71話
今日の魔族討伐隊での訓練を終えて、俺とアイリスはそのまま帰っている。
「……」
しかし、どうも昼休みぐらいからアイリスの様子がおかしい。俺が話しかけても、なぜか慌てていて、目を合わせると急いで逸らしてくる。
「なあ、アイリス」
「!?」
今も肩を跳ねさせて、俺の方に顔を向けようとしない。
本当に、何があったんだ?
俺はそう思いつつ、アイリスに聞いてみる。
「なあ、俺が何かしたか?」
俺がそう聞くと、アイリスは首を横に振る。
「ううん、レイは何もしてないよ」
「でも、何か様子がおかしいぞ」
「何でもないよ!大丈夫だから!」
俺は気になったが、アイリスがそう言うのでそれ以上は聞かなかった。
まあ、アイリスにも色々あるんだろうな。
俺とアイリスは、そのまま会話も特にせずに歩いていた。
家に帰ってからも、アイリスの様子はおかしかった。晩ご飯の時も、いつもなら話しかけてくるのに、今日は黙々と食べていた。
本当にどうしたんだよ……
俺が聞いても、アイリスは何でもないとしか答えないし、全然分からない。
そして、寝る時もアイリスは同じベッドで寝るものの、いつものように俺の腕に抱きついてこなかった。
こうなったらもう放っておくしかないかと思い、その日はそのまま寝たのだった。
次の日の朝。
「うう……」
俺は目を覚ました。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
俺はそうアイリスに挨拶をする。
俺は目を擦り、アイリスの方を見る。
すると……
「え?」
「どうしたの?」
「いやいやいや!どうしたのじゃねえよ!」
「何が?」
「だから!その格好だよ!」
アイリスの格好は裸エプロンだった。
「こ、こうすると男の子は喜ぶって、ケーナが言ってたの」
そう言って、少し頬を赤らめるアイリス。
「いやいやいや!それは確かにそうだけど、それで喜ぶのは普通の男だけだって!」
「え、レイは普通の男の子じゃないの?」
「あ、いや、うん、普通って言ったら普通だけど、おかしいって言ったらおかしいのかな」
俺は至って普通だが、感情が殆どなくなってからは、女性に対して特に何も感じなくなってきている。
それを説明するわけにもいかないしなあ……
俺はそう思いながら、どう説明したものか考えていると……
「ねえ、元気でた?」
「え?」
「レイってば、ここ最近ずっと悩んでたでしょ?私には、こんな事しか出来ないけど、少しは役に立ったかなって」
……成る程、そういう事か。
俺はアイリスが、どうして急にこんな事をしたのか理解した。俺に元気を出してもらうためだ。
でも、それだけで普通ここまでやるかよ。
俺は少し呆れつつも、素直に嬉しかった。
それだけ、俺の事を心配してくれていたんだな。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。それより、俺が悩んでたのはアイリスが原因でもあるんだぞ」
「え!?」
「アイリスが毎日、俺に国家戦士になれってうるさいから、それで悩んでたんだよ」
「え、そうだったの!?」
「ああ、そうだ」
「それは……ごめんなさい」
そう言って、アイリスは申し訳なさそうにする。
「いや、いいんだよ。別に気にしてない」
「……本当?」
「ああ。その代わり、もう俺に国家戦士になれって言わないでくれるか?俺の将来は、俺自身で決めたいんだ」
「うん、分かった」
アイリスはそう頷いてくれる。
「よし、それならこの話は終わりにしよう」
俺はそう言って、ベッドから下りる。
アイリスもベッドから下りる。
そこで、俺は気になった事があった。
「アイリスってさ」
「え、何?」
「最近、また筋肉がついた?」
「え!?」
「ほら、腕とか足とか、前より筋肉がついてる」
「あ、あまり見ないで欲しいな……」
「え、ああ、ごめん……って、その格好をしたのはアイリスだろ?」
「そ、それはそうなんだけど、やっぱり恥ずかしくて」
それならするなよ……
俺はそう思ったが、アイリスは俺のためにしてくれた事なので、そんな事を言うべきじゃないと思い直す。
