28話
次の日。俺は学院に登校して、朝からトーレス達に昨日の事を話していた。
「マジか!あのエーレって王女が!」
「ああ」
「すごいね!」
「そうか?」
「そうですよ!だってテトラ王国の王女様ですよ!」
「そうか」
「それで、どんな感じだった?」
「うーん。あまり王女様って感じはしなかったな」
大分フレンドリーな人だったし。
「そうなの?」
「ああ」
そんな事を話していると先生が来たので、みんな席に戻った。
「えー、今日から数日間このクラスに新しい仲間が加わります。入ってきてください」
先生がそう言うと、女の子が入って来た……って、エーレじゃないかよ!
「みなさん、初めまして。エーレ・テトラと申します。短い間ですが、よろしくお願いします」
ざわざわ。
「おい、あれって!」
「本物!?」
「何で!?」
クラスのみんなも驚いている。仕方ないか。
「あ、レイ!」
「ああ、おはよう」
こちらに気づいて声をかけてくれるが、クラスのみんなはそれにも驚いている。
「難波は王女様と知り合いなのか?」
「はい、昨日お会いしまして」
「そうか。なら難波の後ろの席でよろしいですか?」
「はい」
え、俺の横に来るの!?
俺の席は少し前の席替えで、窓側の一番後ろになっている。後ろは確かに空いているが、態々ここに来なくても……
そんな思いは届かず、先生が机と椅子を持って来てしまう。そしてエーレは俺の後ろの席に座った。
「よろしくね」
「……はい」
俺はそう答えるしかなかった。
昼休み。
「へー、そうなんだ」
「はい。ですから色々と制限が多くて」
「大変なんですね」
「俺だったら逃げ出してるな」
「僕も無理だよ」
今俺達は昼食を食べているんだが、王女様がめちゃくちゃ馴染んでる。最初はみんな遠慮してたんだが、その性格故にみんなも次第に仲良くなっていった。それに加えてすごいコミュニケーション能力だ。まあ王女だから色々な人と話す機会が多いだろうから、コミュニケーション能力に長けてるのは当然か。
「ねえ、レイはどんな感じで今まで過ごしてきたの?」
「ん?何だって?」
「だから、レイは今までどんな風に生きてきたのかって」
「ああ、そうだな。俺はずっと修行をして生きてきたな」
「修行?」
「ああ」
「そう言えば、レイに休日何してるって聞いても、修行しか答えが返ってこなかったな」
「だって修行しかしてないからな」
「そんなに修行してるんですか?」
「ああ」
「何か理由でもあるんですか?」
……理由はある。しかし、ここで言うもんでもないしな。
「まあ修行が好きだからかな」
「そうなんですか」
そう誤魔化しておく。
「そうだ!午後の授業って実技ですよね?」
「そうだよ」
「じゃあレイ、私と対戦しましょう!」
「……は?」
「それでは始めますね」
「ああ」
何でか分からないが、俺はエーレと対戦する事になった。本当に何でこうなった……
「ふっ!」
エーレが武器を出した。聞いていた通り剣、あれは確かブロードソードだったか。
彼女は剣を構える。俺も武器を出すか。
「リベレイト!」
ブンッ!
俺の腰の左右に1本ずつ刀が現れた。
「え、透明?」
「ああ、俺のは特殊なんだ」
そう言えば、この反応も久しぶりだな。
「じゃあ始めるか」
「そ、そうね」
俺達は構える。そして、エーレが走って来た。中々のスピードだ。
「はあ!」
そして彼女が上段に構えていた剣を振り下ろす。
「ふっ」
俺はそれを刀で受ける。
「え?」
しかし一瞬だけ拮抗し、すぐに俺が押し負けた。
「ぐあ!」
そのまま俺は後ろに吹き飛ばされる。何て力だ。
「まだまだ!」
俺は体勢を立て直そうとするが、追いかけて来たエーレに俺は不安定な体勢で攻撃を受けた。
「ぐうああ!」
俺はまた吹き飛ばされた。くそ、このままじゃやばいな。
俺は止まると前を見た。
「なっ!?」
見るとエーレがもう既に来ていた。やばい!
「はああ!」
「くっ!」
俺は無理矢理刀を前に出し、エーレが繰り出した水平斬りを受ける。しかし、今度は刀を弾かれるだけだった。まずい!
「やああ!」
「くそおおお!」
俺は無理矢理刀を引き戻そうとしたが、間に合わない!
「ぐああああ!」
俺は腹を斬りつけられ、その場に倒れた。
「……ここは?」
俺は目を覚ますと、どこかの部屋に寝かせられていた。
「気づいた?」
「え?」
声のする方を向くと、白衣を着た女の人がいた。
「ここは保健室よ。あなた、授業中に気絶したのよ。クラスメイトの子達が運んでくれたんだけど」
……そうか。俺はエーレと対戦していて、それで負けたんだ。
「そうなんですか」
「今はもう放課後だけどどうする?もう少し休む?」
「いえ、もう大丈夫です。ありがとうございました」
俺はお礼を言って保健室を出た。廊下を歩いて教室に向かう。
「俺、負けたんだな……」
何も出来なかった。俺もエーレも本気を出していない。それでも何も出来なかった。
「こんなにも実力に差があるなんて……」
正直、甘く見ていたようだ。
「俺、まだまだだな……」
こんなんで国際試合で勝てるのか?他の3人もエーレと同じかそれ以上の強さだとしたら……
「今のままじゃ勝てないな……」
くそっ!
そんな事を考えていると、教室の前まで来ていた。
ガラガラ。
教室のドアを開けて中へ入る。
「あ、レイ」
「もう大丈夫なの?」
「ああ」
中にはみんながいた。
「レイ、ごめんね」
そう言って謝ってくるのはエーレだ。
「何でエーレが謝るんだよ」
「だって私が最後、少し本気を出しちゃったから」
少し本気を出したか。そんな事言うなら、俺は最後本気も本気だった。本気で防御しようとしたんだ。それなのに……
「いや、いいよ。それより強かったよ。本当に」
「え、そう?ありがとう」
「じゃあ、俺帰るよ」
「あ、じゃあ俺達も帰るか」
「悪いなトーレス、今日は1人で帰りたいんだ」
「……そうか、分かった。またな」
「ああ」
俺はそう言って、鞄を持って1人で帰った。
「……私のせいですよね」
「気にする事ねーよ」
「そうそう」
「レイ君は少し疲れただけですよ」
「そうだね」
「……そうですかね」
「そうだよ。じゃあ俺達も帰ろうぜ」
「そうだね!」
トーレス達も帰ることにしたのだった。
「はあ、どうするか」
俺は今家にいる。椅子に座って、今日の試合についてずっと考えていた。
「あと1週間もないんだよな」
今日が火曜日で来週の月曜日から国際試合は始まる。1日2試合で5日間行われる。5人で試合を行うので、5人とも1日だけ試合がない日がある。
「そんな状況で、俺は恐らく5人の中で実力が一番下か」
何だか泣きたくなってくるな……
「でも、そうも言ってられないしな」
このまま何もせずに試合に臨むのは簡単だ。そして結果は火を見るよりも明らか。
「でも、それだけは嫌だよな」
今日の結果が今の俺の実力だ。それは変えようのない事実。でも、それで諦めるのだけは駄目だ。せめて足掻きたい。足掻いて足掻いて、そんで勝ちたい。
「それなら、やることは決まってる」
俺はそう言って立ち上がり、荷物を纏める。今は1秒でも時間が欲しい。出来るだけ荷物は少なくする。
「行くか」
俺はそれが終わると家を出た。




