7話
人気のない所へ来た。周りは森になっているが、そこは急勾配の坂のようだ。そっちには近づかず、ここで少し隠れていよう。
担いでいた理亜を地面に座らせる。
「お父さん……お母さん……」
理亜は今も泣いている。そりゃそうか。目の前で両親が銃で撃たれたんだから。こんな時、なんて声をかけたらいいんだ?
「理亜……」
その時だった。
バン!
「うっ!」
「え?」
痛い!見れば俺の右腕が撃ち抜かれていた。
「こんな所にいたのか」
そう言って男が後ろから歩いて来た。
「見張りのやつがこっちに来たって言ってたが、本当だったみたいだな」
男はこちらに銃を向けた。
「理亜!」
「!?」
俺は理亜を抱えて跳んだ。
バン!
そして、一瞬後に俺達がいた所に銃弾が飛んできた。
危なかった……いや、まだか……
「逃げんじゃねえよ」
そう言って男は近づいて来た。
「理亜、俺が囮になる。だからお前は逃げろ」
「何言ってるの!?そんなの駄目だよ!」
「このままじゃ、2人とも殺される。お前だけでも逃げろ!」
「駄目よ!そんなの絶対駄目!」
「うるせえぞ」
男はそう言って銃をこちらに向けた。
「じゃあな、理亜」
「!?」
バン!
「ぐっ!」
今度は右肩を撃たれた!くそっ!痛えな!
「ちっ。さっさと死ね」
バン!
俺は転がって避ける。その際に森の近くまで来た。
くっ!意識が朦朧としてきやがった!
「じゃあな」
そう言って銃を向けてくる。ここまでだな……
「レイ君!」
「!?」
理亜が俺の方に来た。そして俺を押し倒して……
バン!
「きゃっ!」
そのままの勢いで俺達は森の方へ転がった。
「くそっ!」
今、俺達は森にある坂を転がってる。何とか理亜を護っているが、このままだとやばい。
「!」
そう思っていると、蔦があったのでそれを掴む。すると何とか止まった。
「理亜、大丈夫!?」
「……レイ……君」
見ると、理亜は胸から血を流していた。
そんな……
「理亜!しっかりしろ!」
「レイ君……無事……だった?」
「ああ、無事だよ!それより理亜の方が重症じゃないか!」
「よかっ……た……私は……もう……駄目……みたい……」
「そんな事言うなよ!俺が助けるから!」
頑張って止血を行うが止まらない。
「くそっ!止まれよ!」
「もう……いいよ……それ……よりも……早く……逃げて」
「何言ってんだよ!そんなこと出来ねーよ!」
「もう……強情……なん……だから」
「止まれよ!止まってくれよ!」
何で血が止まらないんだよ!
「レイ……君……私……ね」
「もう喋るな!」
「レイ……君……と……出会え……て……よかっ……た……よ」
「俺も出会えてよかったよ!てか、今そんな事言うんじゃねえ!」
今そんな事言ったら、今生の別れみたいじゃないか!
「そう……言って……くれて……嬉しい……な」
「ああ!だからこれからも一緒にいよう!これからだろ、俺達!」
「ごめん……ね……最後……に……聞い……て」
「謝るなよ!何が最後だよ!ふざけんなよ!」
「愛……して……る……よ」
そう言って理亜は動かなくなった。
「何だよ!何なんだよ!くそっ!くそっ!」
何で……こんな……
あの時もそうだった……
たった1人の女の子を助ける事が出来なかった……
今回もそうだ……
好きな女の子を……
好きだと言ってくれた女の子を……
俺は助ける事が出来なかった……
情けねえ……
俺は……
俺は!
「何やってんだよーーーーー!!!」
パキンッ!
何かが壊れた音がした。
その瞬間……
ブンッ!
腰の左右にそれぞれ1本ずつ刀が現れた。
何だ?これ?
