228話
俺と柚葉がエントランスから外に出ると、生徒のみんながバスに荷物を積んで乗っているところだった。
そのままバスの方に向かうと、有紗と英玲奈がいた。
「あら、もういいんですの?」
そう英玲奈が言ってきた。
態々俺達を2人にしてくれたようだ。
「ああ、大丈夫。ありがとう」
俺がそう言うと、有紗と英玲奈は大した事じゃないとでも言うような反応をする。
「それでは、私達はバスに乗りますから、柚葉さんも早く荷物を積んでくださいね」
「ええ、分かったわ」
そう言って、バスに荷物を積みに行く柚葉。
「2人も、元気でな」
「それ、別れの挨拶みたいで嫌ですね」
「え、そうか?」
「はい、私もそう感じましたわ」
マジか。
じゃあ……
「……じゃあ、またな」
俺がそう言い直すと、今度は有紗と英玲奈も頷いてくれた。
「はい!」
「レイさんこそ、頑張ってくださいね」
「ああ」
そうして、2人はバスに乗り込んだ。
すると、柚葉は荷物を積み終わったようで、こちらに来る。
「どうしたんだ?」
「えっと……またね!」
態々それを言いに来たのか。
「ああ、またな」
俺がそう言うと、柚葉は満足そうに頷いてバスに乗り込んだ。
「難波」
今度はバスから理事長が降りて来た。
「どうしたんですか?」
「いや、ただしっかりやれよと言いに来ただけだ」
「分かってますよ。理事長も学園での仕事、頑張ってくださいね」
「ああ……全員乗ったな。それでは、出発するぞ」
そう言って、理事長は再びバスに乗り込む。
そうしてバスは発車し、学園へと向かって行った。
3組の生徒が乗ったバスには、柚葉が窓からこちらを見ていた。
俺は手を振ってそれを見送ったのだった。
バスが見えなくなった後、暫くの間その場にいた俺だったが、後ろから誰かが近づいて来たので振り返る。
すると、そこには黒瀬さんがいたのだった。
「黒瀬さん」
「すまないな、本当ならお前も学園に戻るはずだったのに」
「いえ、それはいいんです。ですが、どうして急に俺をここに残そうとしたんですか?」
「それは、お前なら将来防衛会を背負って立つ人間になると思ったからだ」
俺が防衛会を背負って立つ!?
「いやいや、そんな事ないですよ!それに俺はまだ将来どうするか決めてないですし!」
「それなら防衛会に入れ。お前なら大概のモンスターには遅れを取らない。防衛会としても貴重な戦力だ」
そう言われてもな……
「お前なら、近いうちに四神すらも超えられる。俺はお前にその可能性を感じた」
……何でそこまで俺に……
「何で俺って顔をしてるな。実際にお前と訓練をして、俺はそう感じた。だから俺はお前をここで訓練させてもらえるように頼んだ」
……まあ、どうせここで1ヶ月の間訓練する事は決まってるんだしな。
それに強くなれるなら、俺としても嬉しい限りだ。
「分かりました。将来、防衛会に入るかどうかは分かりませんが、これから1ヶ月の間は訓練をするという事は変わりません。これから1ヶ月間、よろしくお願いします」
俺はそう言って頭を下げる。
「ああ。毎日鍛え上げるから、そのつもりでいろ」
「はい」
こうして1ヶ月の間、俺は防衛会でお世話になる事となったのだった。
バスの中、柚葉は1人で窓の外の景色を眺めていた。
そして頭の中は、レイについての事で一杯だった。
今頃彼はどうしているだろうか。
もう訓練は始まっているのだろうか。
それとも今日は休んで、明日から訓練を始めるのだろうか。
そんな事ばかりを考えていた。
「柚葉さん」
そんな時、横から有紗が声をかけてきた。
「どうしたの?」
柚葉は考え事を中断して、横を向く。
「大丈夫ですか?」
「え、何が?」
「ずっと浮かない顔をしていましたから、気になって」
柚葉はそう言われて、そんな顔をしていたのだろうかと自分の顔を触る。
「レイさんなら大丈夫ですよ」
「そうですわ。恐らく、向こうでもしっかりやっていけますわ」
有紗だけでなく、有紗の隣に座っている英玲奈もそう言う。
柚葉は、自分が考えていた事が2人にバレていた事に少し恥ずかしくなる。
「……まあそうよね。レイなら、大丈夫よね」
「そうですよ。だからレイさんが学園に帰って来たら、思いっきり甘えればいいんですよ」
「え!?有紗!?」
「そうですわ。1ヶ月間会えなかった分、思いっきり甘えればいいと思いますわ」
「英玲奈まで!?」
有紗と英玲奈が言う事に、柚葉は少し慌てる。
そんな反応が面白くて、有紗と英玲奈は思わず笑ってしまった。
そんな事を話しているうちに、気づけばバスは学園が見える所まで来ていた。
柚葉は咳払いをして、窓の外の景色を眺める。
すると、海が見える。
1年前にはここでレイがモンスターと戦っていた。
それを柚葉は助けた。
そして1ヶ月前にはレイがここで自殺を図った。
それも柚葉が阻止した。
そんな色々な思い出がある海辺。
「……また、2人で来たいな」
そんな呟きは、将来への期待だ。
これから少しの間は離れ離れになるけど、1ヶ月もすればまた会える。
そうすれば、また2人でここに来よう。
そう思いながら、柚葉は窓から海を見つめていたのだった。




