55話
「それじゃあ、教えるぞ」
「はい」
俺は彼女に魂の具現化を教える事にした。
「その前に1つ、約束してくれ」
「何ですか?」
「アイリスには、この力を復讐のために使う気はないんだよな?」
「復讐?」
「ああ、少し難しかったか。つまり、魔族にやり返すために、この力を使うつもりはないんだよなって事だ」
「それは……」
やはり、少しは考えていたみたいだな。
「確かに、アイリスは魔族を許せないかもしれない。けれど、決して魔族にやり返す何て事はしては駄目だ」
「どうして?」
「復讐の連鎖を生むからだよ」
「復讐の連鎖?」
「そう。アイリスが魔族にやり返す。すると、魔族もアイリスにやり返そうとする。それをアイリスがやっつけると、また魔族がやり返そうとする。それがずっと続く。そしてもしアイリスが死んだら、アイリスを大切に思っている人は魔族にやり返すだろう。それが永遠に続くんだよ」
「そうなの?」
「ああ。だから、アイリスには魔族にやり返す事だけはして欲しくない。この力を使う時は、自分か誰かが魔族に襲われている時だけにして欲しい。いいかい?」
「……分かった」
アイリスは、少し考えてから頷いてくれた。
「じゃあ、これは俺とアイリスとの約束だ」
「うん、約束」
これで、一旦は大丈夫だろう。
「それじゃあ、やり方を教えよう」
そうして、俺は魂の具現化の仕方を教えた。
すると……
「出来た!」
「嘘!?」
アイリスはあっさりと成功させた。
これは、アイリスには才能があるのか?
俺はそんな事を考えながら、アイリスの魂が具現化した白い両刃の剣を見ていた。
俺はあれから、アイリスに剣の使い方を教えた。アイリスは筋がよく、どんどん上達していった。
俺は修行をしながら、俺とアイリスとシスターの3人で楽しく生活していた。
そうして月日は流れ、俺達は15歳となった。
思い出すな。俺は15歳になって、シスターに旅に出たいって言ったら、王国での学生生活を勧められたんだっけ。
俺は王国での生活を思い出していた。現実世界では1週間程前、俺の過ごした時間ではもう数百年前にもなる。
懐かしいな。思えば、旅に出るのは15歳になってからが多かったな。まあ、体がある程度出来上がるのが15歳くらいだからっていうのが、大きな理由だがな。
俺はそんな事を考えながら、刀を振るう。
「レイ!」
すると、俺を呼ぶ声がしたので振り返る。
「私も一緒に修行していい?」
そう言ってくるのはアイリスだ。
彼女も15歳となり、成長した。身長は165センチ程で女性らしい体つきになってきた。金色の長い髪は手入れが行き届いていて、日の光を浴びてとても綺麗に見える。顔もとても可愛らしく、偶に一緒に出かけると男からの視線がすごい。
偶にナンパされたりもするようだが、アイリスは全部断っている。偶に実力行使をしてくるやつもいるみたいだが、アイリスはこの8年間の修行でとても強くなったので、その辺の男より強いので返り討ちにしているようだ。
「どうしたの?」
「ああいや、何でもない」
俺は考えるのをやめる。
「いいよ、一緒にしよう」
「うん!」
アイリスの剣の技術は、どんどんと上がってきていて、最近では俺も本気でやらないといけないかと思っている程だ。
まあ、まだ剣技は見せていないんだがな。
俺はまだアイリスに剣技を見せていない。あれを教えろと言われたら困るからだ。
でも、最近はそうも言ってられないんだよな。
アイリスはどんどん強くなってきているので、そろそろ剣技なしでは負けそうだ。
これが才能の差なのか……
俺はそう思わざるを得なかった。本当に才能があるやつは羨ましい。
「まーた考え込んでる」
「あ」
「あ、じゃない!ほら、早くしようよ」
「ああ、悪い悪い」
俺達はそうして、お互いに修行をした。
俺達は修行を終え、孤児院の俺の部屋に移動した。
「今日も勝てなかったなー」
アイリスはそう言っているが、こっちもそう簡単に負けるわけにはいかないからな。
「ねえ、レイって何でそんなに強いの?」
「俺はまだまだだよ。もっと強いやつが世の中にはいるさ」
「え、そうなの!?」
「ああ」
世界は広い。自分が一番強いと思っていても、外に出ると大した事ないってのはよくある事だ。
「そっかー。ねえ、知ってる?」
「何を?」
「ここから遠く離れた所に、セントメイルって国があって、そこに対魔族用の戦士を育成する機関があるんだって」
「そんなところがあるのか」
対魔族用の戦士か。字面通りなら、魔族を倒すためにあるんだろうな。
「そこはね、各国の主要都市で活躍する戦士を輩出する名門校らしいよ」
「そうなのか」
「……ねえ、もしよかったらさ」
「ん?」
「よかったらなんだけど、私と一緒にそこに行ってみない?」
「……え?」
「私ね、そこで学んで戦士になろうかなって思うの」
「え、それ本気?」
「本気よ。私の両親は魔族に殺されちゃった。だから、同じような目に遭う人を減らせたらって思うの」
「アイリス……」
「だから、そのためにそこに行って、私も戦士を目指そうかなって」
成る程な。アイリスはずっと魔族をどうにか出来ないか、今までずっと考えていたようだ。それなら……
「分かった。俺も行く」
「え、本当!」
「ああ。俺もそろそろ旅にでも出ようと思ってたところだったし」
「旅?」
「ああ、世界中を旅しようかなって思っててな。ずっとシスターに世話になるわけにはいかないし」
「そうだったんだ」
「だから、俺も行くよ」
「ありがとう!」
そうして、俺とアイリスはセントメイルに行く事になった。
俺達はシスターにその事を話した。シスターは最初渋っていたが、俺が説得すると何とか納得してくれた。そして俺達は1週間後に旅に出る事になった。
「とまあ、ここまではいいんだが」
俺はベッドの上で寝転びながら、この世界の事について考えていた。
「この世界には人間と魔族がいる」
人間はこの星の北半分に、魔族は南半分にそれぞれ住んでいる。人間が住む地域は人間界、魔族が住む地域は魔界と呼ばれいているらしい。そして、人間は常に魔族に襲われたてきた。魔族は身体能力が高く、ソウル・リベレイターでもあった。とても敵う相手ではなかったが、遂にこちらにもソウル・リベレイターが現れた。
その人達の活躍により、魔族が人を襲う頻度は減った。しかしある時、魔族にもソウル・リベレイターが現れた。それにより、人間と魔族の戦いは激化していった。
「これが俺が調べたこの世界の歴史だ」
しかし、俺は魔族に対して思う事が色々ある。
「先ず、魔族とは何だ?」
元々人間とは別の種族なのか、それとも人間の突然変異種なのか。
「他にも気になる点はいくつかあるな……」
俺はそんな事をずっと考えていた。
そして1週間が過ぎた。
俺とアイリスは孤児院の門の前で、シスターと話していた。
「シスター、お世話になりました」
「お世話になりました」
俺とアイリスはそう言って、頭を下げる。
「いいのよ。それより気をつけてね」
「ああ」
「うん」
俺達は頷く。
「それじゃあ、そろそろ行くよ」
「気をつけてね」
「分かってるよ。シスターも元気でね」
そうして、俺達はセントメイルを目指して出発した。




