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75話

「あんた、傷は大丈夫だったのか?」

「ああ、何とかなった」

俺が聞くと、そう答える魔族。

「確か、名前はジエンさんだったか?」

「ああ、そうだ」

「そうか。無事でよかった」

俺はそう言う。

「あの時はありがとな。おかげで助かった、感謝する」

「いや、俺もあんたに攻撃したんだ。感謝は違うだろ」

俺はそう言うが……

「いや、俺は本当ならあの時に殺されてたんだ。それを見逃してくれただけでも、十分感謝するに値する」

そう言われてしまい、俺はそれ以上は何も言えなかった。

「難波レイ、本当にありがとう」

さらに、頭まで下げられてしまった。

「分かった。だから、頭を上げてくれ」

俺がそう言うと、頭を上げてくれた。

「君が、ジエンを助けてくれた人間なんじゃな?」

そこで、村長と呼ばれた魔族が、俺に話しかけてきた。

「ああ、そうだ」

「何で逃がしたんだ?」

そう聞いてくる。

「殺す理由がないからな」

「人間は魔族を見たら殺すと言われておる」

「確かにそうだな」

「なら、君は他の人間と同じで魔族を殺さないといけないのではないのか?」

「そんな事ねーよ。俺は誰も殺さねえ」

そんな俺の目をじっと見る村長と呼ばれた魔族。

「……そうか。なら、君がここに来た理由は?」

そう言って、別の質問をしてくる。

「そんなに大層な理由じゃないさ。魔族側の事情を聞いて、過去に人間側と魔族側で何かがあったようだからな。それが気になったのと、パトリシアに誘われたからだな」

「成る程」

俺の言葉に納得してくれたのか、頷いている。

「いいかしら」

そこで、パトリシアが声をかけてきた。

「ああ、すみません、パトリシア様」

「いえ、いいのよ。それより、今日はここに泊まっていきたいのだけれど」

「ええ、どうぞ。この間泊まっていただいた場所でよろしいでしょうか?」

「ええ」

「では、ご用意しますね」

そうして、村長と呼ばれた魔族は、村の魔族と一緒に

「ありがとう。レイ、これからどうする?」

そう聞いてくるパトリシア。

「そうだなあ。どうするか……」

俺が考えていると……

「なあ」

そこで、ジエンさんが声をかけてきた。

「ジエンさん?」

「難波レイ。この後する事がないなら、俺の家に来るか?」

そう提案してきた。

「いいのか?」

「ああ」

「パトリシアも一緒でいいか?」

「もちろんだ」

「分かった。パトリシアはどうする?一緒でもいいらしいが」

「私も行くわ」

「分かった。それじゃ、家にお邪魔させてもらうよ」

「よし、ついて来てくれ」

そうして、俺とパトリシアはジエンさんについて行った。


「ここだ」

そう言って、家のドアを開けてくれるジエンさん。

「入ってくれ」

「「お邪魔します」」

俺とパトリシアはジエンさんの家の中に入る。

中々広い家だな。

ここに来るまでにも沢山家があったが、その中でもジエンさんの家は大きい方だ。

中もかなり広い。

「結構広いですね」

「まあな」

すると……

「おかえりなさい。あら、お客さん?」

奥の部屋から魔族の女性が出て来た。

「ただいま、シェーラ。こっちの2人はパトリシア様と難波レイだ」

「パトリシア様に難波レイさんですね。初めまして、ジエンの妻のシェーラです」

そう言ってお辞儀をするシェーラさん。

「初めまして、パトリシアです」

「難波レイです」

俺とパトリシアも自己紹介する。

「……」

すると、シェーラさんが俺の方をじっと見てくる。

「あの、どうかされました?」

俺がそう言うと、シェーラさんは俺に向かって頭を下げた。

「夫を助けてくださり、本当にありがとうございました」

そして、そう言ったのだった。

俺は突然の事に、驚きを隠せなかった。

「え……あの……」

俺がどうしていいか分からないでいると、ジエンさんが口を開く。

「取り敢えず、リビングに行こう」

そうして、ジエンさんがシェーラさんをリビングまで連れて行くので、俺とパトリシアもそれについて行く。

そうして奥のドアを開けて、中に入る俺達。

リビングは中々広く、とても綺麗にされていた。

「ここに座ってくれ」

