267話
「ねえねえ、今日はどこ行く?」
理亜と錦さんと登校し、自分の席に着くと優香がそう言って声をかけてきた。
「え、また帰りにどこか行くのかよ?」
「そのつもりだけど?」
「マジかよ……」
「いいじゃん!また4人でどっか遊びに行こうよ!」
どうやらこの間4人で買い出しに行ったのが余程気に入ったのか、あれから優香は頻繁に俺達を誘ってくる。
俺としては別に構わないのだが、錦さんがあまり遊びすぎるのはよくないと断っている。
まあ、あの殺気の事もあるし錦さんが優香の誘いを断るのも分かる。
殺気を放った主が分かるまでは、あまり不用意に出歩くのはやめた方がいいだろう。
「多分錦さんがまた駄目だって言うと思うぞ」
「えー」
明らかな不満顔になる優香。
そんな顔をされても、俺にはどうする事も出来ない。
優香には悪いが、ここは諦めてもらうしかないだろう。
ガラガラ。
すると、そこで先生が教室に入って来た。
「ほら、授業が始まるからまた後でな」
そう言って、俺は授業を受けるために準備をする。
優香も俺に倣い、授業の準備をするのだった。
結局その日の放課後、俺達は優香に押し切られて遊びに行く事になった。
「こんなに頻繁に遊びに行くなんて……」
「まあまあ、ちょっとくらいいいじゃん!」
錦さんが溜息を吐く。
まあ、ここまで来たならもう行くしかないだろう。
「それで、行き先は決まったのか?」
俺がそう聞くと、優香は考えながら答える。
「うーん、もう色々な所に行っちゃったからねー。そろそろネタ切れ感があるよねー」
「それならもう帰りましょう」
錦さんのその提案をスルーし、優香が口を開く。
「あ、そうだ!あそこに行こっか!」
「あそこ?」
みんなが何の事か分からないでいる中、優香は決まりとばかりに歩き出した。
「ついて来て、案内するから!」
そう言われ、俺達は顔を見合わせると仕方ないとばかりに優香の後に続くのだった。
「ここだよ!」
優香の案内で連れて来られたのは、学園から少し離れた高台の上だった。
「ここは夕陽が見える絶景のスポットとして有名な場所です。私とお嬢様も何度か訪れた事があります」
「でもレイは来た事ないでしょ?今は夕陽がいい感じで見える時間帯だし、平日はあんまり来る人もいないから、丁度いいかなって思って」
「成る程、確かにそうですね」
「あ、丁度夕陽が沈みかけてるわ!」
みんなで柵の近くまで行き、夕陽が沈んで行く様子を眺める。
この高台は、国の周りにある壁よりも遥かに高い。
そのため、ここからはこの国を一望出来るし、夕陽が地平線の向こうに沈んで行く様子も確認出来る。
そうして完全に夕陽が沈むと辺りは暗くなり、静寂に包まれた。
「沈んじゃったね」
「はい」
「レイ、どうだった?」
理亜に感想を聞かれ、俺は思った事を素直に答える。
「すごく綺麗だった。こんな風に夕陽を見るのは久しぶりだから、すごくよかったよ」
「そう。よかったわ」
理亜が微笑む。
「そんじゃ、飲み物でも買って来るから、ここで待っててくれ」
「あ、私も行こっか?」
「1人で大丈夫。そんじゃ、行ってくる」
俺はそう言って歩き出した。
「お嬢様、寒くはありませんか?」
「ええ、この時期ならこの時間帯でも平気よ」
「もう夏も近いもんね」
レイが飲み物を買いに行っている間、3人は談笑していた。
「っ!?お嬢様、如月殿、私の後ろへ!」
すると、突然瑛菜がそう叫んだ。
しかし、突然そんな事を言われ動ける2人ではない。
「お嬢様、如月殿、失礼します!」
瑛菜は無理矢理2人の手首を掴み、そのまま自分の後ろへと2人を下がらせる。
そして次の瞬間。
キイィィィン!
