269話
あれから数日。
特に変わった事のない、平和な日常を過ごしていた。
俺と錦さんは警戒態勢を敷き、またあの男が現れた場合に備えている。
しかし、また現れたとしたらどう対処するか……そこだけが懸念点だ。
俺がいれば大丈夫だとは思うんだけど、もし俺がいない時に襲撃されると……
「ねえ、レイ?」
「ん?」
考え事をしていると理亜に呼ばれた。
そちらに顔を向けると、何やら心配そうな顔をした理亜がいた。
「どうしたんだ?」
「えっとね……あの人は私のことをどうするつもりなのかなって」
あの人とは襲撃してきたあいつのことだろう。
「さあ。そればかりは俺にも分からない。でも……」
「でも?」
「次に来た時は絶対に捕まえる。そんで、理亜達が安心して生活できるようにするさ」
俺がそう言うと、理亜は一瞬呆気に取られた顔をする。
しかしすぐに苦笑すると、俺の手を取る。
「あまり無茶はしないでね。レイが強いのは分かってるけど、あの人は危険よ。セカンド・フェイズだって使えるくらいだし、まだ奥の手があるかも……」
「あいつの底が知れないと言いたいのか?」
「うん……」
まあ確かにあいつの底は知れない。
それは間違いない。
だが……
「それは俺にも言えると思うけどな」
「え?」
「理亜は俺の実力を全て見たと思ってるなら、それは違うよ」
「それって……」
まあ、ここで詳しく言う必要もないだろう。
「まあ、次にあいつが来たら必ず捕まえる。だから理亜はあまり心配せず、いつも通りでいてくれ」
俺が笑顔で言うと、理亜は驚きつつも頷いてくれた。
「ええ、分かったわ。それじゃあ、私は席に戻るわね」
「ああ」
そう言って席に戻る理亜を見送っていると、隣から視線を感じた。
そちらを見ると、優香がこちらを見ていた。
「どうしたんだよ?」
「……偉そうなこと言ってたけど、本当に大丈夫かなーって思ってたの」
「何だよ、優香は俺があいつに負けるって言いたいのかよ?」
「そうじゃないけど、その余裕が命取りにならないかなーとは思っちゃうよね」
そうか、優香には今の俺は余裕ぶってるように見えるのか。
「まあ否定はしないよ。でも……」
「でも?」
「それくらいのハンデがないと、あいつは一瞬で終わる」
ただ事実を告げる。
俺の言葉に優香は呆気に取られてしまっている。
まあ、分からなくても仕方ないか。
「そろそろ授業が始まるぞ。いつまでも呆けてないで準備しろよ」
俺は優香にそう言うと前を向く。
「っ!もう、知らないからね!」
優香は少し怒っていた。
さっきのは彼女なりに俺を心配してのことだったのかもしれない。
だが、これくらいで心配しないでもらいたい。
「……俺にはこのくらいのハンデを背負わないと意味がないんだよ」
ぼそりと呟いた俺の声は、教室に入って来た先生の号令によってかき消された……
放課後。
俺達が帰ろうとすると、殺気を感じた。
「「!?」」
錦さんも感じたのだろう、お互いに顔を見合わせると理亜と優香を背に隠しつつ、殺気のした方を見る。
まさかこうも早く仕掛けてくるとはな……
「え、レイ?」
「どったの?」
理亜と優香は状況が掴めていない。
すると……
「おいおい、そこまで殺気は出してないはずだぜ。
廊下の曲がり角からあの男が出てきた。
「生憎、殺気には敏感でな……それよりも、ここは学園の敷地内だぜ。堂々と不法侵入とは中々大胆だな?」
「はっ!そんなの関係ねぇよ!俺はただ目的を達成する!そのためだったら何でもしてやるよ!」
「そうか、よく分かった……じゃあ、少し付き合ってもらおうか」
そう言って、俺は理亜を抱き抱える。
「えっ!?」
「捕まってろよ」
俺は手近の窓を開け、そのまま外に飛び出した。
「えー!?」
「難波殿!?」
驚く声を背に、俺は見事着地を決める。
「理亜が欲しかったら俺を捕まえてみろ」
