34話
学院を出てから、5分程で喫茶店に着いた。
俺は店の前でミカ王女を降ろす。
「恥ずかしかった……」
「大丈夫?」
「本当にレイ君は……」
何か色々とおかしいが、まあいいだろ。
俺達は中に入って空いてる席に座る。そして、みんな注文を済ませた。
「それで、話って何ですか?」
「そうでした、あまりの恥ずかしさで忘れてました」
そんなに恥ずかしかったのか……
「すみません」
「いえ、ご厚意でしてくれた事ですし、もういいんですよ」
そう言ってくれると助かるな。
「ありがとうございます」
「いえ。それで、お話なんですけど」
やっと本題に入れるな。
「あなたがテレスや私と戦った時に使っていた剣術……心証流でしたか?」
「はい、そうです」
「それについてお聞きしたいなと思いまして」
心証流について?
「どうしてですか?」
「東にあるエード王国の事はご存知ですか?」
「そんなに詳しくは知りません。ただ、武術が盛んで流派もあるとは伺っています」
「それをご存知でしたら話は早いですね。私はエード王国の王女です。幼い頃から国の事について沢山勉強しました。もちろん、武術についても」
「やっぱり王族って大変なんですね」
「ええ。それで、武術について勉強した時は心証流という剣術は聞いた事がありませんでした。もちろん、今まで使っている人も会った事はありません」
そりゃそうだろうな。何せ師匠のオリジナルで、その上師匠はこの世界の人間じゃない。使っているやつがいなくて当然だ。
「それで、心証流について聞きたいと」
「はい」
成る程。
「前に私達も聞いたよね」
「そうですね。確か、山奥で会ったおじいさんに教わったんでしたよね?」
「ああ、そうだ」
「山奥?それはどこですか?」
うーん。本当の事を話すわけにもいかないし、ここは適当に誤魔化すか。
「先ず、師匠と会ったのは俺が幼い頃で、どこの山かは忘れました。そこで師匠と出会い、俺は心証流の剣技を学びました。師匠は俺と会ってから4年後に亡くなりました」
「その師匠って人はエード出身だったのかしら?」
「それは分かりません。ですが、心証流は師匠のオリジナルだと聞いています」
「そう。それなら聞いたことがないのも納得だわ」
「その心証流って、テレスやミカに対して使っていたものがそうなの?」
「ああ、そうだよ」
「私に対して使っていたのは、確か騰と円だったかしら?」
「ええ、そうですよ」
「騰?円?それって何なの?」
あまり教えるのもなぁ。
「騰は剣を下から上に振り上げるからで、円は円のように回転するからかしら?」
当てられちゃったよ。まあ、名前で分かるか。
「そうですよ。俺の剣技は技の名前がどんな動きか表しています」
「そうだったんだ!」
「知りませんでした」
「初耳だよ」
「言ってくれよ!」
「いや、別に言わなくてもいいだろ」
「俺は知りたかったんだよ!」
「そ、そうか」
何でそんなに俺の剣技に興味があるんだ?