ジエンさんにそう言われ、俺とパトリシアは椅子に座る。

俺達の向かいには、ジエンさんとシェーラさんが座った。

見ると、シェーラさんは泣いていた。

「あの、どうして俺に頭を下げたんですか?」

そう聞く。

「……私は、夫はもう帰って来ないと思っていました。でも、夫は負傷していましたが、それでも生きて帰って来てくれました」

「なぜ、生きて帰って来ないと思ったんですか?」

「今まで、人間界に行って帰って来た魔族はいません。ですから私だけじゃなく、夫も帰って来られないという事を覚悟していました」

そうか……でも、それなら……

「それなら、どうして人間界に行ったんですか?」

「あの時も言っただろう。俺達は仲間を助けるためだって。そのためだ」

ジエンさんはそう言う。

……俺にもその気持ちは十分理解出来る。俺も仲間を助けるためなら、危険を冒してでも助けに行く。

「でも、シェーラさんは反対しなかったんですか?」

「もちろん反対したわ。でも夫の目を見ると、止める事は諦めたわ。だから、絶対に無事に帰って来てって言って、送り出す事にしたの。でも、内心では分かってたわ。夫は、もう帰って来ないんだって」

「それは、前例がないからですか?」

「ええ。それに、一緒に行く人も少なかったから。私も、一緒に戦えたらよかったのにって思ったわ」

そう話すシェーラさんは目を伏せ、何も出来なかった自分を責めているようだ。

「そして、夫が人間界に向かって2週間程経った時だったわ。村が騒がしいから、何かあったのかしらと思って外に出て、村のみんなが集まっている所に行ったわ。そうしたら、夫が酷い怪我をして倒れていたの。でも、ちゃんと生きていた。その時はとても信じられなくて、自分の目を疑ったわ。だって、もう帰って来ないと思っていた夫が、生きて帰って来たんですもの」

その時の事を思い出したのか、シェーラさんの目には再び涙が浮かんだ。

「それから夫を介抱して、話を聞いたら人間の男の子が助けてくれたって言うものだから、私も村のみんなも驚いちゃって。その時から私は、その人に会ってお礼を言いたいとずっと思っていたの」

「俺が村に着いた時、魔族達はみんな俺に襲いかかって来ようとしました。でも、ジエンさんが出て来るとみんなやめました。もしかして、それが理由ですか?」

「ええ、そうだと思うわ」

そうだったのか。

「あなたはそれだけすごいのよ。普通、人間は魔族を見たら殺そうとする。それは魔族の間では共通認識だもの」

そうパトリシアが言う。

「でも、それは酷くないか?先に魔族を攫ったのは人間なんだろ?」

「そんなの関係ないわよ。魔族が来たから殺す。それが人間の考えよ」

パトリシアがそう言うが、俺にはその考えは到底受け入れられない。

「俺は、絶対にそんな事しない」

過去に、無差別なテロにあった。そして、大切な人を失った。

「レイ?」

過去に、考え方が違うからという理由で襲撃されて、仲間を失いかけた。

「俺は、そんな事だけは、絶対にしない」

だから、そうやって誰かをすぐ殺すなんて考えは、絶対に受け入れられない。

だから、何とか頑張って人間と魔族の関係をよくしたい。

俺はそう思った。

「レイなら、そんな事しないって分かってるわ」

「パトリシア……」

「あなたは、普通の人間とは考え方が違う。だからこそ、魔界に連れて来たんだから」

そう言って、俺に微笑むパトリシア。

「……ああ、そうだな」

俺はそう返事をして、ジエンさんとシェーラさんに謝る。

「お見苦しいところをお見せして、すみません」

「いえ、いいのよ」

「ああ、そうだ。それより、飯でも食うか?」

時計を見れば、もう午後6時前だった。

「いいんですか?」

「ええ、もちろんよ」

「すみません、ありがとうございます」

「いいのよ、夫の命の恩人だもの。本当ならちゃんとしたお礼をしなくちゃならないのに」

「いえ、大丈夫ですよ。気にしないでください」

「そういうわけにはいかないわ。せめて、美味しいお料理くらいは召し上がってもらわないと」

そう言って、キッチンに向かうシェーラさん。

「それじゃ、少し待つか」

そうして、俺達はそのまま座って待っていた。

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