38話
「ねえ」
「ん?」
隣に座ったミカが俺に話しかけてきた。
「この試合、エーレが勝つわよ」
「そんなの分かんねーだろ」
「それ、本気で言ってる?」
「……」
確かに、俺もエーレが勝つと思っている。しかし……
「どんな事にも絶対はないからな」
「そうね。でも、エーレが勝つ。それ程エーレは強いわ」
「そうだな」
「……何でそんなに余裕そうなの?」
「余裕そう?」
「そうよ。エーレの強さは分かってるはずよ。それなのに、あなたは全然緊張した様子がないわ。明日戦うっていうのに」
「ミカには俺が緊張していないように見えるのか?」
「ええ」
「そうか。これでも緊張はしてる。俺はエーレに負けてるしな」
「でも、そんな風には……」
「まあ、負けるなんて思ってないからな」
「どこからそんな自信が来るのよ」
「まあ根拠はないよ。でも、俺は負けない。1度負けてるからな」
「普通は1度負けたら、また負けるかもって思うはずよ」
「そうか?俺はそんな風に考えた事ないな」
「……すごくポジティブなのね」
「まあそうかもな」
「少し羨ましいわ」
「ミカはネガティブなのか?」
「ネガテイブって程ではないと思うけれど、まあレイのようにポジティブではないのは確かね」
「そっか。まあ人それぞれだからな」
「そうね」
そんな事を話しているうちに、エーレとターレが入場した。
「始まるな」
「ええ」
俺達は会話をやめて、これから始まる試合に集中する事にした。
エーレとターレは試合前の挨拶をしていた。
「よろしくね」
「うん、よろしく」
握手をして、お互い位置に着く。
「それでは、時間になりましたので始めたいと思います」
お互いに武器を出して構える。
「両者、準備はいいですか?」
「はい!」
「はい」
「それでは、始め!」
ダダダダダ!
ターレがすぐに銃で連射してくる。そしてエーレはそれを走って避ける。
ここまでは他の3人と同じ展開だった。しかし、すぐにエーレは攻撃を仕掛けるため、ターレに向かって走り出す。
「やっぱりそうくるよね!」
ターレはそう言って、より連射速度を上げた。それにより、今までより多くの銃弾がエーレに向かって行く。
「はああああ!」
しかし、エーレはそれをジグザグに進む事によって避けていく。
それを見たターレは一瞬驚くも、すぐに連射を再開する。
しかし、それでもエーレは止まらない。いや、より加速していく。
そして遂に……
「はああ!」
「ぐはっ!」
エーレはターレを剣で斬りつけた。それにより、ターレは気を失った。
「試合終了!勝者、エーレ・テトラ!」
試合はすぐに終わった。
「終わったわね」
「ああ」
すごく早かった。時間にして1分程だ。
「エーレ、まだ本気じゃないわよ」
「……やっぱりか」
「分かってたの?」
「いや、何となく思ってただけだ。ミカは知ってるのか?」
「私も知らないわ。でも、エーレはまだ余力を残してる気がするの」
「だよな」
恐らく、エーレが追い込まれてるところを見た事がないからそう思うんだろう。
「何してんだよ、行こうぜ」
そう言われてトーレス達の方を見ると、もうみんな立ち上がっていた。
「ああ、悪い。行こうか」
「そうね」
そう言って俺達も立ち上がる。
「何?2人でずっと話してたけど、もうそういう関係なの?」
「そういう関係?」
「何の事だ?」
「だから、付き合ってるのかなって」
「ミリーナ!そういう事は言わない方がいいですよ!」
「そうだよ」
何か勘違いされてるな。
「別に俺達はそんなんじゃないさ。ただ、エーレについて話してただけだよ。な、ミカ」
「……」
おいおい、真っ赤になってんだけど。この手の話は苦手なのか?
