86話
試合が終わると、俺はバフィト君に手を差し出す。
「立てる?」
俺がそう言うと、バフィト君はこっちを向いて……
「あ、はい。大丈夫です」
そう言いつつ、俺の手を取って立ち上がった。
「難波さん、とても強かったです」
「ありがとう。でも、バフィト君も中々よかったよ。盾の扱い方もかなりのものだった」
「あ、ありがとうございます」
俺がそう言うと、バフィト君は嬉しそうにする。
「また試合しよう」
俺がそう言って、手を差し出すと……
「はい!」
バフィト君もそう言いつつ手を出して、握手する。
「あなた、中々強いのね」
そこで、学園長が声をかけてきた。
「いえ、まだまだですよ」
俺がそう言うと、学園長は苦笑する。
「それでまだまだって、どんだけよ」
いや、本当にまだまだだと思う。
実際、俺はまだ使いこなせていない剣技もあるしな。
やっぱり才能がないからなのか?
俺が自分の才能を疑っていると、学園長は次の対戦相手を呼ぶ。
「さあ、次はあなたよ」
その言葉とともに上がって来たのは……
「レイ様、私がお相手いたします」
何と、メイリーだった。
「彼女の事は知ってるでしょ。彼女はかなり強いわよ」
学園長はそう言う。
確かに、メイリーは強い。この間の剣筋は中々のものだったからな。
「ええ、知ってますよ」
俺は学園長にそう言って、メイリーの所に行く。
「メイリー、君と戦うのは2度目だな」
俺がそう言うと、メイリーは少し俯き……
「はい……あの時はすみませんでした」
そう言って謝ってくる。
しまった、余計な事を言ったか。
俺は自分の失言を反省しつつ、メイリーに声をかける。
「ごめん、別に攻めるつもりじゃなかったんだ」
「でも、あの時はレイ様の話も聞かずに、攻撃してしまって……」
メイリーはそう言う。
仕方ない、こうなったら……
「メイリー」
「……はい」
「俺が欲しいのは、謝罪の言葉じゃない」
「じゃあ、どうすれば……」
「簡単だよ、メイリーの本気を見せてくれ」
「え……」
「俺が成績優秀者全員と試合したいって言ったのは、強いやつと戦いたいからだ。だから、メイリーも本気で俺に向かって来てくれ。それで、あの時の事は水に流そう。俺の頼み、聞いてくれるか?」
俺がそう言うと、メイリーは俺を真っ直ぐ見てきて……
「はい!」
そう返事をしてくれた。
「ありがとな」
「あっ……」
俺がメイリーの頭を撫でると、メイリーは顔を赤くする。
その瞬間……
うおっ、何か殺気が……
そう思って周りを見ると、男子生徒の射殺すような視線が俺に向いていた。
しまった。メイリーって可愛いから、男子が放って置かないよな。
それなのに、俺はメイリーに気安く触ってしまった。
やばい、このままだと男子生徒が俺の敵に……
そう思っていると、学園長が声をかけてきた。
「あんた、後で大変よ」
そう言って笑う学園長。
おい、楽しそうにするなよ。
そう思い、学園長を睨む。
「ほら、早く試合するわよ」
しかし、それを無視して試合を始めようとする。
くそっ、何でこんな事に!
俺はそう思いつつも、試合があるので一旦考えるのをやめる。
「はあ……メイリー、よろしくな」
俺がそう言うと、メイリーは元気よく頷いてくれる。
「は、はい!」
その返事を聞いて、俺はメイリーと距離を取るため歩き出す。
そして位置に着くと、メイリーは武器を出す。
「それじゃあ準備はいい?」
「はい」
「ええ」
「それじゃあ始めて」
そう言われて、俺は走り出す。
一気に行くぜ。
メイリーはその場で構えている。
そうして、俺とメイリーとの距離はどんどん縮まって、遂にお互いの距離は2メートル程となった。
「はっ!」
その瞬間、俺は刀を上段に構え、一気に振り下ろす。
しかし、それをメイリーは横に飛んで躱す。
だが、俺もすぐにメイリーが飛んだ方へと走る。
そして、再び上段に構えた刀を振り下ろす。
しかし、それも後ろに飛んで避けられてしまう。
そこで一旦仕切り直しとなった。
これも避けられるか……
分かってた事だが、やっぱりメイリーは強い。
「レイ様、全力で参ります」
メイリーはそう言ってくる。
「ああ、来い」
俺はそう言って、刀を構える。
その瞬間、メイリーが一気にこちらに来た。
そして、上段に構えた剣を振り下ろしてくる。
俺はそれを刀で受け止める。
ガキイィィィン。
パワーはそこまでないな。
俺はメイリーの剣を受け止めると、そう思った。
そこで、メイリーは鍔迫り合いを避け、後ろへ飛んで距離を取る。
そしてすぐにこちらに向かって来た。
今度は下段からの斬り上げを放ってくる。
俺はそれを刀で防ぐ。
そして剣と刀がぶつかると、メイリーの剣だけが弾かれた。
しかし……
成る程、そう来るか。
メイリーはすぐに剣を引き戻し、そのまま剣を振りかざして攻撃してくる。
俺はそれを刀で受けるも、メイリーはまた剣を引き戻して攻撃してくる。
メイリーはそうして何度も攻撃をしてくる。
気がつけば、メイリーのペースになっていた。
「やああああ!」
おお、これは速いな。中々のスピードだ。
しかも、メイリーの剣を振るうスピードは更に上がっていく。
すげえな、どこまで上がるんだ?
俺はそう思いつつ、メイリーの剣を弾いていた。
「すごいですね」
「ええ。あのメイリーの速度について行くなんて、本当に何て人なのかしら」
ノセレとパトリシアの2人は、レイとメイリーの試合を見てそう言う。
「確かに、あのメイリー様の速度について行ける方は、学園でも殆どいませんからね」
「それに、レイはまだ本気を出してない気がするわ」
「それは本当ですか?」
「確証はないわ。だけれど、何となくそんな気がするの」
2人はそう話しつつ、試合を見ていた。
俺は今、メイリーの剣を受けつつ、どう反撃するか考えていた。
ここからどうするか……
この剣の速さだと、既に俺の剣技では対処が難しくなっている。
このまま続けたら、恐らく体力の差で俺が勝つだろう。でも、それだと面白くないよな。
俺はそう考え、やはりここは剣技を使う事にした。
よし、あれをやろう。そうなると、タイミングが重要だな。
俺は使う剣技を決め、極限まで集中する。
そして、メイリーの剣を弾き、続けて攻撃が来たタイミングに合わせる。
今だ!
俺は剣がギリギリ体に当たらないよう、剣の動きに合わせて体をずらしていく。
そして、メイリーが剣を振り終えた時、俺は最小の動きでメイリーを斬りつける。
「心証流秘剣ー調」
「ぐうっ!」
その瞬間、メイリーは倒れてきたので、俺は受け止める。
「大丈夫か?」
「……はい、何とか……」
俺が聞くと、メイリーは痛そうにしながらもそう答えてくれた。
「はい、そこまで」
そうして俺とメイリーの試合は、俺の勝ちで終わったのだった。




