21話
「それでは試合を始めたいと思います。両者、入場してください」
俺は入場する。反対側からはメリーさんが入場する。俺とメリーさんはお互いに近づいて、握手をする。
「さっきの試合、見てたよ。すごくよかった。最後のは特に」
「ありがとうございます」
「私にも君の全力、見せてね。私も全力で行くから」
「もちろん。そして、勝たせてもらいますよ」
「私も負けないよ」
そうして、俺達はお互いに背を向けて自分の位置に戻る。そしてメリーさんはバスターソードを構える。俺は刀を出し、切先を地面すれすれに構える。
「両者、準備はいいですか?」
俺とメリーさんは頷く。
「それでは、始め!」
始まった瞬間、俺は弧を描いて走り出した。メリーさんもこちらに向かって走り出す。
そしてメリーさんが俺の間合いに入った。
ここだ!
「心証流秘剣ー焔」
俺はメリーさんに斬り上げを放つ。
「おっと!」
それに対してメリーさんは刀が当たる直前に横に飛んで躱された。それにより俺の刀は空を切る。
やはり焔は決まらなかったか……
「今のは危なかったよ。それにしてもすごいね。君のそれって剣術?」
「そうです」
「へー、初めて見たよ。東の国の人は使ってるって聞くけど、君も東の国の人なの?」
「いえ、違います。色々あって使ってるんですよ」
「ふーん。まあ話はこれくらいにして、試合の続きをしよっか」
「そうですね」
お互いに構える。
それにしても初見で焔を躱されたのは初めてだ。やはりレベルが高いと俺の技の練度じゃ通用しないな。
「行くよ!」
そんな事を思っていると、メリーさんはこちらに向かってくる。
俺はその場でメリーさんを待ち構える。
「はあ!」
そして接近してきた時、上段に構えたバスターソードを振り下ろしてきた。俺はそれを刀で往なす。しかしすぐに手首を返して、バスターソードで俺に斬りかかってくる。それを俺は再び刀で往なす。またすぐに手首を返し、バスターソードで斬りかかってくる。俺は刀で往なす。それを何度か繰り返していく。
「すごいね。こんなに往なされたのは初めてだよ」
「それはどうも」
そんな事を話しながらでも斬りかかるスピードは変わらない。
「じゃあ、もっと速くするよ!」
「!?」
急にバスターソードを振るうスピードが上がった。あれで本気じゃなかったのか。
「ぐっ!」
俺の刀を振るう速度よりもメリーさんのバスターソードを振るう速度の方が速い!このままじゃやばい!
そう感じた時だった。
「ぐうっ!」
バスターソードが俺の右肩を少し斬りつけた。
「そこ!」
「ぐああ!」
今度は完全に胸を斬りつけられた。
「まだまだ!」
「そうはいくか!」
俺は斬撃を何とか刀で受けて、わざと後ろに飛ぶ。
「はあはあ……」
危ないところだった。何とか逃げる事が出来たが、このままだとまずいな。
「さっきの攻撃で決まったと思ったんだけど、意外とタフなんだね」
「まあ、鍛えてますんで」
「そうなんだ。でも、そろそろ終わらせるよ!」
そう言って、俺の方に向かって来る。もうあと一撃で俺は負けるだろうな。体力も残ってないし、どうするか……
「はあ!」
メリーさんは先程と同じ速い斬撃を放ってくる。俺は何とか後ろに逃げながらそれを躱す。
他の秘剣を使うしか……しかし体力的にあと一撃しか放てないだろう。どうする……
「はっ!」
そう考えている間にもどんどん追い込まれていく。
くそ!こうなったら腹をくくるしかない!