「おい、ミカ」
「は、はい!」
「しっかりしろよ、揶揄われてるだけだから」
「え、揶揄われてる?」
「そうだ」
「……ミリーナ」
「あ、やば!」
「待ちなさい!」
そう言って2人はどこかへ行ってしまった。
「何やってんだか」
「え、今のって揶揄ってたんですか?」
「いや、違うと思うぜ」
「本気で聞いてたんだと思うよ」
「ん?どうしたんだ?」
「いや、何でもない。それより行こうぜ」
「そうだな」
俺達はそうして歩き出した。
途中でミリーナとミカの2人と合流した。その時、ミリーナが泣きそうになってたんだが。
「大丈夫ですか?」
「……怖かったよ」
「自業自得です」
2人はあんな感じだ。
「お、エーレ!」
トーレスがエーレを見つけて名前を呼ぶ。するとエーレがこちらに気づいた。
「みなさん、勝ちました!」
「うん。見てたよ!」
「ああ、すごかったぜ!」
「お疲れ様でした!」
「お疲れ様」
「よかったわよ」
「お疲れ」
「ありがとうございます!」
「そんじゃ、帰るか」
「そうだね」
そうして、みんなで帰る事にした。
のだが……
「何でついて来たんだよ……」
「またレイの作ったご飯をご馳走になろうと思ってね」
「私も!」
「俺も!」
「僕も!」
「私はみんなが行くならって思って」
「すみません。ご迷惑ですよね?」
「……はあ、もういいよ。今日もみんなの分の晩ご飯を作るから」
「やったー!」
「やったな!」
「やったね!」
「ありがとう」
「お言葉に甘えます」
「私、今日もお手伝いしますね」
「ああ、助かる。それと、食材を買いに行くな。もう家にないから」
「おう!」
「はーい!」
「うん!」
「お前らは荷物持ちな」
「げっ!」
「嘘!?」
「そんな!?」
「ただで飯を食うのはなしだ」
「私達は?」
「ああ、2人は食器の用意を手伝ってもらうよ」
「分かったわ」
「頑張るね」
そうして、俺達は食材を買いに行った。
「よし、作るか」
「はい!」
俺達は家に帰って来た。そして、俺とアリアは今から料理を作る。
「じゃあアリア、野菜を切ってくれ」
「分かりました!」
そうして俺とアリアは料理を作り始めた。
それから2時間程経った。
「よし、完成だ!」
「出来ましたね!」
「じゃあこれを運ぶから、エーレとミカとアリアは手伝ってくれ」
「任せて」
「分かったわ」
「はい!」
そうして、俺とエーレとミカとアリアで料理を机の上に並べていく。
「うわあ!美味しそう!」
「今日のもすげーな!」
「手が込んでるね!」
もう3人が来た。早いな……
そうしている間にも、料理は並んでいく。そして並べ終えた。
「じゃあ食べるか」
俺達は椅子に座って食べ始める。
「美味え!」
「美味しい!」
「うん、美味しい!」
「本当に美味しいわね」
「どれも見た事ない料理ですね」
「どれもレイ君のオリジナルだそうですよ」
今日作ったのは、グラタンとビーフシチューだ。どっちも好評のようでよかった。
それと、この2つも俺のオリジナルにしてすみません。
「これ何て言うの?」
「それはグラタンだ」
「こっちは?」
「そっちはビーフシチューだ」
「レイって本当にすごいな」
「ねえ、やっぱり私の家のシェフにならない?」
「駄目!」
「駄目です!」
何でエーレとアリアが否定するんだよ。まあいいけど。
そんな事がありつつも、俺達は楽しく晩ご飯を食べたのだった。
「そんじゃ、帰るな」
「ごちそうさま!」
「美味しかったよ!」
「ありがとうございました」
「また来ていいかしら?」
「ああ。流石に毎日はやめてくれよ?」
「毎日来たいけど、流石に来れないわ」
来たいのかよ……
「レイ」
「どうした?」
エーレが話しかけてきた。
「明日、勝たせてもらいますね」
成る程。
「俺も負けるつもりはないぜ」
「はい!」
「そんじゃ、また明日な」
「ええ。それでは」
そうして、みんな帰った。