「……まあ、俺から話せる事はここまでですね」
「ありがとうございます」
そのタイミングで、注文したものが来た。俺達は一旦話を中断し、飲み物を口にする。
「いえ。それでミカ王女、俺からも質問してもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
「ミカ王女の武術、あれって手首で薙刀の軌道を操ってるんですよね?」
「……あの試合でそこまで分かったんですか?」
「ええ、気づいたのは2回目の時です。俺は横に飛んで避けたのに、薙刀は俺の方に向かって来た。俺が横に飛んでから、薙刀を一旦引き戻して再び繰り出してくるとすれば、あの一瞬では無理です。でも、実際薙刀は横に飛んだ俺の方に来た。それが出来るとすれば、手首を使って薙刀の軌道を変えたとしか思えませんから」
「……すごいですね、その通りです。私の武術は手首を使って薙刀の軌道を変えるというものです」
「昨日ターレ王子に攻撃した時も、手首を捻って薙刀の軌道を変える事で2連撃にしたんですね」
「あれも見えていたんですか」
「俺だけじゃなく、エーレも見えていましたよ」
「はい」
「……成る程。それは負けても仕方ないですね」
「いえ、俺も一撃当てられましたし、危なかったですよ」
「それでもあなたは倒れなかった。なら、私の負けですよ」
「そうですか」
まあ俺がどうこう言っても仕方ないだろうし、この話はここまでにするか。
「それで、お願いがあるのですが?」
「何ですか?」
「また、私と戦っていただけますか?」
何だ、そんな事か。
「もちろんですよ」
「ありがとうございます、難波レイさん」
「レイでいいですよ」
「では、私もミカでいいですよ。エーレの事も呼び捨てで呼んでいるのでしょう?」
「分かりました」
その後、俺達は色々な話をした。それにより、みんなミカと仲良くなった。
やっぱ王女って言っても、みんなと同じ16歳の女の子なんだな。
「少し疲れたな」
俺は今、家に帰って来てゆっくりくつろいでいる。
「まさかミカがあんなに食いついてくるとは……」
あの後も、ミカは俺の剣技について聞いてきた。しかもミカだけじゃなくエーレとアリアも聞いてきたので、少し困った。
「アリアはいいんだけど、エーレはちょっとな」
エーレとは金曜日に戦わないといけない。それなのに、俺の剣技を教えるわけにはいかないからな。
それを言うと、ミカもエーレもアリアも国際試合が終わったら話して欲しいって言ってきた。
「そんなに心証流の剣技について知りたいのか?」
まあいいか。でもあまり教える事は出来ないけどな。師匠に教える人は選べって言われたし。もし教えるとしたら、俺も師匠みたいに1人かな。
「お、もうこんな時間か」
時計を見ると、もう午後11時になっていた。
「そろそろ寝るかな」
俺は明日ターレ王子と試合がある。エーレも試合がある。エーレとはまだ戦っていないから、少しでも見ておかないとな。
俺は立ち上がって寝室に行き、そのまま寝たのだった。
次の日。
「そろそろ行くか」
俺は今家で出かける準備をしていた。まあ出かけるって言っても、学院の闘技場に行くだけなんだけど。
俺は家を出て、学院に向かった。
「あ、レイ!」
「おはよー」
「おはようございます!」
「おはよう」
「おっす。みんな早いな」
学院に着くと、既にみんながいた。
「みんなさっき着いたところなんだ」
「そうなのか。それじゃ、行こうぜ」
俺達は闘技場に向かった。
「レイ!」
「お、エーレか」
俺の名前を呼んで、エーレが近づいて来る。
「レイ、今日も勝って来ますね」
「ああ。相手はミカだけど、頑張れよ」
「はい!」
そう言って、俺はエーレの応援をする。
「あら、私の応援はしてくれないの?」
そう言って近づいて来たのはミカだった。
「え……いや、まあエーレは俺に勝ってるから、出来れば俺と戦うまで負けて欲しくないなと思って」
「それじゃあレイは私に負けて欲しいんだ」
「いや、そう言うわけじゃ」
「じゃあ私の応援もしてくれる?」
「ああ、そうだな。頑張れよ」
「何かエーレの時より雑な感じがするわね」
「ええ……」
俺はどうすればいいんだよ……
「何か修羅場だね」
「だな」
「近寄らない方がいいね」
「そうですね」
そこ!しっかり聞こえてるから!
「はあ……まあ、エーレもミカも折角仲良くなったんだ。俺は中立でどっちの応援もするよ」
「まあ、それならいいわ」
何とかなったな。よかったよかった。
「そろそろ行かないといけないわね」
「あ、本当ね」
「そっか。じゃあ頑張れよ」
「応援してるぜ!」
「頑張ってね!」
「頑張ってください!」
「頑張って!」
「はい!」
「ありがとう」
そう言って、2人は行ってしまった。
「じゃあ、俺達も行くか」
「そうだな」
俺達も試合を見るために移動した。




