60話
俺とアイリスはクレープを食べた後、学園が保有していて、今日から住むことになる空き家に向かっていた。
「どんな家なんだろうね」
「さあ。でも一軒家で1LDKだ、そんなに広くはないだろう」
そう思っていたのだが……
「……ここ?」
「……ああ」
「……本当に?」
「……間違いない」
俺達は空き家の前に到着した。しのだが……
「これ、大きすぎない?」
「そうだな」
1LDKと聞いていたので、そんなに大きくないだろうと思われた家。しかしその実、かなり大きい。
これ、70平方メートルぐらいか?
俺は前に建築家もやっていた事があるので、目測で大体どのくらいか分かる。恐らく70平方メートル程だろう。
それに、1LDKなのに何で2階があるんだ?
そう、この家には2階があるのだ。1LDKなら普通、2階はないと思うんだが。
そして家の周りは空き地になっている。少し歩いた所に家があるが、お店などはない。
まあいいか。
「取り敢えず、入ってみようぜ」
俺は隣で家を見上げているアイリスに言う。
「え、あ、うん」
俺はポケットから、メリスさんから受け取った鍵を取り出し、家のドアの鍵を開ける。
ガチャッ。
「よし、開いた」
俺はドアを開け、中に入る。
「広いなあ」
「うわあ!」
玄関は広く、人が横に4人は並ぶ事が出来そうだ。そして玄関から入って右側に階段があり、左側は廊下が続いている。廊下の先にはドアがあるので、恐らくはあそこがリビング、ダイニング、キッチンへと続いているのだろう。
「2階が気になるが、先ずは廊下の先にある部屋に行くか」
「うん」
俺達は玄関で靴を脱ぎ、家へ上がる。そのまま廊下を歩き、ドアを開ける。
「ここも広いなあ」
「すごい!」
ドアを開けると、リビングがあり、ソファーやテーブルなどの家具が設置されている。そして、その隣にはダイニングがあり、こちらもテーブルと椅子が置かれている。その隣がキッチンで、ここもかなり広い。
「この家具って、前の持ち主が置いていったのかな」
「そうだろうな」
俺は部屋を見渡してそう言う。そして、閉めていたカーテンを開けた。
「うお、マジか」
「どうしたの?」
俺がそう声を漏らすと、アイリスがこちらに来る。
「うわあ!」
そこには庭があった。とても広い庭だ。
「おいおい、これは流石に広すぎないか?」
「そうだね。でも、狭いよりはいいんじゃないかな?」
「まあ、そうなんだけどな」
この家、孤児院より広いぞ。全く、前の持ち主はどんなやつだったんだ?
まあ、そんな事考えても仕方ないか。
俺はそう思い、思考を切り替える。
「そんじゃ、2階に行ってみるか」
「うん!」
俺達は2階に行ってみる事にした。再び廊下に出て、そのまま玄関前まで来ると、そこにある階段を上っていく。
そして、2階に着いた。
「嘘だろ……」
「え……」
何と、2階は何の仕切りもなく、丸々1部屋だった。
何て家だ……
思わず呆れてしまう俺だった。
家を見て回った後、俺とアイリスは2人で掃除していた。
「よし、これで終わりだな」
「うん、綺麗になったね」
「ああ」
2時間程かけて掃除をし、家を綺麗にした。
そして時計を見ると、もう午後7時になっていた。
「あ、もうこんな時間だな」
「本当だ。晩ご飯にしなくちゃね」
俺とアイリスは、ここに来るまでの旅で買ったパンや野菜がまだ残っていたので、それを食べた。
「明日からはちゃんとした料理を作ろう」
「レイの料理、久しぶりだなあ」
「確かにそうだな」
「ねえ、何作ってくれるの?」
「それは明日考えるよ」
俺達はその後、アイリスが最初で、次が俺の順番で風呂に入った。
そして午後11時を回ったので、俺達は寝る事にした。
「そんじゃ俺はリビングで寝るから、アイリスは2階で寝ていいぞ」
「え、レイは2階で寝ないの?」
「いや、いくら部屋が広いとはいえ、流石に一緒に寝るのはちょっとな」
「えー、いいじゃん」
「いや、よくないって」
「むー、じゃあ私もここで寝る」
「じゃあ俺が2階で寝るな」
「何でそうなるの!?」
「え、そういう事じゃないのか?」
「違うよ!全然違う!」
「何だよ、一緒に寝るのは駄目だって」
「そんなあ」
アイリスがこの世の終わりみたいな顔をしてこっちを見る。
そんな顔されてもな……
「ねえ、レイ」
「何だ?」
さっきまでの顔とは違い、急に真剣な表情になるアイリス。
「私ね、実はずっとシスターと一緒に寝てたの」
「……知ってたよ」
その事は知ってた。シスターが教えてくれたからな。
「そう……何でシスターと一緒に寝てたと思う?」
「それは、寂しいから?」
「それもあるよ。でも一番の理由はね、怖いの」
「怖い?」
何が怖いんだ?お化けか?
「私が5歳の頃、お父さんとお母さんが魔族に襲われて殺されたって話、覚えてる?」
「覚えてるよ、忘れるわけがない」
「その時からね、1人でいるのが怖いの。私が1人で遊びに出かけてる間に、お父さんとお母さんは魔族に襲われて殺されたからかな。また私が1人でいる間に誰かが殺されたらって思うと、寝られないの」
そう言うアイリスは、とても辛そうにしていた。
……そうか、俺は何も分かってなかったんだな。
今までアイリスは弱気なところを、俺に見せた事がなかった。恐らくはシスターにだけ見せていたんだろう。
でも、今はシスターがいない。だから俺を頼るしかない。
恐らくは孤児院を出る時、俺を誘ったのもそれがあるからなんだろう。
そう考えると、孤児院を出て行くのもかなり悩んだはずだ。
俺がアイリスについて行くと、シスターが1人になる。アイリスはシスターの事が大好きだったから、シスター1人残して出て行くのは、本来なら嫌だったはずだ。
それでも、アイリスは孤児院を出ると決断した。
もう自分と同じ目に遭う人達がいなくなるように、ここセントメイルの国立グロリア学園に入って、戦士になる道を選んだ。
そんな彼女に俺が出来る事は……
「分かった。一緒に寝よう」
「え?」
「何だよ、一緒に寝るんじゃないのか?」
「いいの?」
「ああ」
「ありがとう!」
「うおっ!」
そう言って抱きついてくるアイリス。
「おいおい、今から2階に行くんだ。離れてくれよ」
「嫌よ!」
「嫌って……」
「このまま抱っこして連れてって」
「はあ、仕方ない」
俺はアイリスを抱っこして、そのまま2階に向かう。
「これすっごく楽!」
「だろうな」
自分で歩いてないんだから。
2階に上がると、俺はアイリスをベッドの上に寝かせた。
「ありがと!」
「どういたしまして」
俺はそう言って、ベッドの上に乗る。
このベッド、なぜかキングサイズだ。
本当に前の持ち主はどんなやつだったんだよ。
俺はそんな事を思いつつ、寝転んだ。
「えへへー」
すると、アイリスが俺の左腕に抱きついてきた。
「おい、広いんだから離れて寝た方がよくないか?」
「いいの!」
そう言って、アイリスは動こうとしない。
まあいいけどな。
俺は仕方なく、そのまま寝る事にしたのだった。




