77話
少し時間は遡り、セントメイルにある国立グロリア学園。
その1年4組の教室で、1人の女の子が今までにない程落ち込んでいた。
その女の子こそ、レイが気にしていた女の子であるアイリスだ。
レイが姿を消してから、3日経った。
そして、レイがいなくなった次の日、学園にレイから退学届が届いた。
レイが退学したという情報は瞬く間に学園に広がった。しかし、その理由は定かになってはいない。攫われただの、魔族にやられただの、逃げ出しただの、色々な噂が飛び交っている。
しかし、アイリスだけは知っている。レイが魔族の女の子を抱えて、セントメイルから出て行った事を。
その事について、アイリスはこの3日間ずっと考えていた。
何で、レイは魔族の女の子と一緒にいたんだろう?
何で、レイは自分の前から姿を消したのだろう?
何で、レイは何も言ってくれなかったのだろう?
アイリスは、その答えをずっと考えていた。だが、皆目見当がつかない。
そうしているうちに3日が経ち、学園での授業には身が入らず、魔族討伐隊の訓練も休んでいた。
レイ……
昼休み。アイリスは1年4組の自分の席で、ずっと俯いていた。
当然、そんな事になっていれば、クラスのみんなも放っておけない。
「ラピスさん、大丈夫?」
「元気出して」
そうして、毎日クラスの女子が声をかけてくれる。
「うん、ありがとう」
そう返すアイリスの声はいつもと違い、とても小さい。
「ラピスさん」
そう言って、クラスの男子が1人、アイリスに近づく。
「元気出しなよ。あいつは、きっとこの学園の授業について行けなくなって、逃げ出したんだ」
そう男子は言う。
すると、他のクラスの男子もアイリスの近くに来る。
「そうそう。あいつ、大した事ないのに粋がってさ」
「だよな」
「そうだ。あいつ、逃げ出したんだよ」
「臆病者だな」
そう言って笑う男子達。
「ちょっと、そんな言い方ないでしょ!」
「そうよ!それに、逃げ出したかどうかなんて、分からないじゃない!」
女子はそう言うが……
「何だよ、じゃあ魔族にやられたか?」
「そ、それは……」
「それはそれでダサいよな」
「一丁前に魔族討伐隊なんて入ってんのによ」
「そう言えばあいつ、確か魔族を逃がしたって聞いたぜ」
「マジかよ!」
「役立たずじゃねーか」
また笑う男子達。
ガタッ!
アイリスは立ち上がり、そのまま教室を出て行ってしまった。
「ラピスさん!?」
「どうしたんだ?」
クラスの男子は分からないでいる。
「あんた達、最低よ!」
「本当、何でそんな事しか言えないのかしら!」
「な、何だよ……」
「俺達が何したって言うんだよ」
「そうだ」
そう言う男子達を、クラスの女子は白い目で見ていた。
「……」
そんな中、アイリスの親友であるケーナだけは、アイリスを追いかけるため、1人教室を出たのだった。
アイリスは泣いていた。
クラスの男子がレイの事を嫌っているのは知っていた。
でも、だからって何もあそこまで言わなくても……
走りながら、そう思っていたアイリス。
気がつけば、この学園に登校した初日に、レイとアイリスが昼休みにクラスのみんなから逃げるため、訪れた校庭の隅に来ていた。
アイリスはそこに座り込む。
「ぐすっ……何で、出て行ったの……レイ……ううぅ……」
そのまま、アイリスは泣き噦る。
すると……
「アイリス」
そこへ、先程教室を出てアイリスを追いかけて来たケーナが来た。
「ぐすっ……ケーナ……」
アイリスは顔を上げ、ケーナを見る。
「あーあ、何て顔してるの。そんなんじゃ、難波君に嫌われるわよ」
そう言うケーナに対し、アイリスは……
「……もう、嫌われたんだと思う……」
そう返した。
「難波君にそう言われたの?」
「……違うけど……」
「なら、分からないじゃない」
「……なら、何で出て行ったの……」
「私に聞かれても、困るわ」
そう言って、ケーナはアイリスの隣に座る。
「ねえ、全部話してよ」
「え……」
「難波君と何かあったんでしょ?」
「……何で分かるの?」
「これでも、アイリスの親友だからね。それぐらい分かるよ」
そう言うケーナは、とても優しい表情をしていた。
「話してみて。そうしたら、少しはすっきりするかもしれないし」
そう言われて、アイリスは少し悩んだ。
しかしこのまま1人で考えていても、何も変わらないと思い、ケーナに話す事にした。
「……実はね……」
そうして、アイリスは何があったのかをケーナに話す。
そして、5分程かけて話し終えた。
「そんな事があったのね……」
アイリスから話を聞いたケーナは、少し考えると……
「それなら、難波君は魔界に行ったのかもしれないわね」
「え……」
ケーナの発言に、アイリスは呆気に取られた。
「考えてみなさい。難波君は魔族の女の子を抱えてどこかに行ったんでしょう?なら、人間界にいるとは思えないわ」
確かにそうだ。人間界で魔族が見つかれば、すぐに国家戦士が派遣され、討伐される。
しかし……
「魔界に行くなんて、危険だわ……」
そう、魔族が人間界に来ると討伐されるように、人間が魔界に行くと、当然討伐されるだろう。
そう思ったのだが……
「でも、難波君には魔族の女の子が一緒なんでしょ?それなら、他の魔族を説得する事も出来るんじゃないかしら」
そう言うケーナの言葉には、確かに説得力がある。
「まあ、その魔族の女の子もお尋ね者の可能性はあるけどね」
そう付け加えるケーナ。
「……私、これからどうすればいいのかな……」
そう言うアイリスに、ケーナは……
「もちろん、追いかけなさいよ」
そう言った。
「好きな男がどこかに行ったなら、追いかけなさい。それで、勝手にどっか行くんじゃないわよって、一発ぶん殴ってやんなさい」
「流石にそれは……」
「それぐらいした方がいいのよ。それより、追いかけるの?追いかけないの?」
そう聞いてくるケーナ。
「追いかけるって、魔界に?」
「そうよ」
魔界に行くのは、とても危険だ。もしかしたら、レイはいないかもしれない。そうなれば、無駄に危険を冒しただけとなる。
でも……
「……このまま、ここで泣いてても何にもならないもんね」
そう言って、アイリスは決意する。
「私、魔界に行くわ」
そして、そう宣言したのだった。
それを聞いたケーナは……
「そうこなくっちゃ。私も行くわ」
「え!?」
ケーナの発言に、アイリスは驚いた。
「何驚いてるのよ。親友を魔界に行くよう嗾けといて、自分は学園で授業を受けるなんて出来ないわよ」
「で、でも危ないから……」
「そんなの、分かってるわよ。でも、行くわ。それに、私が結構強いの知ってるでしょ?」
そう、ケーナは1年生でもかなり強い方だ。だが、レイやアイリスと比べると劣ってしまう。
だが……
「大丈夫よ。一緒に訓練して、強くなりましょう。流石に、難波君みたいに強くなるのは難しいかもしれないけど、1ヶ月もあればある程度は強くなれるわ」
そう言うケーナの目は、真剣だった。
だから、アイリスは……
「……うん、分かったよ。一緒に頑張ろうね」
そう言って、右手を出す。
「ええ、もちろんよ」
ケーナも右手を出し、握手する。
こうして、アイリスとケーナはこの日から魔界へ行くため、厳しい訓練を積んでいくのだった。




