80話
「こちらでございます」
そうして、俺達は魔王がいる部屋へ案内された。
コンコンコン。
「パトリシアお嬢様をお連れいたしました」
すると……
「入れ」
中からそう返事があった。
クラウスターさんはドアを開ける。
「どうぞ、お入りください」
俺達は中に入る。
中はとても広く、天井も高かった。
そして奥に椅子が2つあり、その1つに魔族が座っていた。
あれが魔王か……
中々のオーラを纏っている。顔は厳つく、とても怖そうだ。
「パトリシア、こちらに来なさい」
「……はい」
パトリシアは魔王に呼ばれ、歩いて行く。
「私達も行きましょう」
「あ、はい」
ノセルさんにそう言われたので、俺は頷く。
俺とノセルさんもパトリシアの後ろをついて行く。クラウスターさんはドアの所で、そのまま待機するようだ。
そして、魔王の前まで来た。
「パトリシア、勝手に城を抜け出すとはどういう事だ?」
「すみません、お父様」
パトリシアはそう謝る。
「私達や城のメイド達がどれだけ心配したと思っている。出ていく前に、私やラナに相談くらいしてもよかったんじゃないか?」
「はい、すみません」
そうして、暫くそんなやり取りが続き……
「分かったか?」
「はい」
そうして、説教は終わった。
え、もう終わり?
俺がそう思っていると、ノセルさんが説明してくれた。
「魔王様は、パトリシア様がどうして城を抜け出したのか、理由を知っておられる。だから、怒るに怒れないんです」
そう説明してくれる。
理由って何だ?
俺が考えていると……
「それで、そこにいる人間が、魔族を見逃した人間か?」
「はい」
魔王が聞き、パトリシアが答える。
「人間、名は?」
そう聞いてくる魔王。
「難波レイです」
俺は名乗る。
「難波レイか。私はノーゼス、魔王だ。そして質問なのだが、君はどうして魔族を見逃した?」
それに対して、俺は……
「殺す理由がなかったからです」
そう答える。
「君達のところに襲撃したんだ。殺す理由はそれで十分だと思うが?」
「でも、魔族を助けに来たって言ってました。それなら、悪いのはこっちですよ」
「それが嘘だと思わなかったのか?」
「もちろん、その可能性もありました。でも、それが嘘だとは思いませんでしたよ」
「……どうしてだ?」
「ただの感ですよ」
俺がそう言うと、魔王は少し驚いたようだ。
「……感か……」
「ええ」
「……面白い」
魔王はそう言って、笑ったのだった。
すると……
バンッ!
勢いよくドアが開いた。
「お姉様!」
そして、2人の魔族が入って来た。
1人はパトリシアによく似た女の子で、先程の発言からパトリシアの妹だと思われる。
そして、もう1人は大人の女性で、落ち着いた雰囲気を纏っている。
「メイリーじゃない」
メイリーと呼ばれた少女はこちらに走って来て、パトリシアに抱き着く。
「もう、お姉様ったら勝手にいなくなって!本当に心配したんだから!」
「ごめんなさい」
パトリシアはそう言って、その少女の頭を撫でる。
すると、大人の女性の魔族もこちらにやって来た。
「パトリシア、本当に無事でよかったわ」
そう笑顔で言う。
「ごめんなさい、お母様」
パトリシアがそう謝る。
やはり、この人がお母さんか。
そして、2人とも俺の存在に気づく。
「え、人間!?」
「あら」
2人とも驚く。
「え、どういう事、お姉様!?」
「やっぱり人間界に行っていたのね」
お母さんの方は事情が分かっているようだ。
「人間を連れて来るなんて、どういう事なの!?」
一方、メイリーと呼ばれた少女は驚いている。
「実はね……」
そうして、パトリシアがこれまでの事情を話す。
パトリシアが話し終えると……
「何て危ない事をするの!」
そう怒った。
