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161話

「俺の名前は藤本ユウキ。ここに連れて来られて研究対象となった高校生です」

俺はそう言った。

「え、本当にそうなの!?」

「何がですか?」

「だって、あなたは確か黒髪黒瞳だったわよね?」

ああ、そう言えば……

「えっと、これには事情があってですね……」

俺はこれまでの事を簡潔に話した。

「……そんな事になってたなんて……でも、他の子達はそんな事になってなかったような……」

あ、やっぱり俺だけなのか……

「取り敢えず、あなたの事情は分かったわ。それにしても、まさか女の子を助けようとして、自分も捕まるなんてね」

佐藤さんは、ふふっと笑う。

「……やっぱり、ダサいですよね」

俺は苦笑しながらそう言う。

「うん、ダサいね」

笑顔でそう言われた。

ちょっと心にグサっとくるんだけど……ああ、何でこんな時に限って扁桃体が活性化したんだよ……

俺は取り戻した感情を、一瞬捨てたくなってしまった。

「でも、結果はどうあれ助けようとした事はすごい事だと思うよ。だって、君はただの高校生でしょ?それなのに、危険な目に遭ってる女の子を助けようとしたのは、勇気のいる事だと思う」

佐藤さんはそう言ってくれた。

その顔は、目は、本気でそう思っているようで……

……俺は……

「……俺はまだ諦めてません。絶対に、彼女を助け出します」

佐藤さんの事をまだ信じられないと思っていたが、今ので信頼する事にした。

チョロいと言われればチョロいだろう。

だが、先程から彼女の表情や仕草から色々伺っていたが、特に怪しさはなかった。

ここは信じてみよう。

俺は今までの経験と今感じた事、そして勘を信じて、この人を信じる事にした。

「……そんな事考えてたんだね……それなら、私も手伝うよ。私も、そのつもりでここに潜入してるんだからね」

……その表情は本気で……

「これから、よろしくね」

そう言って、佐藤さんは手を差し出してくる。

「……はい!」

俺はその手を取った。

……もしこれで俺が騙されてたら、この人はすげえよ。

そう思ったのだった。


「それで、いきなりなんだけど、皇さんを助け出すのは待ってくれないかな?」

いきなりそう言われた。

「え、何でですか?」

やっぱり、佐藤さんは組織の人間だったのか……

さっきまでのやり取りは何だったんだと言わんばかりの疑惑の眼差しで、佐藤さんを見る。

「ちょ、そんな顔しないでよ!ちゃんと理由があるの!」

理由?

「理由って何ですか?」

「だから、そんな顔しないでって!実はね、誘拐された子達って、学校に行けてないでしょ?」

突然何を言い出すかと思ったら……

「それはそうでしょ。だって、誘拐事件が発生したのは10年前からなんですから」

「そう。そして10年前に誘拐された子の当時の年齢は6歳〜8歳だったの。だから、現在は丁度あなた達ぐらいの歳なのよ」

ほう、それなら確かに俺と同じくらいだな。

「それで、その子達は10年もちゃんとした教育環境を用意されていなかったのなら、こちらで用意しようという事になってね。それで政府が土地を用意して校舎を作るために工事をしてるんだけど、それが完成するのが来年なのよ」

……という事は……

「……それで、俺には校舎が完成するまで行動を起こすなと?」

「ええ。それに、まだ誘拐された子達の事も世間には知られていないから、パニックになるかもしれないの。それの対応策を今、急ピッチで進めているから、それまでは待って欲しいのよ」

成る程……それなら、仕方ないか……

「……分かりました。それなら、俺の方も準備をしておきます」

「ありがとう。連絡があったら、あなたにも知らせるわ。そしたら、あなたのやりたいようにやっていいから」

やりたいようにか……

「分かりました。それじゃあ、今日は一旦部屋に戻りますね」

「ええ。あなたから話を聞けてよかったわ」

「こちらこそ、ありがとうございました。それでは、失礼します」

俺はそう言って、部屋から出た。

そんじゃ、連絡があるまでは待つか。

……一応、佐藤さんが嘘をついていた時のために心の準備はしておこう。

そうして、俺は自室へと戻って行ったのだった。


「あ、話は終わったのかい?」

研究室の前を通った時、中から春日さんが出て来た。

「あ、はい」

「そっか。君は貴重な研究対象だからね、興味を持つのはわかるよ。それじゃあ、今日もVRの世界へと行ってもらおうかな。それと今日から君には1日に2回、VRの世界へと行ってもらうよ」

そっか、これからも俺はVRの世界に行かないといけないのか……

「って、え!?」

「ん、どうしたの?」

いやいやいや!

「1日に2回って、春日さんはVRの世界に行くのは1日に1回が限度だって!」

「そうだったんだけどね……実はソムニウムの改良に成功して、1日に2回までなら大丈夫になったんだよ」

……それ、本当か?

「疑ってるね?本当だって」

春日さんはそう言う。

……まあ、どうせ俺には拒否権がないんだ。こうなったら、とことんやってやるさ。

「……分かりました。それで、ソムニウムはどこに……」

「あ、こっちだよ。ついて来て」

そう言って春日さんは歩き出す。

俺は春日さんの後をついて行った。


「ここに移動させたんだ」

そう言われて連れて来られたのは、ただの通路だった。

「え、何もないですけど……」

「ああ、今開けるね」

そうして、春日さんは壁をなぞる。

カシュッ!

すると、壁からボタンが現れた。

そして、春日さんはそれを押す。

すると……

ガガガガガッ!

床が畳一畳分程スライドして、階段が現れた。

「……すげー」

思わずそう呟いてしまう。

「ここだよ。さあ、ついて来て」

「え、あ、はい」

俺と春日さんは、階段を下りて行く。

そして階段が終わると、そこは部屋になっていた。

そして、真ん中にソムニウムが置かれている。

「……どうしてここに移動させたんですか?」

「色々と弄ってたら、研究室にある設備じゃ足りなくなってね。それでここに移したんだ。ほら、早く座って」

「あ、はい」

そうして、俺はソムニウムに座った。

「じゃあ、スイッチを入れるよ。準備はいい?」

「はい」

「それじゃあ、頑張ってね」

その声を最後に、俺の意識は途絶えたのだった。

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