78話
場面は魔界に戻る。こちらでは、レイとパトリシアが魔界の主要都市であるゼディンへと向かうための準備をしていた。
「よし、これで食糧は大丈夫だな」
俺は村長さんから分けてもらった食糧を鞄に入れ、それを背負った。
「準備はいいかしら?」
「ああ、いいぜ」
パトリシアが聞いてくるので、俺はそう答える。
「じゃあ、行きましょうか」
「そうだな」
そうして、俺とパトリシアは部屋から出て階段を下りる。
そして、リビングへ行くと村長さんがいた。
「村長さん、私達はそろそろ行くわね」
そうパトリシアが村長さんに声をかける。
「ああ、パトリシア様に難波殿。それでは、村の出口までお送りします」
「ありがとう」
そうして、俺達は村長さんの家から出る。
そのまま村の出口まで歩くと、そこに村の魔族達が集まっていた。
「あ、村長!」
魔族の1人がこちらに気づき、みんながこちらを向く。
「パトリシア様、お気をつけて」
「体調管理は大事ですよ」
そう口々に村の魔族達は言う。
「ありがとう」
そんな村の魔族達に、パトリシアはそうお礼を言った。
そして……
「あの……」
俺に声をかけてくる魔族の男の子がいた。
「お兄さんは、人間なんでしょ?」
「ああ、そうだよ」
「人間って、僕達魔族をやっつけちゃうんでしょ?お兄さんもそうなの?」
そう聞いてくる。
見ると、村の魔族達やパトリシアまでもがこちらを見ていた。
「そうだな。人間は魔族をやっつける、それは本当だ」
「じゃあ……」
そこで俺は屈んで、男の子と目線を合わて言う。
「でも、俺は魔族をやっつけない」
「何で?」
「魔族の人達は、別に悪い事をしたわけじゃないだろ?それなら、何もしないさ。君も、悪い事をしなければ、お母さんに怒られないだろ?」
「うん」
「それと一緒だよ。他の人は違うみたいだけど、俺は何もしてない人をやっつける事はしないよ」
そう言うと、男の子は笑って言う。
「そっかー。お兄さんって、優しいんだね」
優しいか……
そこで、俺はふと思いついた事をやってみる事にした。
「マテリアライズ」
俺はそう言って、刀を出す。
「な、何だ!?」
「透明な剣!?」
「そんな事よりあいつ、武器を出したぞ!」
そう村の魔族は騒つく。今にも俺に攻撃してきそうだ。
「待って!」
そこで、パトリシアが待ったをかける。
「パトリシア様!?」
「待ってちょうだい。レイには、何か考えがあるんだわ」
流石パトリシアだ。
「君、名前は?」
「アゼール!」
「アゼールか」
そう言いつつ、俺は左の刀を鞘ごと外す。そして、アゼールにそれを渡す。
「これ、持って」
「え?」
「ほら」
「……うん」
そうして、アゼールは刀を持つ。
すると……
「うわあ!」
そんな反応を見せる。
「どうだ?」
「すごく綺麗だよ!それに、すごく暖かい!」
やっぱりか。
「レイ、あなた武器の実体化が出来るの!?」
「ああ」
「そうなの……それより、それはどういう事なの?」
パトリシアが聞いてくる。
「武器の実体化は、この世界のあらゆる物に触れる事が出来る。それなら、他人に渡す事も出来るんじゃないかって思ったんだ。そして、これは俺の魂だ。それに触れる事で、俺の事が少しは分かるんじゃないかって思ったんだ」
「そんな事が……」
まあ、普通はそんな事しないからな。
「それなら、私も触りたいわ」
「え、いいけど」
俺は今度は右の刀を鞘ごと外し、そのままパトリシアに渡す。
「……すごいわ、本当に暖かい。それに、とても綺麗だわ」
そう言いつつ、パトリシアは俺の刀をじっと見つめる。
「わ、私も触りたい!」
「僕も!」
「私も!」
そうして、小さい子達が触りたいと、俺の所に集まる。
「分かったから、順番な」
そうしているうちに、今度は大人も触りたいと言い出してきた。
断るのもどうかと思い、そのまま子供達と一緒に並んでもらう。
そうして15分程かけて、全員触り終わった。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
