224話
俺はその後晩ご飯を食べて、少し柚葉と話をしてから部屋へと戻った。
彼女はとても機嫌がよく、終始笑顔だった。
俺は付き合ってよかったという嬉しさと、そんな彼女を騙しているのではないかという罪悪感とが混じった感情を抱いていた。
……これでよかったんだ。
俺はそう思い、その日は風呂に入ってからすぐに寝たのだった。
次の日。
今日は俺達ソウル・リベレイターは、防衛会の人と訓練する事になっている。
非ソウル・リベレイターの生徒達は、俺達と訓練しない防衛会の人と一緒に、モンスターについての講義を受けるらしい。
そして現在、俺は朝ご飯を食べるため、食堂に来ている。
料理人の人から料理を受け取る。
どこで食べようかと思っていると、先に来て席に座っていた柚葉がこちらに手を振っていた。
柚葉の前には、有紗と英玲奈も座っていた。
俺は3人の元に向かうと、そのまま柚葉の隣に座った。
「遅いわよ」
「いやいや、そんな事ないだろ」
食堂にはまだ半分くらいの生徒しかおらず、残りの生徒はまだ部屋にいるか、もう食べ終えたかのどちらかだ。
「まあまあ、それではいただきましょう」
「ええ、冷めないうちに食べましょう」
有紗と英玲奈の言葉に、俺と柚葉も頷いて食べ始める。
「そう言えば、おめでとうございます」
「え、何が?」
俺は有紗がどうしてそんな事を言ったのか意味が分からず、そう聞き返す。
「昨夜、柚葉がレイさんと付き合う事になったってメールして来ましたの」
「え、早くない!?」
俺は柚葉の方を見ると、柚葉は下を向く。
「だって、嬉しくてつい……」
その姿がとても可愛く、俺は少し見惚れてしまう。
「あ、この感じ嫌ですね」
「ですわね」
おおっと、そんな事をしていると有紗と英玲奈がジト目で見てくる。
「ごめんごめん、なるべく2人の空気みたいなのは慎むから」
「はあ、まあ喧嘩してるよりはいいですわ」
「そうですね」
2人はこの間の事を言っているのだろう。
その節は本当にごめん。
俺は心の中で謝罪したのだった。
そんなやり取りをしていると、俺達に近づいて来る人達がいた。
「隣、いいかな?」
「あ、はい……って、桃華!?」
俺に話しかけてきた男性の隣に、学園にモンスターが襲撃して来た時に一緒に戦った桃華がいた。
「あ、あなたは!?」
「神月先輩!?」
「え、どうしてここに!?」
神月先輩?
俺はなぜ桃華が先輩と呼ばれているのか分からなかった。
それを察してくれたのか、桃華が教えてくれる。
「あ、レイ先輩、今のは私に言ったんじゃなくて、お兄ちゃんに言ったんですよ」
……お兄ちゃん?
俺は隣の男性を見る。
「初めまして、神月悠人です」
「……マジですか」
俺はそう漏らしたのだった。
神月兄妹を交えて、改めて朝食を食べる。
神月先輩は、俺達の1つ上の3年生らしい。
どうも俺に話があるのだとか。
因みに俺の隣に桃華が、その向かいに神月先輩が座る形だ。
「お久しぶりです、レイ先輩!」
「ああ、久しぶり。あれから元気にしてた?」
「はい!入学してからはバタバタしてて、中々ご挨拶に行けなくてすみません!」
そう言って頭を下げてくる桃華。
「いやいや、別に気にしなくていいよ」
「ありがとうございます!」
相変わらず元気な子だな。
そう思っていると、隣から視線を感じたので見てみる。
すると、柚葉が俺の事をすごく睨んでいた。
「……何?」
「別にー。ただ、仲よさそうだなって思っただけ」
「おいおい、何拗ねてんだよ」
俺はそう言って頭を撫でる。
すると、途端に笑顔になる柚葉。
「……レイ先輩と八神先輩が付き合ってるって、本当だったんですね」
あー、その噂は前からあったけど、実際は昨日付き合い始めたんだよな。
まあ説明するのは面倒だから、前から付き合ってたって事でいいか。
「こらこら、2人の邪魔をしてはいけないよ」
そう桃華に言うのは、兄である神月先輩だ。
「はーい」
「難波君、妹が迷惑をかけてすまないね」
「いえいえ。それで、話とは?」
「ああ、そうだったね。君は学園にモンスターが襲撃して来た時、妹を守ってくれたありがとう。それを言いに来たんだ」
何だ、そんな事か。
「それなら別にいいですよ。と言うより、桃華にも戦ってもらいましたから、守ってませんし」
「いや、君は4体いたモンスターのうち、3体を倒してくれたそうじゃないか、それは十分妹を守ってくれた事になると思うよ」
……まあ、そう思うならそれでいいか。
「分かりました」
「うん、ありがとう。それと、昨日の黒瀬さんとの戦いは見事だったよ」
「……ありがとうございます」
俺は若干苦味を含んだ声でそう言う。
すると、有紗が聞いてきた。
「どうしてそんな顔してるんですか?」
「いや、昨日の戦いは別に褒められたものじゃないから」
「え、どうしてですか?」
「レイさんは、黒瀬さん相手に最後は攻撃を当てましたわよね?」
そう、攻撃を当てた。
だが、それだけだ。
本当に当てただけ。
あんなもの、実際の戦闘では俺の負けだ。
「あんなのじゃ駄目だよ。俺は覇王化まで使ったのに、結局攻撃を当てる事しか出来なかった。それに、黒瀬さんが本気を出せばもっと前にやられてた」
そう、あそこまでやれたのは、単に黒瀬さんが本気じゃなかったから。
そうでなければ、あそこまで持ち堪えられなかっただろう。
「覇王化……あの紅い状態だね」
「それは仕方ないですよ。黒瀬さんはみんなの憧れですから」
「そうね。そう言えば、有紗は黒瀬さんのような盾使いになりたいんだったわよね?」
「はい。同じ盾使いとして、目標の人です」
成る程。
確かにあの盾捌きは、普通の人では出来ない。
よくあの領域にまで行ったものだ。
「まあ、僕としては黒瀬さんが強い以外にも原因があると思うけどね」
そう神月先輩が言う。
「それって……」
「君の剣の型の事だよ。君の剣術は、構えからどんな技が来るか分かってしまうからね」
「あ!」
「確かに」
「言われてみればそうですわね」
「?」
それを聞いていた他の4人は、桃華以外は思い当たる節があったようだ。
そして、その指摘は的を射ている。
心証流の型は最初の構えから、何の技が来るのか読まれやすい。
まあ構えを取らないものもあるが、殆どがそうだ。
特に威力の高い技程、その傾向にある。
「構えを見直した方がいいんじゃないかな?」
神月先輩はそう提案するが……
「いえ、それはしません」
「え、どうして?」
「俺の使ってる心証流は、例え構えで何が来るか分かっても、それでも反応出来ないような剣術なんです。でも俺はまだその領域には達していない……その領域に至る事が出来れば、構えなんて関係ないんですけどね」
「成る程ねえ……じゃあ、それがこれからの課題ってわけだね?」
「はい」
「そっか。頑張ってね、応援してるよ」
「ありがとうございます」
「よし!それじゃあ、訓練が始まる前に早く食べよう」
神月先輩の一言で、俺達は朝食を食べるのを再開したのだった。




