48話
気がつけば、真っ白な空間にいた。
「ここはどこだ?」
俺は確か賊と戦っていて、最後は結局何も出来ずに死んだはずだ。
「死んだはずなのに、ここはどこだ?」
いつもなら、死んだ後はすぐに現実に戻るはずだ。しかし、ここはただの真っ白な空間で、現実ではないのは確かだ。
しかも、足が地面についている感覚もない。まるで浮いているようだ。
「いや、これは浮いてるな」
俺はそう思いつつ、ここはどこなのかを考える。
「おい」
すると、声がした。
「何だ?」
確かに声が聞こえた。でも、ここには俺しかいないはず……
「ここだ」
「うお!?」
後ろから声がするので、振り返ると50代ぐらいの男性がいた。
「あの、あなたは?」
「私か?私はクルー・ミリアスだ」
「クルー・ミリアス……って、まさか!」
「私を知っているのか?」
「ミリアス王国の初代国王ですよね?」
「いかにも、そうだ」
やっぱりか!初代国王について書かれた本を読んだ時に、初代国王の名前も書かれていたから覚えていたんだ!
「君は難波レイ君だな」
「え、どうして知ってるんですか?」
「君の事を見ていたからな」
「見ていた?」
「ああ。私は気がつけばここにいた。そこに窓があるだろう。そこから地上の様子を見る事が出来たんだ。それで偶々君を見つけてね。それからは君を観察していたんだ」
あ、本当だ。地上の様子が映っている。それにしてもマジかよ。それだと、かなり長い時間ここにいたんじゃないのか?
「それって、どのくらいの期間ですか?」
「君が王国に来た日から、今までだ」
それだと4ヶ月弱か。
「あの、ここってどこなんですか?」
「すまない。私にも分からないんだ」
「そうなんですか……」
まあ仕方ないよな。他の質問をするか。
「それじゃあ、どうして俺を観察していたんですか?」
「それは君の考え方に共感したからだ」
「考え方?」
「そうだ。君はいつも誰かを助けるために剣を振るっていた。それが私と同じだと思ってね」
成る程。
「俺も初代国王について書かれた本を読んだ時、似てるなって思いました」
「そうか」
「でも、俺は初代国王と違って助けられなかった」
「それは、先程の賊の襲撃の事か?」
「はい。俺は王国を守るって言いながら、結局守れなかった。それどころか自分も死んで、友達まで死なしてしまった」
俺は結局、誰も助けられなかった。
「何を言ってるんだ?」
「え?」
「君は死んでない。それに、友達も死んでない。まだ終わっていない」
……何を言ってるんだ?
「君は死んだからここに来たんじゃない。ただ意識をここに飛ばしただけだ」
「どういう事ですか?」
「君はここに意識を飛ばしただけだ。そして君が来てから今まで、地上の時間はここの何百分の一しか流れてないようだ。だから、まだ終わっていない」
「そんな事があるんですか?」
「ああ。恐らく、君はもう少ししたら地上で目を覚ます。そうしたら、まだ賊に蹴られているところだろう」
マジか!?てっきり終わったと思ってた。
「……でも、このまま意識を取り戻しても、何の解決にもならないですよ。俺はそのまま死ぬだけです」
そう。戻ったところで一緒だ。
「そうだな。このままだと死ぬだけだろう」
「……」
「だが、君は誰かを助けようとした。勇敢に賊に向かって行った。そんな君に、力を授けよう」
「力?」
「そうだ。私の本を読んだ時、呪文のようなものが書かれていただろう」
「呪文……」
そういえば、そんなものがあったな。
「あの呪文を唱えるんだ」
「唱えると、どうなるんですか?」
「それは自分で確認するといい」
「……分かりました」
「それと、1つ注意がある」
「注意?」
「呪文を唱えるには、呪文の通り君の魂が王の魂に相応しくなければならない」
「王の魂……」
「君にとっての王とは何だ?」
王……
「俺にとっての王とは、強くて優しくて、そして民のために全力を尽くす人です」
「そうか。それなら、その事を忘れない事だ。そうすれば、君は力を手に入れる事が出来るだろう」
「分かりました。絶対に手に入れてみせます」
もう、過去と同じ過ちを何度も繰り返すわけにはいかないからな。
「それでは、そろそろ時間だ」
「もうですか?」
「そうのんびりはしていられないだろう?」
「確かに、そうですね」
今この瞬間も、みんなが危険に晒されているからな。
「では、しっかりな」
「はい!ありがとうございました!」
俺はお礼を言って、頭を下げる。
「それではな」
その瞬間、俺は意識を失った。
俺は意識を取り戻した。
「ぐはっ!」
痛え!蹴られてる最中なの忘れてた!まずはこの状況から脱出しないと!
