261話
あの後少し話をしてから退室した俺は、錦さんの案内で2階にある客室へと足を運んだ。
かなり綺麗にされている部屋は、物が少なく必要最低限の家具しか置かれていなかった。
「ここの部屋はお客様がお泊りになる時のための部屋なのですが、あまりそういった事がないので使われる事が殆どないので」
錦さんはそう説明してくれる。
そうなのか。
まあ、俺としては物で溢れてる部屋ってのはそんなに好きじゃないから、別にいいんだけど。
「それでは、夕食の時になったらお呼びしますので、それまではどうぞお寛ぎください」
「ありがとうございます」
「それでは、私は失礼します」
そう言って部屋から出て行く錦さん。
俺は取り敢えず座る。
さて、これからどうなるのか……
変な事に巻き込まれ、それからここまでの一連の流れ。
時間としては、まだこの世界に来てから4時間程しか経っていない。
それなのに色々な事があったなあ。
最も衝撃的だったのは、理亜に似た女の子……遊馬理亜さんの存在だ。
あの子は本当に理亜にそっくりだ。
だが、俺の事を知らない。
当然と言えば当然だが、ここはVRの世界だ。
しかもあのAIプログラムが関わっているとなると、何かあるに違いない。
……まあ、これは考えても分からない事だな。
それとあのローブを纏った男。
あいつは一体何者なんだ?
剣崎さんを誘拐し、俺にいきなり攻撃してきた。
見られたから殺す……確かに誘拐犯としてはあり得るか……
俺はこの世界の事をまだあまり知らないので、考えても見当違いの可能性がある。
もしかしたら何かあるのかもしれない。
だが、1つ言える事がある。
それは、あいつのソウル・ウェポンも特別だという事だ。
俺は過去に壮真というソウル・リベレイターと一緒にいた事があるが、壮真も空色のソウル・ウェポンだった。
そんな壮真は、ソウル・リベレイターが絶滅した世界での復活者という事だったのだが……
あの男は何者なのか……
……全く分からないな。
俺はその後も色々と考え続けたのだった。
暫く部屋で寛いでいると、襖の向こうから声がかかった。
「難波殿、夕食の準備が出来ました」
「分かりました」
俺は立ち上がり、襖を開けて部屋を出る。
「それでは参りましょう」
錦さんの後をついて行く。
廊下を歩いて1階へと下りる。
そこから更に歩いて行くと、最奥の部屋の前まで来た。
「こちらです」
そう言って襖を開ける錦さん。
部屋の中に入ると長机があり、もう既にみんなが揃っていた。
「遅れて申し訳ありません」
「何、気にする事はない。それより早く座りなさい」
俺が謝ると、遊馬誠一郎さんはそう言って俺に座るよう促す。
俺が着席し、夕食となったのだった。
夕食を食べていると、遊馬理亜さんが話しかけてきた。
「ねえ、レイ」
「何ですか、遊馬さん?」
「その遊馬さんって言うの、やめて欲しいの。ここにいるとお父様とお母様と私、誰の事を言っているのか分からなくなるわ」
まあ、それはそうだけど……
「私の事は理亜でいいわよ。私ももうレイって呼んじゃってるわけだし」
「……君がいいなら、そうさせてもらうよ」
「ええ、そうしてちょうだい」
笑顔を浮かべる理亜。
その笑顔が俺の知っている理亜と被る。
「それで、相談なんだけど……よければ、私の通う学園に通ってみない?」
「学園?」
「ええ。瑛菜、あれを見せてあげて」
「畏まりました」
そうして錦さんが見せてきたのは、『私立アリスト学園』と書いてあるパンフレットだった。
俺はパンフレットを広げて中を見る。
私立と言うだけあって4階建の校舎はかなり綺麗で、設備も充実している。
ソウル・リベレイター専用訓練施設も完備していて、大きな食堂もある。
施設内の設備は無料で使用可能で、食堂すらも無料。
授業は午前と午後で分かれており、午前は座学。午後は選択授業という事だった。
「私と瑛菜はここに通っているの。よければレイも一緒に通わない?」
確かにいい環境だ。
だが……
「俺、こんな所に入れるような金がないんだけど」
俺は今日この世界に来たばかり。
もちろん所持金などない。
「それならお父様が出してくれるから大丈夫よ」
俺のために金を?
「……まあ、金銭面もそうだけど……それよりも問題がある」
「え、何かしら?」
俺はパンフレットを理亜に見せる。
「これ。『貴族以外は入学不可』って書いてある」
もちろん、俺は貴族でない。
だから入学出来ないはず。
「それならお父様が学園に一言物申せば大丈夫だから」
「どんだけだよ!鶴の一声にも程があるわ!」
何そのお父様がってやつ!
便利すぎるだろ!
「私が言ってもいいのよ?」
「ええ……」
学園は理亜の言う事も聞くのかよ……
「遊馬家はこの国でも随一の権力があります。それに出資もしているので、お嬢様が学園長に物申せば大抵の事は通ります」
ええ……それはただの職権濫用なんじゃ……
「あまり学園には口出ししないようにはしてるけど、こういう時くらいは、ね?」
理亜がウィンクしてそう言う。
可愛いが、内容が内容だけに笑えねえ。
「これ、擦り寄って来る人が多いんじゃ……」
「はい。多くの方が絶大な権力を持つお嬢様や旦那様に言い寄るので、本当に困ります」
だよな……
錦さんは溜息を吐く。
護衛ってのも大変だなあ。
「何を話してるの?」
「ああ、いや、何でもない。それより、何で俺をこの学園に?特にメリットはないだろ?」
俺がそう聞くと、理亜は首を振る。
「そんな事はないわ。レイと一緒なら、学園生活がもっと楽しくなる気がするの」
屈託なく笑う理亜。
……特に何か裏があるような感じでもない。
学園生活が楽しくなる、本気でそう思っているようだ。
「こういうお方なのですよ、お嬢様は」
そう言う錦さんも、微笑を湛えて理亜を見ている。
よくここまで綺麗に育ったもんだな……
俺は素直にそう思った。
これだけの家柄で政治家の娘……この歳でもかなり苦労しているはずなのに……
それでも、これだけ純粋に笑えるんだからすげーな。
俺は素直に感心した。
まあ俺も特に行く所もないし、この学園に通うのもいいのかもな。
それに……
「分かった。俺もここに通うよ」
「本当!よかったあ」
ほっと胸を撫で下ろす理亜。
「それでは、私が学園の方に手配しておきます」
「ええ、お願いね」
「……」
それにしても、さっきから遊馬誠一郎さんが俺の方を見ているのが気になるな。
俺は視線を気にしないようにし、そのまま夕食を食べたのだった。




