59話
メリスさんに案内されたのは、学園内にある待合室だった。
「少しここで座って待っていてもらえるかしら」
「分かりました」
「すぐに戻るから」
そう言ってメリスさんは部屋から出て行く。
「取り敢えず座るか」
「そうだね」
俺達はソファーに座って、メリスさんが来るのを待った。
そして10分程して、ドアがノックされた。
「遅くなってごめんなさい」
そう言って、メリスさんと30代くらいの女性が入って来た。
「紹介するわね。こちらはここの学園長をしているサリア・オスカー学園長よ」
「ここ、国立グロリア学園で学園長をしているサリア・オスカーです」
「初めまして、俺は難波レイです」
「私はアイリス・ラピスです」
「難波君にラピスさんね。あなた達を特待生扱いで入学させたいって、レイラから言われて驚いたわ」
「すみません、急な事でしたので」
「いえ、いいのよ。それより、あなた達の実力はどれ程のものなの?」
「ラピスさんはエイストスさんといい勝負をして、勝ちました。難波君はルメイア君の攻撃を完全に見切って倒しました」
「え、あの2人が負けたの!?」
「はい」
「あの2人はこの学園でもかなりの実力者なのに、それを倒すなんて……」
あの2人がこの学園の実力者か……という事は、この学園にいる生徒の実力はそんなに大した事ないな……
俺はさっき戦ったルメイアさんの実力を思い出す。あれならエーレ達の方がずっと強かった。
「それなら、特待生扱いで入学させたいって言った理由が分かったわ。そういう事なら、2人を特待生としてこの学園に迎えましょう」
「ありがとうございます、学園長」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
「それじゃあこれが書類だから、よく読んでよかったらサインして」
そう言って渡されたのは、『特待生制度同意書』と書かれた用紙だった。
俺は隅々までしっかり読む。そして気になる事があったので、質問する。
「すみません、もし何か理由があって退学を申し出た場合はどうなるんですか?」
「その場合は特に何もありません。ですが、特待生の場合、退学するにはきちんとした理由が必要になります」
「分かりました。ありがとうございます」
他には特になかったので、俺は用紙にサインする。
「これであなた達はこの学園の生徒よ。来週から登校してもらうから、そのつもりでね」
「はい!」
「あの、俺達はまだ宿を見つけてないんです」
「それなら、この学園が所有している寮があるから、そこに住むといいわ。鍵は後で渡すわね」
「ありがとうございます」
ラッキーだな。これで宿を探す手間が省けた。
「あれ、レイラ。確か今の寮は男子寮と女子寮のどちらも部屋は空いてないわよ」
「え、そうでしたか?」
「ええ」
「それは困りましたね……」
どうやら寮は空いていないようだ。
「それなら、あそこを使いましょう」
「あそこ?」
「ほら、空き家があったでしょ。あそこに住んでもらうのよ」
「その手がありましたね!」
「その空き家というのは?」
「ええ、過去にこの学園の生徒が住んでいたんだけど、引っ越してね。そこを譲ってもらったんだけど、学園から少し離れているものだから、みんな中々住みたがらないのよ」
「寮なら学園の隣ですからね」
成る程、そういう理由か。
「それなら、俺達が住まわせてもらってもいいですか?」
「ええ。けれど、そこは一軒家で1LDKなのよ。男女が2人で住むのはちょっとね」
「あ、それなら大丈夫ですよ。私達、ずっと一緒に住んでましたから」
「え!?」
「そうなの!?」
まあ、普通は驚くよな。
「俺達、孤児なんですよ。それで孤児院でシスターと3人でずっと暮らしてたんです」
「そうだったの」
「大変だったのね」
「いえ、そんな事ないですよ」
いつもの事だからな。
「私もレイとシスターのおかげで大変だと思った事はないです」
アイリスもこう言ってくれる。嬉しい限りだ。
「そう、それなら2人で住んでも問題ないのかしら?」
「はい」
「もちろんです!」
俺達が頷くと納得してくれたようで、その空き家に住まわせてもらう事になった。
その後は学園について少し話を聞いて、今日のところは帰る事になった。
俺達は門まで来ると、ついて来てくれたメリスさんにお礼を言う。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
俺達が頭を下げると、メリスさんは大した事じゃないと言う。
「いいのよ。それに、あなた達のような実力者が学園に入学してくれて、私達の方がお礼を言わなくてはならないぐらいなんだから」
「それなら、こちらも学費免除に住居の提供、生活費まで受給してくれるんですから、お互い様ですよ」
「そう言ってくれるなら、そういう事にしておくわね」
実際、こっちとしても助かるからな。
「それとこれ、家の鍵よ」
「ありがとうございます」
俺は鍵を受け取り、ポケットにしまう。
「それじゃあ、必要な物は全て家に送るからね。来週の月曜日から登校出来るように間に合わせるから」
「よろしくお願いします」
「お願いします!」
「はい」
「それじゃあ、俺達は行きますね」
「気をつけてね」
「はい」
「ありがとうございました!」
そうして、俺達は学園を後にした。
俺とアイリスは、学園から空き家までの道を歩いていた。
「おっと、そうだ」
「え、どうしたの?」
俺はある事を思い出した。
「約束を思い出してな」
「約束?」
「ほら、帰りにクレープを買うって約束だよ」
「あ!」
「思い出した?」
「うん!」
「丁度帰り道だし、買っていこう」
「うん、そうしよう!」
アイリスはすごく喜んでいた。
よっぽど気に入ったんだな。
俺はご機嫌なアイリスと一緒に、クレープを売っている屋台へと向かったのだった。
「あ、まだやってるよ!」
「よかったな」
俺達が屋台の所に行くと、まだやっていた。
「どれにする?」
「私はこれかな」
そう言って指差したのは、生クリームにキャラメルソースがかかったクレープだった。
「俺はこれにする」
俺が選んだのは、生クリームにブルーベリーソースのかかったクレープだ。
「それじゃあ、ベンチに座って待っててくれ」
「分かった!」
そうして、アイリスはベンチの方へ向かった。
「すみません」
俺は店員の人に声をかける。
「あ、君達は昼間の」
「覚えてたんですか?」
「ああ。君もそうだが、彼女はかなり可愛かったからな」
成る程、確かにアイリスは可愛いからな。
「それで、何にする?」
「ああ、これとこれをください」
「はいよ」
そうして、店員の人はクレープを作り始めた。
5分程でクレープは出来上がった。
「はいよ」
「ありがとうございます」
俺はお金を渡し、クレープを受け取る。
「また来てくれよ」
「はい」
俺はそう返事して、アイリスの所に向かった。
「ほら、これ」
「あ、ありがとう!」
そう言ってクレープを受け取るアイリス。
「今回は先に半分にするか」
「え、また半分食べてからでもいいんじゃない?」
俺が提案すると、アイリスがそう言ってくる。
「いや、最初から半分にした方がいいだろ?」
「えー」
「何だよ?」
「私はレイの食べかけでいいよ」
「え、どうして?」
「どうしてって言われても……レイは私の食べかけは嫌?」
何で態々食べかけを交換する必要があるんだよ……
俺はそう思うが、アイリスは上目遣いで俺を見てくるので、どうも言いづらい。
「……分かったよ、お互い半分食べてから交換しよう」
「うん!」
一瞬で笑顔になるアイリス。
俺はわけが分からなかったが、考えても仕方ないのでクレープを食べ始めたのだった。