「はああ!」
「!?」
俺はメリーさんのバスターソードに刀を力任せにぶつけて、メリーさんを吹き飛ばす。そして俺も同時に後ろに飛び、メリーさんとの距離を開ける。
「何、さっきの攻撃。もう諦めたの?」
「まさか。俺はいつだって諦めませんよ」
「そう。でももう終わりだよ!」
メリーさん走り出す。この試合を終わらせるために。
「はああ……」
俺は息を吐き、左手で持った刀を逆手に持ち替える。
覚悟を決め、俺も剣技を放つためにメリーさんに向かって走り出す。
どんどん距離が縮まる。そしてお互いの距離が2メートルを切った。
「はああ!」
メリーさんはバスターソードを上段から振り下ろしてくる。俺はバスターソードの斬撃をギリギリまで引きつける。そしてあと50センチを切った時だった。
「心証流秘剣ー颯」
俺は一気に加速する。それによりバスターソードは空を切り、俺はメリーさんの横を通り過ぎる時に逆手に持った刀で腹から左脇腹を斬りつける。
「ぐううう!」
完全に決まった一撃に、メリーさんは膝をついて倒れた。
「試合終了!勝者、難波レイ!」
勝った……のか……
「はあー」
俺はその場に座り込む。正直もう体力も残ってない。疲れたな。
俺はその後も暫くの間、その場で座り込んでいた。
「優勝おめでとう、難波君」
「ありがとうございます」
試合が終わって1時間程経った。俺は今表彰式に出ている。メリーさんとダラスさんも一緒だ。
「3人に盛大な拍手を」
校長先生がそう言うと、観客が拍手をしてくれる。
「それではこれにて表彰式を終了する」
これで終わりか。疲れたから早く帰ろう。
俺は退場すると、一目散に家に帰ったのだった。
次の日。俺は学院に登校すると、沢山の視線を感じた。どうやら昨日の試合で一気に有名になったようだ。
俺はA組の教室の前まで来てドアを開ける。
「おっす」
「おう」
トーレスが挨拶してくるので俺も挨拶を返す。
「あ、おはよー」
「おはようございます」
「おはよう」
「ああ、おはよう」
3人も挨拶してくるので、挨拶を返す。
「お前昨日1人で帰っただろ」
「ん?ああ」
「何でだよ!折角祝ってやろうと思ってたのによ!」
「あー、それは悪かった」
「まあまあ、昨日はレイ君も疲れてたんですよ」
「まあ昨日は帰って速攻で寝たな」
「昨日はすごかったもんね!しかも優勝だし!おめでとー!」
「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「おめでとさん」
「ありがとう」
素直に礼を言う。
「あ、いたいた!」
「ん?」
扉の方を見ると、メリーさんがいた。
「やっほー、レイ君!優勝おめでとう!」
「おはようございます、メリーさん。それと、ありがとうございます」
「昨日はすごかったよ!特に最後のやつ!あれ何?」
うーん、もう見せたから話してもいいか。
「あれは俺の剣技ですよ」
「剣技?」
「ええ。心証流って言って、俺が使ってる技です」
「すごいね!」
「いえ、俺のはまだまだですよ」
「そうなの?私は十分すごいと思うけどな」
「ありがとうございます。それで、ここへはどうして?」
「ああ、そうだ!レイ君を誘おうと思って来たんだ!」
「何にですか?」
「月に1回、放課後にダラス先輩と私で模擬戦をやってるんだ。3月まではもう1人先輩がいたんだけど、卒業しちゃったから、今は私とダラス先輩だけなんだけど。そこにレイ君も来てくれないかなって」
「俺ですか?」
「うん!どうかな?」
「……分かりました、参加させてもらいます」
「やった!ありがとう!ダラス先輩にも言っておくね!今月は来週の水曜日だから!」
「分かりました」
「それじゃあまたね!」
「はい」
そう言ってメリーさんは教室から出て行った。
「随分忙しい人だったな」
「そうだな」
トーレスが若干呆れてる。まあ分からないでもない。
「それにしてもすごいね、模擬戦だなんて!」
「そうか?」
「そうですよ!だって、各学年の代表が集まってする模擬戦ですよ!昨日の試合だってすごかったですし、模擬戦も昨日の試合みたいな感じですよ!」
「それってすごいね」
「確かに、そうだな」
そうか、昨日の試合みたいなのが月に1度あるのか。
「何か大変そうだな」
「まあ頑張れよ」
そうだな。参加するって言ったし、トーレスの言う通り頑張るしかないか。
「あ、難波君」
「はい」
担任のジェズアルド先生が俺を呼んだので返事をする。
「校長先生が呼んでいるから、昼休みに校長室に行ってね」
「はい、分かりました」
校長先生が?何だろう?
俺は何の要件か考えたが、全く見当がつかなかった。




