5話
あの後少し話したいと言うので、俺は二人と談話室で話すことにした。
「あんたは歳はいくつだい?」
梨紗さんが聞いてくるので、俺は答える。
「18です」
「そうかい。うちの娘と一緒だね」
「あ、そうだったんですか」
「1週間滞在するって聞いたけど、旅行かい?」
「まあ、そんなところですね。俺は今旅をしているので」
「旅?また何で?」
「この世界を見て回ろうと思って」
「親御さんは?心配してないのかい?」
「あー、俺は孤児なんですよ。生まれてすぐシスターに拾われて、そのまま育てられたんです」
「……そうだったのかい。すまないねぇ」
「いえいえ、別に気にしてませんので」
気にするも何も、俺は元々この世界の住人じゃないからな。親がいないのは当たり前だ。
「そうかい。あんた強いね」
「ありがとうございます」
「なあ、1つ聞いていいか?」
「はい?」
今度は冬士さんが話しかけてきた。
「これからも旅は続けるのか?」
「そうですね。まだ次の行き先は決めていませんが、ここでの滞在を終えるまでには決めて、そこに向かおうと思います」
「……そうか」
それだけ聞くと、冬士さんは黙ってしまった。
そこで二人の娘さんがやって来た。
「あ、ここにいたんですね。って、何でお父さんとお母さんが?」
「ああ、この子に色々と話を聞いてたんだよ」
「そうなんだ」
「ほら、あんたも自己紹介しな」
「う、うん。あの、私相沢理亜って言います」
「俺は難波レイ。よろしく」
「レイさんですね」
「レイでいいよ」
「はい!では私の事も理亜って呼んでください!」
「分かった」
「あ、お料理をお部屋に運んでおいたので、食べてくださいね」
「ありがとう。じゃあ部屋に戻りますね」
「ああ。引き止めて悪かったね」
「いえ、それでは失礼します」
そのまま俺は部屋へ戻った。
「ねえ、あんたあの子の事好きなんだろ?」
「!?」
「見てれば分かるよ。好きなんだろ?
「……うん」
「そうかい。それにしてもあの子はいい子だね。ね、あんた」
「ああ。とても芯の強そうなやつだ。中々引き締まった身体だったしな」
「確かにね」
「……」
「そんな心配そうな顔しないでも、駄目だとは言わないよ」
「お母さん!」
「でもね、あの子は旅に出るって言ってたよ。あんたはついて行くのかい?」
「私は……」
「……いいんじゃないか」
「え?」
「俺は、あいつにならお前を任せてもいいと思ってる」
「へえ。あんたがそんな事を言うなんてね」
「あいつは綺麗な目をしてた。真っ直ぐな目だ。ああいうやつになら、理亜を任せてもいいだろ」
「そうだね」
「お父さん、お母さん……」
「あの子は1週間しかいないんだろ?頑張ってアプローチしな」
「うん!」
いやあ、本当にここの料理は美味しいな。
「ごちそうさま!」
はあ、食った食った。
それから暫くすると、理亜が来た。
「お下げしますね」
「ありがとう」
「この後は何処かに行かれるんですか?」
「うん。その辺を少し見て回ろうかと思ってね」
「そうですか……あの、よろしければご案内いたしましょうか?」
「え?」
「私は生まれてからここに住んでいます。ある程度であればご案内出来ますが」
「仕事があるんじゃないの?」
「お父さんとお母さんがお休みをくれたので、大丈夫です」
「そっか。じゃあお願い出来る?」
「はい!」
そうして、俺と理亜は出かけた。
俺達はいろんな場所に行った。人力車があったのでそれに乗り、観光していた。
「楽しかったね」
「そうですね」
「敬語はいいよ?今は仕事じゃないんだし」
「そうですか?」
「うん」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
「うん。それじゃあ次はどうしよっか?」
「次は……あ、あそこの甘味処は美味しいって有名なんだよ」
「そうなんだ。じゃあちょっと寄ってみるか」
その美味しいという甘味処へと入る。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「2人です」
「2名様ですね。こちらへどうぞ」
店員さんの案内で、俺達は窓際の席へ通された。
「ご注文が決まりましたらお申し付けください」
「分かりました」
店員さんは一旦下がる。
「どれにしよっか?」
そう言うと、理亜は財布を取り出す。
「私は……このお汁粉で」
「もしかして、手持ちが少ないの?」
「……はい」
「そっか。なら奢るから好きなの頼んでいいよ」
「いえ、それは!」
「いいんだよ。案内してくれたお礼って事で。ね?」
「……ありがとう」
「うん。それより、どれにする?」
「じゃあ私は、このお団子にします」
「抹茶はいる?」
「いえ、そこまでは」
「遠慮しないで」
「……では、いただきます」
「うん。じゃあ俺はこのみたらし団子にしようかな」
店員さんを呼んで、注文する。そして、少ししたら頼んだものが来た。
「ごゆっくりどうぞ」
そのまま店員さんは下がって行った。
「じゃあ、いただきます!」
「いただきます」
みたらし団子を食べる。うん、美味い!