アゼールがそうお礼を言ってくる。
「ああ、いいんだよ」
「僕も、お兄ちゃんみたいな綺麗で暖かい剣を出せるように頑張るね!」
そう笑顔で言うアゼール。
「ああ、頑張れよ」
俺はアゼールの頭を撫でながらそう言う。
「うん!」
それに笑顔で答えるアゼール。
「おうおう、何してんだ?」
そこに、ジエンさんとシェーラさんが来た。
「ジエンさんにシェーラさん」
「遅くなって悪いな」
「すみません、これを用意していたもので」
そう言って、シェーラさんが俺に包みを渡してくる。
「これは?」
「サンドイッチです。ぜディンへ向かう途中、お腹が空いたら食べてください」
「ありがとうございます。助かります」
俺はそうお礼を言い、包みを鞄の中にしまう。
「気をつけてな」
「はい」
そして、パトリシアがこちらを向いて言う。
「それじゃあ、そろそろ行きましょう」
俺は頷く。
「パトリシア様、難波殿、お気をつけて」
そう村長に言われ、俺達は頷く。
「ありがとうございました」
「お世話になりました」
俺達はそう言って、村を後にした。
そうして村を出て5分程歩いた所で、俺はパトリシアに声をかける。
「そろそろ俺が抱えて走った方がいいな」
「そうね。それじゃあお願いするわ」
「分かった」
そうして、俺はパトリシアを抱える。
「そんじゃ、行くぜ」
そう言って、俺は走り出した。
そうして俺は走り続けた。
そして太陽が真上に来た辺りで、俺とパトリシアは昼食を取る事にした。
「これ、シェーラさんから貰ったサンドイッチだ」
「それは美味しそうね」
俺は包みからサンドイッチを取り出し、パトリシアに渡す。
「ほれ」
「ありがとう」
俺も自分の分を取り出して、そのまま食べる。
「うん、美味い」
「美味しいわ」
パトリシアもそう言って、美味しそうに食べていた。
そうして、俺達はサンドイッチを食べ終わり、少し休憩していた。
「ねえ」
「ん?」
「あなたは、このまま私と一緒にゼディンに行って、何をする気なの?」
パトリシアはこっちを見て聞いてくる。
「……何をするかって聞かれてもなあ。俺はただ、魔族の事を知りたいだけだし」
「でも、その後はどうするの?」
「その後?」
「そうよ。魔族の事を知って、それから何をするのか」
パトリシアは、少し期待を込めた目で見てくる。
恐らく、俺とパトリシアが初めて会ったあの日、俺が自分の考えを言わなかったから、改めて聞いてきたのだろう。
……まあ、ここまで来て隠す事でもないか。
「俺は、人間と魔族が友好関係を結べたらいいなって、そう思ってる」
「!」
パトリシアは目を見開き、すごく驚いている。
「それなら、私も協力していいかしら?」
パトリシアはそう言ってくる。
「私もずっと人間と友好関係を結びたいと思ってたの」
「……何でだ?」
「え?」
「何で、人間と友好関係を結びたいと思ったんだ?」
俺はパトリシアに聞く。
「それは、もうこんな世界は嫌だからよ」
「この世界が嫌か……」
「今、人間が魔族を攫っているのは知ってるでしょ?」
「ああ」
「その魔族を助けようとして、他の魔族が人間界に向かって、そのまま帰って来ない。そんなのはもう嫌なの」
そう言うパトリシアは、とても悔しそうな表情をしていた。
「……それで、人間と魔族の友好関係を結びたいって思ったのか?」
「そうよ」
「でもな、今生きてる人間も魔族も、みんなそうなればいいと思ってるわけじゃない」
「……分かってるわ」
「それでも、この世界を変えたいのか?」
「ええ」
「世界を変えようとすれば、反対する人も出てくる。もしかしたら、戦争が起きるかもしれない。それでも、やるのか?」
俺がそう聞くと、パトリシアは少し考え……
「それでも、やるわ」
そう言ったのだった。
「……分かった。それなら、一緒に人間と魔族の友好関係を結ぶために頑張ろう」
俺がそう言うと、パトリシアは一瞬目を見開くも、すぐに笑顔になって……
「ええ!」
そう言ったのだった。