「まあ、筋肉はついたと思うよ。毎日あれだけ訓練してるから」
確かに、アイリスは学園での訓練に加えて、魔族討伐隊の訓練も頑張っていた。その成果がそろそろ出てもいい頃だ。
……そうだ、アイリスに頼んでみるか。
「なあ、アイリス」
「どうしたの?」
「頼みがあるんだ」
「頼み?」
「ああ。今日は学園が休みだから、久しぶりに俺と模擬戦をしてくれないか?」
俺はそう言って、アイリスを見る。
「……うん、いいよ」
「本当か!」
「うん。それじゃあ朝ご飯を食べた後、少ししたらしよっか」
「ああ、そうだな」
「うん、それじゃあ行こっか!」
「いや、その前に服を着た方がいいんじゃねえか?」
「え?」
俺がそう言うと、アイリスは自分の格好を見る。
「そ、そうだね!」
そう言って、大慌てで1階に下りていくアイリス。
「全く……」
俺は若干呆れつつも、内心では俺の事を心配してくれていたアイリスに感謝した。
「俺も行くか」
そうして、俺は1階へ下りた。
「朝ご飯も食べ終わってから時間も経ったし、そろそろする?」
「そうだな」
俺とアイリスは立ち上がって、一緒に庭に出る。
「相変わらず、この庭はでかいな」
「そうだよね」
俺とアイリスは庭を見てそう言う。
本当にこの庭はでかい。この庭だけでも、十分家が建てられる程の面積がある。本当に何でこんなにでかくしたんだ?
まあ、今はいいか。
「よし、それじゃあやるか」
「うん!」
俺とアイリスは、お互いに10メートル程距離を取る。
「アイリスからでいいぞ」
「それじゃあ行くね」
そうして、一気にこっちに向かって走って来る。
「はああ!」
そして、上段に構えた剣を振り下ろしてくる。
「ふっ!」
俺はそれを刀で受ける。
くっ!中々の重さだ!
俺はアイリスの剣を弾き、後ろに飛んで距離を取る。
前に模擬戦をした時よりも強くなってるな……
それならと、俺は一気に走る。
「はあ!」
「はっ!」
俺が袈裟斬りを放つと、アイリスは剣でそれを受ける。
そして、俺の刀が弾かれた。
「はあ!」
その隙に剣で攻撃してくるが、俺は弾かれた衝撃を利用して体を回転させ、そのままアイリスに向かって刀を振るう。
「心証流秘剣ー円」
ガキイィィィン!
俺の刀とアイリスの剣がぶつかる。
お互いに一歩も引かず、刀と剣からは火花が散った。
「やるな。前は円で競り勝てたんだがな」
「そう何度もやられるわけにはいかないよ!」
そうして剣を押し込んでくるので、俺はそれに逆らわず、アイリスの剣を受け流す。
「!?」
「はっ!」
そして俺が刀を振るうと、アイリスは何とか横に飛んで避けた。
「今の何?」
「ああ、柔法って言う技だ」
「まだそんなの隠してたんだ」
「まあな」
そう言いつつ、俺は構える。
アイリスとの距離は5メートル程。それなら……
俺は走り出す。そして、あっという間にアイリスに接近する。
「はああ!」
俺は上段から刀を振り下ろす。
「はあ!」
アイリスはそれを剣で受けようとした。
「ふっ!」
「えっ!?」
その瞬間、俺は上に飛ぶ。そして刀の切先をアイリスに向け、一気に落下する。
「心証流秘剣ー雫」
しかし、アイリスは横に飛んで避ける。
……これも避けるのか。
俺は少し驚いた。
完全に意表を突いたはずなんだがな。
「よく避けたな」
「殆ど無意識だったけどね」
成る程、体が勝手に動いたのか。
俺はアイリスが確実に強くなっていると感じていた。
それなら、俺も少し本気を出すか。
「来いよ」
「うん!」
そう言って、アイリスは一気に接近してくる。
俺は刀を体の前で下げ、両足を少し開いて構える。
「はっ!」
そしてアイリスが水平斬りを放ってくるので、俺は一気に刀を振り上げる。
「心証流秘剣ー騰」
その瞬間、俺の刀とアイリスの剣が弾かれる。
俺はその衝撃を利用して体を回転させ、アイリスに斬りかかる。
「心証流秘剣ー円」
「くっ!」
しかし、アイリスはそれをバックステップで避ける。
これも決まらないか。
俺はそう思いつつも、この模擬戦を楽しんでいた。