そう言って走り出すと、あいつも窓から飛び出してきた。
「大人しく渡せよ!」
嫌だね。
俺は走る。
そうして校庭まで出てくると、真ん中で止まった。
「観念したか!」
後ろからはあいつがすぐに追いかけてきて、俺から10メートルくらい離れたところで立ち止まる。
「観念?そんなのする必要ないね」
俺は理亜を下ろすと、あいつの方を向く。
そして……
「リベレイト」
刀を出す。
「はっ、やる気か!」
あいつもソウル・ウェポンを取り出すと構えを取る。
この間負けたばっかりだってのに、随分好戦的なことだ。
「はあっ!」
しかも今回は初っ端からセカンド・フェイズときた。
「とっとと終わらせてやるよ!」
そう言ってこちらに銃口を向ける。
すぐに銃弾を発射してくるが、俺はそれを難なく避ける。
もちろん理亜に流れ弾が行かないようにしながらだ。
「はあっ!」
俺が銃弾を避けている間に接近していた男は、そのまま剣を振り下ろしてくる。
俺はそれを避けてそのまま迎え撃とうとした。
「甘ぇよ!」
しかし男は返す刀ですぐに銃弾を発射してくる。
至近距離からの銃撃だ。
受ければまずいだろう。
「そんなのは効かねぇって」
俺は常人ではありえないような反応速度でもって、銃弾を避ける。
「何!?」
男が隙を見せたので、俺はそこに一撃を叩き込む。
「心証流秘剣・壱ノ型ー円」
縁を描くように放たれた一撃は、吸い込まれるように男の胸に命中。
そのまま男は後方へと吹っ飛んでいった。
「ぐっ!?」
突然痛みがしたので左腕を見ると、そこには銃弾の跡があった。
「……へっ、あれだけやってその程度の傷かよ」
男の方を見ると、笑いながら立ち上がろうとしていた。
「……成る程、あれからまた強くなったわけか」
「俺はあの時からまた強くなった。お前にはもう負けはしねぇよ」
そう言って立ち上がり、静かに佇む姿は確かに以前とは違っていた。
「レイ殿!」
「レイ!」
そこで錦さんと優香がすぐそばまでやって来た。
見ると、学校に残っていた生徒達が何事かとこちらの様子を伺っていた。
しかもその数は段々と増えている。
まあ、これだけ派手にやれば気付くだろう。
俺は改めて男に向かって言う。
「そうか……ギャラリーも集まりつつあることだし、ここは早めに決着をつけるとするか」
「何?」
「少しは強くなったようだけど、俺の方がまだ強いよ」
「はっ、何を言ってやがる。俺はまだ本気を出しちゃいねぇ。それなのにお前と互角ってことは、俺の方が強いってことだと思うがな」
「何も本気を出してないのが自分だけと思ったら大間違いだぜ」
俺はそう言うと一度目を閉じ、次に目を開くと言葉を発した。
「……セカンド・フェイズ」
その瞬間、俺の刀の形状が少し変わる。
しかしそれ以外には特に変化は起こらない。
一見すると何も変わらないように見えるだろう。
「セカンド・フェイズ?どこがだよ?何も変わってねぇじゃねぇか」
馬鹿にしたように男は言う。
やはり分かっていないようだ。
俺はゆっくりと歩を進め、男に接近しようとする。
「何ゆっくり歩いたんだよ!お前のセカンド・フェイズってのは、鈍間になることだったのか!」
そう挑発してくるが、俺は無視する。
その間に俺と男の距離は三メートルを切っていた。
「はっ、さっさとくたばれ!」
男は銃口をこちらに向ける。
そして狙いを定めた頃には俺は男の前から消えていた。
「……は?あいつはどこに……」
「後ろだよ」
「!?」
男の後ろから声をかける。
振り返らずに漢は前進し、俺と距離を取ろうとした。
ドンッ。
男は前進してすぐに何かにぶつかった。
「痛ぇっ。何だ……」
男がぶつかったのは、たった今後ろにいたはずの俺だった。
「なっ!?」
「そう動揺するなよ。鈍間がゆっくりと移動しただけじゃないか」
俺は男を見下ろしながらそう言った。