「美味いな!」
理亜が頼んだのは三色団子だった。その1つを食べた。
「美味しい!」
「だよな!よかったらこっちも食べる?」
「え?」
俺はみたらし団子を理亜の前に差し出す。
「いいの?」
「ああ」
「じゃあ、私のお団子と交換で」
「いいよ」
そうして、交換した団子をお互いに食べる。
「こっちも美味いな!」
「うん!美味しい!」
「抹茶も美味いな」
「コクがあってすごく美味しい」
そうして、2人とも満足した。
あの後、色々な所を回ってから帰って来た。
「楽しかったなー」
とても充実した1日だった。
その後はまた料理を食べ、露天風呂に入ってから寝た。
ここに来て1週間が過ぎた。あっという間の1週間だった。明日にはここを出るつもりだ。何処に行くかは決めてない。まあ、目的地を決めずに旅をするのもいいだろう。
「理亜には世話になったな」
理亜は毎日俺の世話をしてくれた。本当にありがたいことだ。
このまま寝ようかと思った時だった。
「あの、まだ起きてますか?」
「ん?理亜?起きてるけど」
「すみません。こんな時間に」
「いや、いいよ。それよりもどうしたの?」
「はい。明日ここを出発するんですか?」
「うん。そのつもり」
「そうですか……」
何でそんな悲しそうな顔をしてるんだ?
「どうしたんだ?」
「いえ、その……」
何か言いたそうなんだけど、遠慮してるのか言おうとしない。
「……言いたいことがあるなら言ってよ」
「……」
俺は理亜が口を開くまで待つ。
「……あの、もう少しここにいてくれませんか?」
「どうして?」
「それは……」
理由を聞くと、理亜は黙ってしまった。
「理由は言えない?」
「いえ、そういうわけでは……」
「俺は何を言われても平気だ。だから理由を言って欲しい」
「……私、レイ君の事が好きです」
……え?
「一目惚れでした。一緒にいて楽しいし、とても優しい。そんなレイ君が大好きです。だから、レイ君にはここにいて欲しいんです」
「……」
俺の事が好き……か。そんな事言われたのは初めてだな。現実でもこの世界でもそんな風に言われたことないから。
「やっぱり、駄目ですよね。ごめんなさい。今のは忘れてください!」
何も言わない俺に駄目だと思ったのか、理亜は部屋を出て行こうとする。
「ちょっと待って!」
「!?」
「俺は、誰かに誇れるような人間じゃない。それどころか、駄目なやつだ」
これは本音だ。俺は今まで適当に生きてきた。そしてあの日、1人の女の子すら助けられなかった。今も魂の具現化が出来ない。出来ないづくしだ。
「これからも、俺は立派になる保証なんてない。それどころか、もっと駄目になるかもしれない。そんな俺でも、いいのか?」
こんな俺でも、本当にいいのかと理亜に尋ねる。
「……もちろんです。だって、私はあなたの事が好きで、この気持ちは本物だから」
「理亜……」
「それに、レイ君は自分を過小評価し過ぎです。私はレイ君の事をそんな駄目な人だとは思いません。だから自信を持って!」
……何で俺が元気付けられてるんだろうな。かっこ悪い……好きだって言ってくれる女の子の前でくらい、かっこいい所見せねーとな。
「ありがとう。俺は、まだ君の事を全然知らない。優しくて、世話焼きで、遠慮しがち。それくらいしか知らない」
「はい」
「だから、これからもっと君の事を教えて欲しい。いいかな?」
「はい!もちろんです!私もレイ君の事をもっと知りたいです!」
「ああ、いくらでも聞いてくれ!」
「はい!」
そのまま理亜を抱き締めた。
「レイ君!?」
「嫌だった?」
「……ううん。すごく嬉しい……」
そのまま暫く抱き合った。
「ねえ」
「ん?」
「キスしてもいい?」
「何か、急に大胆になったな」
「駄目?」
「いいよ」
ちゅっ。
そのまま俺達はキスをした。
「ん……」
「ぷはぁ」
何か理亜の目がトロンとしてきた。
「ねぇ、最後までしよ」
「え!?いや、それは」
「駄目?」
ちょっ!そんな上目遣いで見てくるのは卑怯だろ!
「いいのか?」
「うん。レイ君ならいいよ」
「……分かった」
覚悟を決めるか……
「じゃあ……」
「うん。来て」
そのまま、俺達は熱い夜を過ごした。