264話
私立アリスト学園。
ここの午後の授業は選択授業となっていて、生徒はそれぞれ将来必要だと思った専門授業を受けられる。
だが、週に二度はソウル・リベレイターとしての訓練を受ける必要がある。
逆に言うと、それさえしていれば後は自由という事だ。
そして、俺と錦さんはその午後の選択授業を利用して、俺の実力を見るために手合わせをする事になったのだが……
がやがや。
ざわざわ。
あれだけ広かった訓練場の観客席は満員御礼。
立ち見の人まで出ている始末である。
どうしてこうなった?
「申し訳ありません。なぜか私が訓練をすると言うと、大抵こうして人が集まるのです」
マジか……
「いつもこんなに人が集まるんですか?」
「いえ、いつもはこの半分くらいなのですが……」
なぜ今回はこんな事に?
「そりゃ、瑛菜が試合をするって言うからだよ」
俺達が壁際に立っていると、その上から声がかかった。
見上げると、観客席の最前列に理亜と優香がいた。
「瑛菜は人気だものね」
「そうそう。強いしかっこいいし可愛いしで、不公平さ全開の女の子だもんね」
「そ、そこまでではありません!」
優香の褒め言葉に、錦さんは顔を赤くしてそう言う。
まあ、錦さんは確かに美人だ。
そんな人がこうして試合をするとなれば、これだけ人が集まるのも仕方ないか。
「君達、準備はいいかな?」
「あ、はい」
審判をしてくれる事になった授業の先生が、俺達に声をかけてくる。
ただの手合わせなので、本当は審判なんていらないんだけど、なぜかみんなが試合と言って広めたため、審判をつける事になった。
「こうなっては仕方ありません。やりましょうか」
「はい」
俺達は訓練場の中央に向かう。
「瑛菜、レイは本当に強いからね!」
理亜が後ろからそんな風に言ってくる。
「お嬢様はかなり難波殿の事を評価されていますね」
「うーん、俺としてはハードルを上げないで欲しいんですけど……」
「ふふっ。それでは、あなたの実力を見させていただきましょうか」
そう言って、俺から距離を取る錦さん。
そして……
「ふっ」
ソウル・ウェポンである槍が現れる。
それを構える姿は全然隙がない。
これはこっちも本気でいかないとやられるかもな。
ここ最近の傾向から、俺はこの世界のソウル・リベレイターはかなり強いはずだと考えている。
決して油断せずやろう。
……でもこれ、俺が勝ったら悪者だよな?
これだけのファンがいる錦さんに勝ったとなれば、俺は確実に悪者扱いを受けるだろう。
……錦さんの実力を見て、少しだけいい勝負をして負けよう。
転入初日から悪者扱いは嫌なので、俺は負ける事にした。
「リベレイト」
俺はソウル・ウェポンである刀を出して鞘から抜き、構えを取る。
ざわざわ。
俺のソウル・ウェポンを見た観客の生徒達が驚く。
「……話には聞いていましたが、本当に透明なのですね」
「ええ……それでは」
「はい、始めましょう」
「両者準備が出来たようなので、始めてください!」
そうして、俺と錦さんの試合が始まった。
「行きます!」
そう言ってこちらに向かって来る錦さん。
速い!
俺は少し後退して距離を取ろうとする。
「甘い!」
しかし、槍を突き出してきた錦さん。
俺はその槍を横に飛んで何とか躱すが……
「はああ!」
錦さんは薙ぎ払いを繰り出した。
次の攻撃に移るまでにノータイムだと!?
俺はその攻撃を躱せないので、刀で受ける。
「ぐっ!」
だが、あまりの攻撃の重さに3メートル程吹き飛ばされる。
マジかよ、攻撃が重すぎる……
俺は何とか踏み止まり、前を見る。
「はっ!」
すると、既に俺に攻撃を繰り出してくる錦さん。
今度は槍を刀で弾こうとする。
「ふっ!」
だが、俺が槍を弾いた時には手応えがなく……
「はっ!」
「ぐはっ!」
槍が俺の脇腹に突き刺さる。
マジかよ!
俺は一旦後退する。
今度は錦さんは追って来なかった。
さっきの攻撃……あれは弾かれる事を想定して、俺の攻撃が往なされた。
どこでバレた?
