268話
男はすぐに後ろを振り返った。
だが、そこには誰もおらず……
「こっちだ」
「!?」
今度は後ろから声がして、慌ててそちらに向かうとした。
「ふっ」
「ぐああっ!」
しかし、その前に男は攻撃を受けた。
何とか歯を食いしばって痛みに耐えた男は、バックステップでその場から離脱する。
「流石はセカンド・フェイズ。今の攻撃を耐えるんだな」
そう言いつつ、男を鋭い眼光で見ているのはレイだった。
「お前……」
男はレイを睨みつける。
「あのさ、あんたが何で理亜を狙ってるのか知らねえけど……」
そこで言葉を切り、俺は殺気を放ちながら続きを口にした。
「俺がいる限り、理亜には手出しさせねえ!」
言い終えると、俺はその場を蹴って一気に加速する。
「ちっ!」
だが、男は瞬時にその場から飛び退き、俺から距離を取ろうとする。
しかも男はセカンド・フェイズ状態なので、こちらよりもスピードは上だ。
そのため、距離が縮まるどころか広がっていく。
「ははっ、どうした?その程度のスピードで俺に追いつけるわけねーだろ!」
男は俺が追いつけないと分かると、途端に強気になる。
「そんなもんなら、お前の実力も大したことないんだろうな!へっ、焦って損したぜ!」
そうして逃げるのをやめると、今度はこちらに突っ込んで来た。
「もう逃げるのはやめだ!そんな事しなくても、お前を倒せそうだからな!」
そう言ってこちらに剣を向ける。
「レイ!それはただの剣じゃないの!それは……」
バンッ!
理亜が言い終える前に、男は剣の柄の部分の引き金を引いた。
そして、剣から放たれた光は一瞬で迫る。
「おっと」
しかし、それを横に飛んで避けた。
「なっ!?」
男は完全に隙をついたと思ったので、避けられた事に驚いている。
「……セカンド・フェイズで銃と剣が一体になったのか」
「お前……何で今のを……」
「ん?俺が避けたのがそんなに驚くことか?」
「そりゃそうだろ!今の攻撃は初見のはずだ!いや、初見じゃなくてもそうそう避けられるもんじゃねえ!」
「そうは言うけどさ……お前の攻撃って、読みやすいんだよな」
「読みやすいだと!?」
「俺はお前より強いやつと数えきれないくらい戦ってきた。そんなやつらと戦ってるとさ、時々すげーことを思いつくやつがいるんだよ。そんなやつらの攻撃に比べたら、お前の奇襲なんて簡単に避けられる」
そう言って、俺はこいつと対峙して初めて剣を構えた。
「見せてやるよ、本当の戦い方ってやつを」
その瞬間、一気に走り出す。
「へっ、そんなただ前から突っ込んでくるだけが本当の戦い方なのかよ!」
そう言って、向こうもこちらに向かって剣先を向けた。
「そらよ!」
剣先が閃き、再び光の弾丸がこちらに放たれる。
俺はそれを横に飛んで避ける。
「甘いんだよ!」
しかし男は俺の動きを予測していたのか、避けた先にも光の弾丸を放っていた。
「……ゾーン」
そう呟いた瞬間、俺以外の全てが遅く感じるようになった。
これにより、不意打ち気味に放たれた光の弾丸を躱すことに成功。
「何!?」
それを見た男の表情が驚愕のものとなる。
俺はその一瞬の隙をついて、一気に駆け出した。
「しまっ!?」
男は咄嗟に攻撃を仕掛けようとするが、もう遅い。
これで決める!
「心証流秘剣・壱ノ型ー焔」
死角から放たれたその一撃は、男の腹から肩を斬り裂いた……かに見えた。
「!?」
手応えがない!?
全く手応えがなかったので、男の方を見てみる。
するとそこには、男の姿はなかった。
「……は?」
さっきまでそこにいたはずの人間がいない。
今の俺ならどれだけ早く動こうと、余程でない限り見逃すことはない。
それなのに全く分からなかった。
「……どうなってんだ……はっ、それよりも!」
男の事は一旦置いておき、急いで3人のもとに向かう。
「大丈夫か?」
「は、はい。それより、あの男は?」
大丈夫と言って立ち上がる錦さん。
「ね、ねえ、あの男はどこ行ったの?」
優香もそう聞いてくる。
「分からない……けど、もうここにはいないと思う」
それを聞いて少し安堵する2人。
「レイ……私……」
ただ、理亜だけは全く動揺を隠せていない。
それはなぜか。
理由は恐らく、錦さんがやられたところを見たことと、優香に守られているだけだったことが原因だろう。
俺は理亜を落ち着かせるため、しゃがんで理亜を抱き寄せた。
「え……」
驚いた声を出す理亜。
「大丈夫だから。ゆっくりでいい、深呼吸して落ち着くんだ」
俺がそういうと、ゆっくりと深呼吸を始める理亜。
そして少しするとようやく落ち着いたようで、俺から離れる。
「もう大丈夫。ありがとう」
「ああ」
俺達は立ち上がると、錦さんと優香の方に向き直る。
「今日は帰ろう。もう遅いしな」
3人とも頷いたのを確認すると、俺達は歩き出したのだった。
暗い暗い森の中。
男はどかっと地面に座ると考え込む。
あいつは何なんだ?
セカンド・フェイズになっていたにも関わらず、あいつはいとも簡単に俺を倒そうとしてきた。
それは普通じゃあり得ない事だ。
何でだ……
考えても分からない。
あいつの底が見えない。
「あの子は少し特殊だからね」
そう男に声をかけるのは、暗闇から現れたフードを被った人物。
声から察するに女性だろうか。
「特殊?どういう事だ?」
その人物と面識があるのか、男は突然現れた人物に驚きもせずそう聞く。
「そうだねえ……じゃあ、少しだけあの子について話そうか」
まるでレイの事を何でも知っているかのようなその口ぶり。
そんな謎に包まれた人物は、レイに関する情報を少しだけ男に伝えるのだった。