「うわあああああ!」
「な、何だ!?」
「急にどうしたんだ!?」
「おかしくなったのか!?」
よし!大声を出せば驚くと思ったぜ!
俺はその隙に脱出する。
「あ、あいつ逃げやがった!」
「追え!」
賊は俺を追ってくる。
今のうちだ!
俺は初代国王から言われた通り、呪文を唱え出した。
「我、手にするは王の力」
「光を纏い、闇を照らす」
「我が魂、その力を持って」
「光り輝く未来を切り拓く」
「キング・ソウル・ドライブ!」
その瞬間、俺の体を光が包んだ。
「何だ!?」
「何が起こってるんだ!?」
光が収まると、俺は金色の光を纏い、金色のマントを羽織っていた。そして刀も金色に染まっていた。
これは、すごいな。
力が湧き上がってくるのを感じる。
これならいける!
「何だ!?」
「何がどうなってんだよ!?」
賊がそんな事を言っているが、今は無視する。
俺はすぐにトーレス達の所に行く。
「なっ!?」
「いつの間に!?」
俺はトーレスとアリアとミリーナの3人を回収して、すぐにその場を離れる。
「何!?」
「速え!」
俺は少し離れた所にトーレス達を寝かせ、今度はシュウの所に行く。
「何だ!?」
俺はシュウを回収して、トーレス達の所に戻る。
「大丈夫か?」
みんなに声をかける。
「うう……」
「痛い……」
「くっ……」
「ああ……」
どうやら意識はあるようだ。
「少しここにいてくれるか?」
「レイ……か……」
「ああ」
「レイ……」
「ごめん……なさい……」
「気にするな」
「その姿は……」
「ああ、ちょっと色々あってな。少し待っててくれ。すぐに終わらせてくる」
「無理だ……」
「逃げて……」
「大丈夫だよ」
俺はそう言って、刀を両手に持って歩き出す。
「お、おい、何してるんだ!」
「そうだ!あいつをやれ!」
賊はやっと再起動した。そして俺に向かって来る。
遅いな。
俺は構わず歩き続ける。
「うらあ!」
「おらあ!」
2人がかりで襲いかかってくる。両方剣で、左右から斬りかかってくる。
俺はそれを少し体をずらして躱す。
「何だと!?」
「馬鹿な!?」
俺は2人に向かって両手の刀でそれぞれ斬りつける。
「ぐはっ!」
「がっ!」
そうして、2人は倒れた。
「何だ、あいつ……」
「さっきと全然違うじゃねえか……」
「どうなってんだ……」
賊の動きが止まった。
今がチャンスだな。
俺は走った。
「え?」
すぐに一番前にいた賊の前に来た。そのまま斬りつける。
「ぐあっ!」
そのまま倒れた。
「な、何だよ!?」
「に、逃げろ!」
そう言って逃げようとする。
おいおい、この程度で逃げるなよ。
俺は逃げようとする賊に一瞬で肉薄する。
「なっ!?」
「はっ!」
「うぐああ!」
また1人倒した。
これじゃあ埒が明かないな。一気に行くか。
俺はそう決めると、賊が固まっている所に向かって走る。
「こっちに来た!?」
「逃げろ!」
逃すかよ!
俺は一気に駆け抜けて、後ろからどんどん斬りつけていく。
「うああ!」
「ぐああ!」
「ぐはっ!」
「かはっ!」
「あああ!」
そのままどんどん斬りつけていく。
そして気づけば、俺に向かって来ていた賊を全員倒していた。