見てみると鞘も刀も全て無色透明だった。
「これは一体……」
……そうか。これが魂の具現化か。
「……遅えよ」
本当に遅い……もっと早く出来ていれば……
「せめて、あいつらを倒す」
俺は理亜を抱えて、坂を駆け上がった。
俺はさっきの場所に戻って来た。しかし、もうあの男はいなかった。
「理亜、ここで待っててくれ。すぐ終わらせてくる」
理亜を地面に寝かせて、俺はテロリスト達を探しに行った。
「いた!」
人数は15人。見張りのやつも来ているみたいだ。
俺はその15人に向かって全速力で走った。魂の具現化の影響か、走る速度も途轍もなく速い。
「ふっ!」
近い所にいた男を刀で斬りつける。
「うわあ!」
ドサッ!
男は倒れた。
しかし斬られたというのに、血が出ていない。でも斬ったという感触はある。どういう事だ?
「……まあいい」
俺はそのまま次のターゲットに向かって行った。
「何だ?」
「まだ誰か残ってやがったみたいだな」
「殺せ!」
テロリスト達は俺の存在に気づき、攻撃してきた。
しかし、今の俺は普通の人間とは違う。速さで翻弄し、相手の攻撃は当たらない。その間に次々と倒していく。
「う、撃て!」
「駄目だ!速すぎて当たらねえ!」
そのまま倒していくと、とうとう1人になった。
「ん?」
見てみると、そいつは俺と理亜を撃ったやつだった。
「お前は!」
「お前、あの時のガキか!?」
「よくも!よくも!」
俺は力の限り刀を振るった。
「うわああ!」
そうして男は倒れた。
こいつだけは殺す!そう思った時だった。
「何だ?」
少し体から力が抜ける。そうか、血を流しすぎたのか。
「……こいつを殺すより先にやる事があるな」
俺は男を殺すのをやめて、理亜の所に向かった。
通りを歩いていると、壊れた家屋や死体をよく見かけた。ここの人達はみんな殺されたようだ。死体を見た時、思わず吐いてしまった。
理亜と理亜の両親の遺体を回収した俺は、理亜の実家でもある旅館の裏庭に来ていた。
「多分、ここがいいよな」
俺は、理亜と理亜の両親を埋葬するのにこの裏庭を選んだ。
そして埋葬が完了すると、最後に俺が買った理亜のペンダントを木の棒に括り付けて立てた。
それが終わると、俺もそろそろやばいのか、その場に座り込んだ。
「もう、駄目だな」
そのまま俺は意識を手放した。
「あれ?もう帰ってきたのかい?」
俺は意識を取り戻すと、そこには春日さんがいた。すごく久しぶりに顔を見たな。
「大丈夫かい?顔色が悪いよ?」
「……ああ、大丈夫だ」
「とてもそうは見えないけど、まあいいや。それよりもまだ1時間も経ってないよ。もう死んじゃったの?」
死んだ……そうか。俺は死んだのか。
「……そうみたいだな」
「そっか、分かったよ。それとね、君の脳がすごい事になってるよ」
「すごい事?」
「うん。君の感情を司る扁桃体が殆ど機能しなくなってる。その代わり、記憶を司る海馬がすごく発達してるよ」
「そうなのか」
「うん。もしかして、中でとんでもなく悲しい事や辛い事があった?それなら扁桃体の異常も納得いくんだけど」
「……そうだな」
理亜の事だろうな……
「そっか。海馬の方は何か忘れたくない記憶でも出来たのかな?」
「……そうだな」
これも理亜の事だろう……
「そっかそっか。君の脳は今、感情は殆ど失って、記憶力は爆発的に上がってるよ。それこそ、完全記憶能力を得たんじゃないかな」
「完全記憶能力……」
「うん。恐らく、もう君はこれから起こる事を忘れないんじゃないかな」
そんな事になってるのか。でもいいや。これで理亜との思い出も、俺の失態も全部覚えていられるんだから。
「どうする?今日はもう休むかい?」
「ああ、そうさせてもらうよ」
俺は自分の部屋に帰り、すぐに寝たのだった。