39話
みんなが帰った後、俺は1人で少し考えていた。
「明日で国際試合も終わりか」
長かったような、短かったような、そんな感じだな。
「さて、明日が最後の試合なんだが」
その最後の試合が問題なんだよな。対戦相手はあのエーレだ。今日までの計3回の試合を全部見たが、今のところどう戦ったらいいのか分からないんだよな。
「どうエーレに向かって行くか……」
エーレを相手にどんな戦術を用意するかだが、何も浮かばない。
「どうするかな……」
本当に困った。しかも、恐らくエーレは、今までの試合でまだ本気を出していない。そんな相手とどう戦えばいいんだ?
「駄目だ。何も案が浮かばない」
本当に厳しいな。
「先週戦った時は手も足も出なかったな」
俺は先週の対戦を思い出す。お互いに本気じゃなかった。そんな対戦で俺はエーレに何も出来ずに負けた。完敗だった。
「あれから10日程が経ったが、俺はエーレに勝てるのか?」
エーレの剣を振るうスピード、一撃の重さ、反応速度等がどれも一級品だ。
「……こうなったら、俺の全てをぶつけるしかないか」
今の俺の全部をぶつけないと勝てない相手だと思う。形振り構わずにやるしかないな。
「そんじゃ、明日に備えてそろそろ寝るか」
俺は寝室に向かい、そのまま寝た。エーレに最高のコンディションで挑むために。
次の日の朝。
「よし、準備は出来た」
俺は家を出て、歩き出した。今から学院に行く。試合のために。
学院に着くと、みんなが門の前で待っていた。
「お、やっと来たな」
「おはよー」
「おはよう」
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「そんじゃ、行くか」
「そうだな」
俺達は闘技場に向かって歩き出した。
闘技場に着くと、観客席に座った。
「それにしても、今日で国際試合も終わりなんだよな」
「そうだね」
「早かったよね」
「そうですね」
みんな思う事は一緒なんだな。
「なあ、レイ」
「どうしたんだ?」
「今はまだエーレが来てないから聞くけどさ、正直なところエーレに勝てるのかよ?」
「そうだな……正直言って分からない」
「分からないか。無理ではないんだな?」
「ああ。だが、エーレもまだ本気を出してないと思うんだ。だから、分からないってのが正直なところだ」
「そっか」
「エーレってすごく強いもんね」
「だな」
「でもレイ君も強いですよ」
「俺は先週エーレと戦った時に負けてるからな」
「あの時と今は違いますよ」
「……そうだな」
「それに、気持ちで負けてたら勝てませんよ」
そうだよな。気持ちで負けてたら駄目だな。
「ありがとな。頑張って勝つよ」
「はい!頑張ってください!」
「あ、ここにいたんですね」
俺達が話している間にエーレがやって来た。
「おう」
「おっす」
「おはよー」
「おはよう」
「おはようございます」
「おはようございます」
挨拶をして、エーレは俺の隣に座る。
「いよいよですね」
「そうだな」
「今日を楽しみにしてました」
「俺もだ」
そんな事を話している時だった。
「少し来るのが遅かったみたいね」
そうしてエーレの隣に座るのは、ミカだった。
「来るのが遅いって、どういう事だ?」
「あなたの隣に座れなかったからよ」
俺の隣には、アリアとエーレが座っている。
「そんなに俺の隣がいいのか?」
「ええ」
何がいいのか分からんな。
「まあ我慢してくれ」
「仕方ないわね」
納得してくれたようだ。
「あ、そろそろ始まるよ」
見ると、ターレとテレスが入場して来た。
2人とも握手をしている。
「始まるな」
「ええ」
「そうですね」
そうして見ていると、遂に始まった。
開始と同時にターレは銃で連射する。それをテレスは避けるが、俺やミカと同様に近づけない。
その状態が2分程続いただろうか。遂にテレスが痺れを切らして、ターレに向かって真っ向から突っ込んでいった。
そして銃弾を受けつつも、どんどんとターレに接近していく。
そしてテレスの拳が届く範囲まで近づいた。そして、テレスはパンチを繰り出す。
決まるか!?
しかしパンチがターレに届くという時、テレスは倒れてしまった。
「どうやら、テレスは耐えられなかったようだな」
「そうみたいですね」
「あれはレイの真似をしたのかしら?」
「多分な」
「あれは無茶だと思うのだけど」
「それぐらいしか勝つ方法がなかったんだろうな」
これで残すは俺とエーレの試合だけだ。
「そんじゃ、俺達も行くか」
「ええ、そうですね」
俺とエーレは席を立つ。
「頑張れよ」
「頑張ってね」
「応援してるよ」
「2人とも、頑張ってください」
「頑張りなさいよ」
「ああ」
「はい!」
そうして、俺達は入口に向かって歩き出した。
「そんじゃ、俺はあっちだから」
「はい」
そう言って俺はエーレと別れて、エーレと違う入口に向かった。
そして入口に向かって歩いている時だった。
「レイ君」
呼ばれたので振り返ると、そこには何と国王陛下とラルカさんがいた。
「国王陛下とラルカさん!?」
「やあ、久しぶりだね」
「お久しぶりでございます」
「お久しぶりです。あの、国王陛下とラルカさんはどうしてここに?」
「君の試合を見に来たんだ。実は今まで他の国の国王達と集まって仕事してたんだよ。そのせいで君の試合を見れなくてね。それがやっと今日終わって、急いで来たんだ」
「そうだったんですか。お忙しいのに、ありがとうございます」
「いや、いいんだよ。君の試合を見たいって言ったのは僕だしね。それより、試合の相手はあのエーレ君なんだって?」
「あ、はい」
「そうか。彼女は強いからね、大変な試合になると思うけど、君なら勝てるよ」
「はい、頑張ります」
「それじゃ、僕は観客席で見てるからね。頑張って」
「はい、失礼します」
俺はそう言って、再び歩き出す。
国王陛下が応援してくれてるんだ、頑張らないとな。
俺はそう思いつつ、入場する。
俺が入場すると、エーレは既に入場して待っていた。
そこに向かって、俺は歩いて行く。そしてエーレの近くまで来た。
「いよいよですね」
「ああ。お互い、全力でやろうぜ」
「はい!」
そしてお互い握手をする。
「始まるね」
「ああ」
「どっちが勝つんでしょうか?」
「分からないけど、エーレの方は前にレイを倒してるからね」
「エーレの方に分があるのは間違いないわ。それは2人とも分かってると思う」
「レイ君はどうするんでしょうか?」
「そうね。レイが勝つには何とかして剣技を決める事ね」
「ですが、エーレさんも今までレイ君の剣技は見てきていますよ」
「そうね。レイにはまだ見せていない剣技があるのかしら?」
「この国際試合で使ったもの以外で、私達が見たものだと、あといくつかありますね」
「それを決める事が出来ればってところだな」
「上手くいくかな?」
「そうでなければ負けるだけよ」
その後はみんな黙って、試合が始まるのを待った。
「それでは、時間になりましたので始めたいと思います」
審判がそう言うので、俺とエーレは位置に着く。
「はあ!」
「リベレイト!」
そしてお互いに武器を出す。
いよいよこの時が来た。
俺は刀の切先を地面すれすれに構える。
「両者、準備はいいですか?」
「はい」
「はい!」
「それでは、始め!」




