いた時には、既にレイはアイリスの懐に入っていた。
そして……
「はっ」
俺は斬撃を放つ。
「がはっ!」
それに対して、アイリスは避ける事が出来ずに食らってしまった。
そのまま俺は追撃をする。
アイリスはそれを何とか避けようとするが、俺があまりにも速すぎて避けられず、また攻撃を食らう。
「ぐうあっ!」
そして……
「これで最後だ」
俺はそう言って体を半身にし、左手を後ろに引く。
そして、そのままアイリスの胸目掛けて突きを放った。
「心証流秘剣ー楔」
「ぐはっ!」
突きを食らったアイリスは、そのまま倒れる。
俺は倒れるアイリスを受け止める。
「アイリス、俺の勝ちだ」
俺はそう言って刀を鞘に納める。
こうして、俺とアイリスの勝負は終わったのだった。
俺はアイリスを部屋に寝かせ、そのまま部屋で待機していた。
そして暫くすると……
「うう……」
アイリスが起きた。
「あ、起きたな。大丈夫か?」
俺がそう言うと、アイリスは目を擦りながらこっちを見る。
「レイ……あっ!」
そこで思い出したようで、ガバッと起き上がる。
「私、負けたの?」
「ああ、そうだ。勝負は俺の勝ちだな」
「そんな……それじゃ、レイは人間界に戻って来ないって事に……」
俺がそう言うと、アイリスは今にも泣きそうな顔で言う。
「あー、まあやる事が終わったら戻るよ」
「え、本当!?」
「ああ。まさかそんなに心配されてるとは思ってなかったからな。もう帰らないつもりだったんだが……」
「そんなの駄目だから!絶対に帰って来てよね!」
「ああ、分かってるって」
「本当かなあ」
そう疑うなよな。
「あ、でも俺が勝ったんだし、当分はここにいてもらうからな」
「ええ!?」
「何驚いてんだよ。そういう約束だろ?」
「え、そ、それは……そうだけど……」
「心配するなって。俺がいるし、ここの魔族は本当に悪いやつじゃない。だから、安心してくれ」
俺がそう言うと、アイリスは少し悩み……
「……分かった」
最終的に了承してくれたのだった。
その後、俺とアイリスは部屋を出た。
そしてみんながいる部屋へと向かう。
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だって」
「でも魔族でしょ?」
「そうだけど、本当に大丈夫だから。それに、俺の考えが正しければ、この世界はとても単純な理由で人間と魔族の間に溝が出来ているはずなんだ」
「え、それってどういう事?」
「まあ、後で話すさ……さあ、着いたぞ」
俺達は部屋の前に来た。
コンコンコン。
俺はドアをノックする。
「俺だ」
そう言うと……
「どうぞ」
中から返事があったので、俺はドアを開ける。
「ほら、入って」
「うん」
そうして、俺達は中に入る。
「あ、アイリス、起きたのね」
アイリスの友人であるヨセリアさんが、こちらに来る。
後ろからパトリシア達もついて来た。
「ケーナ!大丈夫だった!?」
「え、何が?」
「何って、魔族と一緒にいたんでしょ!」
「あー、それなら大丈夫よ。私達、仲よくなったの」
「ええ、ケーナはとても面白い話を聞かせてくれたわ」
「話を聞いているうちに、私も人間界に行ってみたくなりました!」
パトリシアとメイリーもそう言っている。
ヨセリアさんって、意外に大物か?
俺がそう思っていると……
「ケーナまで……でも、魔族は……」
「アイリス、私達の見識が全てじゃないわ。だから、それを確かめに難波君は魔界に来たんでしょう?」
ヨセリアさんがそう聞いてくる。
「ああ、そうだ」
「それで、何か得られたものはあった?」
「まあな」
「そう……それじゃあ、謝って」
「……え?」
突然謝ってと言われ、困惑する。
「だって、勝手に出て行ってアイリスを悲しませて、私達が魔界まで来たのに帰らないって言いだすんだもの。アイリスがどんな気持ちでいたのか、分かるでしょ?」
そう言われて、俺は少し反省する。
やっぱりアイリスには心配かけたか……
「だからあの時言ったじゃない。ちゃんと説明しなくてよかったのって」
パトリシアもそう言ってくる。
「いや、まあそうだけど、アイリスに説明しても分かってくれないだろ?」
俺がそう言うと……
「言ってくれた方がよかったよ」
「え?」
「その方が、勝手にいなくなられるよりいいに決まってるじゃない!」
急にアイリスが怒鳴ってきた。
「私、すごく落ち込んで、心配して……色々考えたんだから!それでケーナに相談して、魔界までレイを追いかけて来て、折角会えたのに帰らないって何なの!?」
「お、おい、アイリス?」
「それに魔族の女の子と仲よくなってるし、本当に何なのよ!」
「え、えっと、取り敢えず落ち着いて……」
「落ち着いていられないよ!」
これはかなり怒ってるな……ここは素直に謝ろう。
「アイリス、俺が悪かった。だから許してくれ」
まあ、悪いのは俺だからな。
「許さない!」
「ええ!?」
許してもらえなかった。
「難波君、その謝り方はどうかと思うわよ」
ヨセリアさんにそう言われてしまう。
た、確かに謝り方に問題があったな。
俺は再度、気持ちを込めて謝る。
「アイリス、本当にごめん。この通り、許して欲しい」
そう言って、頭を下げる。
「……分かったわ。でも、条件があるわ」
「条件?」
「ええ。まず、もう絶対に勝手にどこかに行かない事」
「分かった」
「それから、何かあった時は私に相談する事」
「分かった」
「最後に、私と付き合って」
「分かっ……え?」
「何、嫌なの?」
え、何でそんなに睨んでくるの?
「アイリス、ここで言うんだ……」
「え、今のって、告白の流れだったかしら?」
「ちょっと!それは駄目よ!」
アイリスの発言にヨセリアさんは呆れ、パトリシアは疑問を抱き、メイリーは怒っていた。
それよりも……
「付き合うって、その、そう言う事だよな?」
「ええ、そうよ」
付き合うか……
「アイリスは、俺の事好きだったのか?」
「え、今頃!?」
「レイ、流石にそれはないわよ」
「レイ様って、かなりの鈍感?」
3人にもそう言われてしまう。
「い、いや、そうじゃなくて、俺はてっきりアイリスは俺の事を家族のように思ってくれてると……」
「ないわ」
「駄目ね」
「レイ様……」
3人に呆れられてしまう。
え、これって俺が悪いの?
「そうよ!私はレイの事がずっと好きだったんだから!」
アイリスもそう言う。
マジか……それなら、ちゃんと返事しないといけないな。
俺は真剣な顔で、アイリスを見る。
「アイリス」
「は、はい」
俺の雰囲気の変化を察してか、アイリスも少し緊張する。
「俺の事を好きになってくれて、ありがとう。でも、俺はアイリスと付き合う事は出来ない」
「え……どうして?」
ここは、誤魔化さずに言うか。
「……俺には、好きな人がいるんだ」
「嘘……」
「え、それ本当なの?」
「そうだったの」
「レイ様!?」
アイリスだけじゃなく、3人も驚いている。
「……誰の事が好きなのか、聞いてもいい?」
アイリスはそう言ってくる。
「……アイリスは知らない人なんだ。いや、アイリスだけじゃない、ここにいる誰も知らない人だ」
「そう……なんだ……」
「ねえ、その人って今どこにいるの?」
興味が湧いたのか、パトリシアが聞いてくる。
「……もういない」
「え……」
「その人はな、もう亡くなったんだ」
俺はそう言って、その人……理亜の事を話し出した。