俺の攻撃の初動は錦さんよりも遅かった。
なのにそれを読まれたとなると……
「難波殿」
錦さんが話しかけてきた。
「何ですか?」
「あなたは中々動きがいい。お嬢様が評価するのも頷ける程に……だが、その場凌ぎの技だけで私に勝とうと思わない事だ」
「!?」
「難波殿、本気で来なさい。でないと、あなたをお嬢様の護衛として認める事が出来ない」
……俺は何を勘違いしてたんだ。
そうだ、俺は悪者になりたくないから負けようだなんて、何考えてんだか。
錦さんは俺の実力が知りたいと言った。
それは理亜の護衛として、戦力として数えられるかという事の確認だ。
それなのに俺は……
「……すみません、錦さん……ここからは本気で行きます!」
「!」
俺は集中して、錦さんを見据える。
「いい表情になりましたね……あなたの実力、私に見せてみなさい!」
そう言って槍を構える錦さん。
……久しぶりにやるか。
俺は一度深呼吸をし、一気に駆け出す。
「!?」
真っ直ぐでもジグザグでもなく、弧を描いて走る俺に錦さんは少し驚くが、すぐに表情を引き締める。
俺は錦さんに接近すると、体で隠れた刀を一気に振り上げる。
いくぜ!
「心証流秘剣・壱ノ型ー焔」
「え、くっ!」
ガキイィィィンッ!
俺の攻撃は槍で防がれた。
だが……
「ぐっ、うう……」
無理な体勢で攻撃を受けたため、体がよろめく。
ここだ!
俺は一気に刀を押し込む。
「くあっ!」
すると、体勢を崩して後ろに倒れる錦さん。
「くっ!」
だが、そのまま倒れずに何とか手をついてそのまま後退する。
俺は追いかけず、その場で体勢を整える。
今ので駄目か……
「……中々の攻撃でした。技の名前……焔、でしたか?」
「ええ。俺の剣技……心証流の秘剣である焔です」
「剣技、ですか……これなら私も本気を出した方がいいでしょうね」
まだ本気じゃなかったのか?
「行きます!」
そう言って槍を突き出してくる。
今度はそれをギリギリまで引きつけてから避けようとすると……
「槍術・疾風槍」
「なっ!?」
一気に速度を上げて迫る槍。
俺はギリギリまで引きつけようとしていたため、避けられずに攻撃を食らってしまう。
「ぐあっ!」
腹に攻撃を受けた俺は、痛みを無視して何とか槍を引き抜く。
そのまま押し返そうとするが……
「槍術・剛力槍」
「ぐっ!」
途轍もない力で槍を押してくる。
俺はその力を利用して、後ろに飛ぶ。
しかし、あまりの勢いに訓練場の端まで飛ばされてしまった。
ははっ、これはやばいわ……でも……
俺は刀を持ったまま歩き出す。
錦さんが本気を出してない状況で負けてるようじゃ、護衛の仕事なんて無理だ。
それに……
俺は錦さんから5メートル程の所で止まる。
そして刀を構えた。
それを見て錦さんも槍を構える。
「……行きます!」
俺は全力で駆け抜ける。
5メートル程あった距離は一瞬で詰められ、俺は刀を振るう。
錦さんはそれを槍で防ごうとするが……
「えっ!?」
俺は刀を手から離し、下に添えていた右手で掴む。
「心証流秘剣・壱ノ型ー歪」
俺は水平に斬撃を放つと、錦さんの腹を横一文字に斬り裂いた。
「ぐっ!」
それでも、錦さんは痛みに耐え膝をつかない。
このまま決着をつける!
俺は更に剣技を放とうと、その場で回転する。
「心証流秘剣・壱ノ型ー円」
「!?」
それを見た錦さんが慌てて自分の体の前に槍を構える。
それは間一髪のところで間に合い、俺の斬撃を受け止めた。
それなら!
そう思った時だった。
「っ!?」
よく見ると錦さんの槍が短い事に気づく。
さっきまでもっと長かったはず……
その瞬間。
「はっ!」
「かはっ!」
錦さんは俺の右足に攻撃してきた……左手に持った棒で。
あれは!?
「はああ!」
「ぐはっ!」
俺はまたも吹き飛ばされる。
だが今度は数メートル後退した所で止まった。
そこでもう一度錦さんの持つソウル・ウェポンに注目する。
あれは、やっぱりそうか!
俺は錦さんの右手に持つ槍と、左手に持つ棒を見て理解した。
あれは元は1本の槍だったんだ。
だが、それがどうして別々になっているのかというと、答えは恐らく……
「……セカンド・フェイズか」