槍と剣が激しくぶつかり合い、火花を散らす。
「ちっ、もう少しだったのによ!」
そう言うのは、突如近くの茂みから現れた男だった。
「あなたですね!この間私達に殺気を放ってきたのは!」
「だったら何だ?」
「何で私達を襲うような事を……っ!」
そこで男が持つ黒紫の剣を見た瑛菜は、レイが黒い剣を持ったやつが誘拐犯だと言っていた事を思い出した。
「あなた、あの時の誘拐犯ですね!」
「流石にバレてるか……まあそんな事はいい。お前を殺してでも、そこの女は連れて行くだけだ!」
そう言って、男は剣に力を込める。
そして、瑛菜の槍が弾かれる。
「瑛菜!」
「危ない!」
理亜と優香が泣きそうになりながら叫ぶ。
「これで終わりだ!」
そう言って、男が瑛菜を斬りつけようとした瞬間。
瑛菜は弾かれたはずの槍で男の剣を防いだ。
「なっ!?」
「はあああっ!」
驚愕から一瞬動きを止めた男を、今度は瑛菜が弾き飛ばした。
何とか着地に成功した男は、瑛菜の手元を見て舌打ちする。
「ちっ……セカンド・フェイズか」
「ええ」
瑛菜は咄嗟の判断でセカンド・フェイズとなり、槍を分離して男の攻撃を防いだのだ。
「面倒なやつが護衛をしてやがる……」
「さあ、大人しく降参しなさい」
それは至極当然の言葉だった。
ファースト・フェイズのソウル・リベレイターが、セカンド・フェイズのソウル・リベレイターに勝てるはずがないのだから。
あのレイですら、攻撃を避けるので精一杯だった。
だからこそ、瑛菜は男に降伏するように告げる。
しかし……
「それは、俺がそこらの有象無象と変わらないならの話だろ?」
そう言った瞬間、男の纏う空気が変わる。
「ま、まさか!?」
それに瑛菜は驚きの声を上げる。
「はああああ!」
男がそう叫ぶと、次の瞬間には剣の形が変わっていた。
剣身が左右に割れ、真ん中が空洞となっている。
そしてリベレイト状態ではなく、マテリアライズ状態となっていた。
「ま、まさか……」
「お前だけがセカンド・フェイズになれると思うなよ?」
男はそう言うと、ここからが本番だと言わんばかりに剣を構える。
それに対し、瑛菜も槍を構えるが……
「はっ!誰が真面目に至近距離でやり合うって言ったよ!食らえ!」
男は剣先を瑛菜に向けると、ファースト・フェイズの時にはなかった柄の部分にある引き金を引いた。
ドドンッ!
すると、剣先から一条の閃光が迸る。
それは一瞬で瑛菜の左脚を貫通した。
「あああああっ!」
瑛菜はあまりの痛みに脚を抑えて蹲る。
「瑛菜!しっかりして!」
「救急車……救急車を呼ばなきゃ!」
理亜は瑛菜の元に駆け寄り、優香は震える手でスマホを操作する。
そうしている間にも、瑛菜の左脚からは大量の血が流れる。
男の剣はセカンド・フェイズへと至る事で、銃剣へと変化していたのだ。
「近距離と遠距離の両方で戦える。それが俺の強みだ……そんじゃ、そいつは連れて行くぞ」
そう言って理亜の元に向かう男。
「い、いや、来ないで!」
理亜は瑛菜を庇いながら、男に向かってそう叫ぶ。
しかし男はそれを無視して一歩、また一歩と近づいて行く。
「あ、あたしも……あたしも戦う!」
そこで、優香が自分のソウル・ウェポンである盾を出し、理亜と男の間に立った。
「はははっ!盾なんかで俺に勝てるかよ!大人しく引っ込んでろ!」
男はそう言って、優香に向かって剣先を向けた。
その瞬間。
「なら、俺が相手になってやるよ」
そんな声が男の後ろからした。




