表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/277

76話

待つ事10分。

「出来たわよー」

そう言って、シェーラさんがキッチンから料理を運ぶ。

「手伝います」

「ああ、いいから。座ってて」

俺がそう言うと、シェーラさんは止めてきた。

「お客様なんだから、気を使わなくていいのよ」

シェーラさんは、そう言ってくれる。

俺はそう言われて、素直に従い座って待つ。

そうして、シェーラさんが色々な料理をテーブルの上に並べていく。

どれも見た事がない料理だが、とても美味しそうだ。

そうして並べ終わったシェーラさんが椅子に座り、俺達は料理を食べ始める。

「いただきます」

俺は最初にスープを飲む。

「美味え!」

「よかったわ」

俺がそう言うと、シェーラさんは嬉しそうだ。

「本当に美味しいわ」

パトリシアも料理の美味さに驚いていた。

「そうだろう」

ジエンさんも妻の料理が褒められて、とても嬉しそうだった。

「ここに並んでる料理のレシピを教えていただいてもいいですか?」

「ええ、いいわよ」

そうして、俺は料理のレシピを教えてもらう事になった。

その後も、俺達はシェーラさんの美味しい料理を夢中で食べたのだった。


「それでは、そろそろお暇します」

もう午後8時になる。料理を食べた後、俺達は少し話をしていた。

因みに、流石にいつまでもタメ口は悪いと思い、ジエンさんにも敬語を使う事にした。ジエンさんも、俺の事はレイと呼ぶ事にした。

「そうね。そろそろ帰った方がいい時間だわ」

パトリシアもそう言う。

「そうか。俺としてはもう少しいてくれてもいいんだがな」

「いえ、それは悪いですから」

「そうか」

「あなた、また明日も会えるじゃない」

「そうだな。まだ明日もいるんだろ?」

ジエンさんがそう聞いてくる。

「どうするんだ?」

俺がパトリシアにそう言うと……

「そうね……明日のお昼にはここを出るわ。ゼディンへは、出来るだけ早く行きたいから」

そう言った。

「ゼディン?」

「この魔界の主要都市よ。そこに魔王城もあるわ」

「魔王城?」

「この魔界を統べる魔王様が住む所よ」

パトリシアはそう説明してくれる。

魔王か……

「魔王って、どんな人物なんだ?」

「そうね、とても厳格な人だわ」

「そっか」

「パトリシア様はいいご両親をお持ちになった」

「ええ、そうね。魔王様と王妃様は、とても立派な方であらせられるもの」

ん?魔王の話で、パトリシアの両親が出るって……まさか!

「……なあ、パトリシア」

「何かしら?」

「パトリシアって、もしかして魔王の娘?」

俺がそう聞くと、パトリシアは……

「ええ、そうよ。言わなかったかしら」

そう平然と言ったのだった。

「いやいや、聞いてないから!?」

俺はそう言う。

だからみんなパトリシア様って呼んでたのか!

「何だ、知らずについて来たのか?」

ジエンさんがそう言ってくる。

「知りませんでしたよ……」

「それはごめんなさいね」

そう言うパトリシアは、全然悪いと思ってなさそうだ。

「まあ、いいけどな」

俺はそう言って、溜息を吐くのだった。


俺とパトリシアは、その後ジエンさんとシェーラさんにお礼を言い、村長さんの家に向かっていた。

どうやら、今日泊まるのは村長さんの家らしい。

「それで、そのゼディンまではどのくらいかかるんだ?」

「そうね。ここからだと、歩いて1週間かしら」

「そうか」

「あなたの速さなら、3日もあれば着くわね」

そうパトリシアは言う。

確かにその通りだ。その距離なら、俺がパトリシアを抱えて走れば、3日程で到着するだろう。

「そんじゃ、またパトリシアを抱えて走るか。途中で街や村はないのか?」

「残念だけどないわね」

「そっか」

それなら、この村で食糧を調達しないとな。

「ここよ」

そう考えているうちに、村長さんの家に到着した。

ジエンさんの家よりも大きく、中々立派な家だ。流石村長さん。

コンコンコン。

パトリシアがドアをノックする。

「はい」

すると、中から返事があった。

「村長さん、私です」

「その声はパトリシア様ですな。少しお待ちください」

そうして、10秒程して村長さんが出て来た。

「どうぞ、こちらです」

そう言って、俺とパトリシアを中に入れてくれる村長さん。

「こちらへどうぞ」

そう言って、村長さんは俺達を2階へ案内する。

「パトリシア様はこの部屋をお使いください。難波殿は隣の部屋を」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

俺とパトリシアは、それぞれ用意された部屋に入る。

部屋に入ると、ベッドと机と椅子だけがあり、他は何もない部屋だった。

「難波殿、少しよろしいですか?」

そう言って、開けっ放しのドアの向こうから村長さんが声をかけてくる。

「どうしました?」

「いえ、少しお話がありまして」

「分かりました」

そう言ってくるので、俺は聞く事にする。

「ありがとうございます。それでは、1階へどうぞ」

「はい」

俺は荷物を置き、部屋から出る。

そのまま村長さんと一緒に1階へ下りる。パトリシアは部屋に入ったままだ。

「こちらへ」

俺と村長さんは、リビングにある椅子に座る。

「それで、話とは何ですか?」

「改めてお礼を言いたいと思いまして」

「お礼?」

「はい。ジエンを助けていただき、ありがとうございます」

そう言って頭を下げる村長さん。

「いえ、別に助けたわけじゃありませんよ。ただ見逃しただけです」

俺はそう言うと、村長さんは頭を上げ……

「それでも、結果的にジエンは助かりました。それなら、この村の住人を助けていただいた事に変わりありません」

そう言ってきた。

「ですが……」

「あなたは村の住人を助けてくれた恩人です。それが、村に住む我々の認識です」

村長さんはそう言う。

「……そうまで言われては、こちらとしてもそういう事にしておきましょう」

仕方なく、俺はそう言うのだった。

「ありがとうございます」

再度、村長さんはお礼を言ってくる。

「あら、こっちにいたのね」

そう言って、2階から下りて来るのはパトリシアだ。

「何を話してたの?」

「大した事じゃないさ」

聞いてくるパトリシアに、俺はそう返す。

「そう。それなら、そろそろ明日に備えて寝ましょう」

時間は午後9時だった。

「少し早くないか?」

「何言ってるの、明日の朝にはゼディンに向かうんだから、そろそろ寝た方がいいに決まってるじゃない」

パトリシアはそう言ってくる。

「確かに、パトリシア様の言う通りですね。疲れもあるでしょうし、今日のところは早めに休む事をお勧めします」

村長さんもそう言う。

「……分かりました」

2人からそう言われてしまっては、従うしかない。

まあ、別に起きてても何かあるわけじゃないしな。

俺はそう思い、立ち上がる。

「では、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

「はい、ゆっくり休んでください」

そうして、俺とパトリシアは2階へ上がった。


俺はベッドの上で横になりながら、少し考え事をしていた。

アイリス、大丈夫かな……

考えているのは、セントメイルにいるアイリスの事だ。

仕方ないとは言え、俺はアイリスの元からあのような形で去った事を、俺は少し後悔していた。

もっと他にやり方があったのかな……

そんな事を考えるが、パトリシアがいたあの状況で話が出来たかどうか怪しい。

アイリスは、魔族は倒すべきだと考えているからな……

だからこそ、俺はあの時パトリシアを抱えて逃げた。

……まあ、もう終わった事だし、考えるだけ無駄か。

俺はそう思い、そのまま目を瞑って寝る事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