「人間界なんて危ないだけよ!それに加えて、こんな人間と一緒だなんて!」
「レイは大丈夫よ」
「大丈夫なわけないでしょ!人間は危ないって、常識よ!」
そう言って聞かない。
「本当に大丈夫だから。あ、紹介するわね。私のお母様と、妹のメイリーよ」
「初めまして、難波レイです」
「初めまして、パトリシアの母のエルフィーです」
パトリシアのお母さんであるエルフィーさんは、そう返してくれる。
「自己紹介なんてしなくていいわよ!あんたも、名乗らなくていいわ!」
しかし、妹のメイリーさんにはそう言われてしまった。
「メイリー、失礼よ」
「だって、人間よ!そうだ!ノセレ、やっつけちゃって!」
「いえ、流石にそれは……」
ノセレさんも困っている。
「もう、みんな何で人間がいるのに平気なの!?」
そう怒り出した。
「こうなったら、私がやるわ!」
そう言って、剣を出してこちらに向かって来た。
「あ、メイリー!」
「やめなさい!」
パトリシアとエルフィーさんの制止を聞かず、こっちに来る。
元々、距離が3メートル程しかなかったため、すぐに接近される。
そして、剣を上段から振り下ろしてきた。
仕方ない……
俺は刀を出して、それを受け止める。
「なっ!?」
俺が受け止めた事に少し驚いたようだが、すぐに次の攻撃を放ってくる。
俺はそれを全て刀で往なす。
「すごい……」
「あのメイリー様の剣を、あんな簡単に捌くなんて、とても信じられません……」
パトリシアとノセレさんがそう言う。
確かに、このメイリーって子は中々筋がいい。学園の生徒よりも、確実に強い。
しかし……
まだ粗さがあるな。
俺はそう思っていた。
中々筋はいいが、どうもまだ隙が多い。
「やあっ!」
俺は大振りの攻撃を後ろに飛んで躱す。
「躱すばっかりじゃない!ちゃんと戦いなさいよ!」
なぜか怒られてしまう。
参ったな。この子も魔王の娘だし、あまり攻撃したくないんだが……
そう思うも、このままじゃ埒が明かないのも確かだ。
仕方ないな……
俺は刀を正眼に構える。
「やっとやる気になったわね!」
そう言って、こちらに走って来る。
「やああ!」
そして、剣を上段から振り下ろす。
それを俺は刀で受けず……
「え……」
そのまま食らった。
痛い……だが、耐えられない程じゃない。
「な、何で受けたのよ……」
そう聞いてくる。
「何だよ、俺をやっつけるんじゃなかったのか?」
俺はそう聞く。
「そ、そうだけど……でも、何で……」
どうも、俺が攻撃を食らった事が信じられないようだ。
「ここで俺が君を倒したら、ここに来た意味がなくなるからな」
そう言って、俺は彼女の頭を撫で……
「俺は、魔族の敵じゃない。信じてくれ」
そう言う。
すると……
「え、あ、はい……」
素直な頷いてくれた。
よかった、何とか信じてくれたか。
どうやら、意表を突いた作戦は成功したようだ。
すると……
「レイ、大丈夫!?」
パトリシアがこちらに来た。
「ああ、何とかな」
俺はそう答える。
「もう、メイリーったら、駄目でしょ!」
「ご、ごめんなさい……」
「ああ、そんなに怒らないでやってくれ」
「え、でも……」
「俺は大丈夫だし、彼女の行動は間違ってない。だから、怒らないでやってくれ」
「……分かったわ」
俺がそう頼むと、パトリシアは渋々頷いてくれた。
そうして、何とかその場はそれで収まった。
「そうだわ、そろそろご飯の時間だし、難波さんも一緒にどうかしら?」
「え?」
突然エルフィーさんが、そんな事を言い出す。
「ねえ、あなた」
「そうだな」
なぜか魔王もオッケーを出した。
「親交を深めるために、一緒に食べましょう」
「は、はあ」
俺はそんな返事しか出来なかった。




