72話
俺は刀を正眼に構え、アイリスと対峙する。
よし、行くか。
俺はそう思った瞬間、一気に走り出す。
アイリスは待ち構えている。そこに俺は、刀を上段から振り下ろす。
「はっ!」
そして、アイリスはそれを刀で受けようとした。
その瞬間俺は刀を左手から離し、下に添えていた右手で掴んで水平斬りを放つ。
「心証流秘剣ー歪」
しかし、それもバックステップで避けるアイリス。
おいおい、マジかよ……
俺はここまで剣技が決まらないとは思わなかったので、かなり驚いている。
「まさか、ここまで剣技が決まらないとはな」
「今まで何回か見たからね。来ると分かってたら何とか避ける事は出来るよ」
今までは来ると分かってても、避けられた事は殆どないんだけどな。
これはもう少し剣技の修行が必要かな……
俺はそう思いつつも、アイリスから目を離さない。
「行くよ!」
「ああ」
アイリスはこちらに走って来る。
こうなったら、あれを使うか。
俺は体を半身にして、刀を持った左腕を後ろに引く。これにより俺の刀は体で隠れて、アイリスには見えなくなった。
「はああ!」
そして、アイリスが俺に上段斬りを放ってきた。
今だ!
俺は一気に左腕を突き出す。
「心証流秘剣ー楔」
アイリスの剣より、俺の刀の方が速い。そうなれば、このままアイリスの胸を突いて終わりだ。
しかし……
「はあああああ!」
アイリスは無理矢理腕を加速させ、剣で俺の刀を弾いた。
何!?
そのままだとまずいので、俺は後ろに飛ぶ。
アイリスも無理矢理腕を加速させたため、追撃はしてこなかった。
「おいおい、嘘だろ。今のは見せた事なかったはずだぜ」
俺がそう言うと、アイリスは口を開く。
「何でか分からないけど、反射的に防いじゃった」
……いやいや、防いじゃったじゃねえよ。
本格的にまずくなってきた。俺の剣技がアイリスに通用しなくなってきているからだ。
そう思っていると、アイリスがこちらに向かって走り出した。
「はああ!」
そして、袈裟斬りを放ってくる。俺はそれを刀で受けようとした。
しかし……
「ふっ!」
「なっ!?」
腕の向きを変え、剣を振るう角度を変えてきた。
それにより、俺の刀は中途半端に弾かれる。
やばい!
そう思った時にはもう遅かった。
「はっ!」
アイリスは剣を振るう。威力はそこまでないが、確実に俺の胸元を斬りつけた。
「ぐっ!」
俺は慌てて後ろに飛んで、距離を開ける。
くそっ!やられた!
俺は胸元を抑えながら、アイリスを見る。アイリスもこちらを見ており、隙はない。
……本当に強くなったな。
俺は内心で感心していた。この短期間でここまでの成長を見せたアイリスなら、すぐに俺より強くなるかもしれない。
……よし。
俺はこの模擬戦でのアイリスの成長ぶりを見て、1つ決心した。
「アイリス、ありがとな」
「え?」
「アイリスのおかげで悩みが解決したよ」
「本当!?」
「ああ」
「よかった……」
アイリスはそう言って、胸を撫で下ろす。
余程心配してくれていたんだな。
そして、俺はアイリスに言う。
「そんなアイリスに、これから俺の本気を見せるよ」
「え、まだ本気じゃなかったの!?」
「まあな」
俺はそう言って、左手を前に出して刀を構える。
「準備はいいか?」
「え、う、うん」
「そんじゃ、行くぜ」
その瞬間、俺は全力で走り出す。
「!?」
一瞬でアイリスとの距離が縮まり、アイリスは驚きつつも剣を構える。
だが、俺はその瞬間に一気に加速してアイリスに急接近し、アイリスの剣を全力で振り上げた刀で弾く。
そしてそのまま刀を翻し、下段からの斬り上げを見舞う。
「心証流奥剣ー紫電」
そして、アイリスは倒れる。
「おっと」
俺は倒れてくるアイリスを支え、そのまま右手で抱きしめる。
「ありがとな」
俺はそう言って刀を鞘に納めて、アイリスを抱えて家の中に入った。
「……あれ?」
10分程して、アイリスは目が覚めた。
「お、大丈夫か?」
「え?」
どうやらアイリスは状況が分かっていないようだ。
「ほら、アイリスは俺との模擬戦で倒れたんだよ」
俺がそう言うと、アイリスは思い出したようだ。
「あ、そうだ。私、レイと模擬戦してたんだ」
「そうそう」
「それでレイが本気を出すって言って……私、負けたんだ……」
「まあ、そうだな」
すると、アイリスが俺に聞いてくる。
「ねえ、最後のは何だったの?」
「ああ、俺の剣技の奥義だよ」
「奥義……」
アイリスは考え込む。そして、少ししてから口を開いた。
「あれが、レイの本気なんだね」
「ああ、そうだな」
「そっか。じゃあ、私もレイの本気について行けるように頑張るね」
「それは楽しみだな」
俺が本気を出して、それでもアイリスに勝てなかったとしたら……
俺も強くならないとな。
そう思い、俺は明日からの事を考え出したのだった。
次の日。
俺とアイリスは学園での授業を終えて、放課後にある魔族討伐隊の訓練をするためにアリーナに向かっていた。
「あ、いけね」
「どうしたの?」
「ああ、家に忘れ物した」
「え、忘れ物?」
「ああ。悪いが、1人でアリーナに行ってくれないか。俺は家に取りに帰るから」
「え、ちょっと」
俺はそう言うと、来た道を引き返す。
「先生には言っといてくれ、頼んだ」
俺はアイリスにそう言って、走り出した。
「もう、何なの」
アイリスはそう言いつつ、アリーナに向かって歩き出した。
俺は走って家まで帰っている。
アイリスには悪い事をしたな……
俺は昨日アイリスとの模擬戦をして、その時に決めた事を実行するために、家に帰っている。
俺は、魔界に行く。自分で魔族の事を調べるためだ。
だから、俺はもう学園には行かないし、家にも帰らない。
黙っていなくなると、アイリスは怒るよな……
そう思うと心が痛む。だが、アイリスに話すと絶対に止められる。だから、黙って行くしかない。
そうして、俺は態と忘れた荷物を取りに家に帰る。
そして、家が見えてきた。
すると……
あれ、誰かいるな。
家の前に誰かいた。
俺は走るのをやめ、ゆっくりと歩いて誰か確認する。
そして、家の前にいる誰かがこちらに気づいた。
「なっ!?」
その人物を確認して、俺は驚いた。
「もしかして、あなたが難波レイさんかしら?」
よく通る澄んだ声でそう聞いてくる美人。とても女性らしい体で、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。そして、風に靡く金色の髪はとても綺麗だ。
だが……
「君は、魔族か」
そう、この美人は魔族だ。頭に角があるから間違いない。
「ええ、そうよ。それより、あなたが難波レイさんかしら?」
魔族は、さっきと同じ質問をしてくる。
「あ、ああ、悪い。俺が難波レイだ」
俺がそう言うと、魔族は微笑む。
「そう。本当に私達を見ても襲ってこないのね」
そう言って、こちらに来る。
そして俺の前まで来ると、再び口を開く。
「私は、あなたにお話があって来たの」
どうやら、魔界に行く前にやる事が出来たようだ。




