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10話

俺は師匠に弟子入りをしてから毎日剣技を磨いていった。師匠が編み出した剣技はどれもすごいものばかりで、1つの剣技を習得するのにかなりの時間を要した。初歩の焔でさえ習得に1週間かかったからな。それでも、俺はもうあの女の子や理亜の時のような思いをするのは絶対にごめんだ。だから努力した。努力して努力して師匠の剣技を1つずつ習得していった。

そうして過ごしているうちに3年が過ぎていた。


「レイよ。よくぞここまで頑張ったな」

「ありがとうございます」

「では、最後の剣技を教えるぞ」

「はい!」

そうして師匠は構える。初めて会った時、師匠は75歳だと言っていた。今はあれから3年が経ち、師匠は78歳になった。しかし、剣を持つその姿は3年前と変わらず、とても勇ましい。

「いくぞ」

「はい!」

その後、師匠は心証流の最後の剣技を見せてくれた。

俺はその剣技を見て鳥肌が止まらなかった。

その技は師匠らしく、とても綺麗で力強い剣技だった。

こんなにすごい剣技があったんだな……

「これが最後の剣技じゃ」

「とても綺麗で力強い印象を受けました」

「そうか」

「それじゃ、早速やってみますね」

「いや、これはやらんでよい」

「え?」

「心証流の最後の剣技は、使う者が自分で技を考えるんじゃ」

「自分で、ですか?」

「そうじゃ。自分がこれだと思った時、それを剣技にするとよい。それまでは今までの剣技を磨きなさい」

「はい!」

自分がこれだと思った時か。いつかは分からないけど、絶対に俺だけの剣技を完成させよう。

そう決意した俺は、それからより一層鍛錬を重ねた。


それから1年が過ぎた。師匠は最後の剣技を俺に見せてくれてから、段々と体調が悪くなっていった。最近では師匠は寝ている事が多く、食事もあまり喉を通らなくなっていた。

「師匠、大丈夫ですか?」

「ああ、もう歳じゃからな。お主には迷惑をかけてすまぬの」

「何言ってるんですか。俺は師匠のおかげで立ち直る事が出来ました。それに剣技も教えていただいて。師匠には返しきれないぐらいの恩があるんですよ。逆にこれぐらいしか出来ないのが情けないです」

「そんなことないぞ。お主はよくやっておる。情けないなぞ思うでない」

「……ありがとうございます」

逆に励まされてしまった。こんな時まで何やってんだよ。

「……師匠、俺は絶対に自分だけの剣技を見つけてみせます」

「ああ、楽しみにしとるぞ。それとな、お主は剣を2本持っておるじゃろ」

「はい」

「それを使いこなせる事が出来れば、もっと幅が広がるとわしは思うとる」

「でも、今でも2本使ってる時もありますよ」

「そうじゃなくての、2本同時に使うんじゃ。左右の手に1本ずつ持っての」

「それって二刀流ってことですか?」

「そういうことじゃ」

「……分かりました。頑張ってみます」

「うむ。自ら可能性を狭めるのはよくないからの。これからも自分を信じて、好きにやってみるとよい」

「はい!」

そうだな。心の在り方で剣技は変わってくる。それなら、色々な事をやってみるべきだよな。俺は本当にいい師匠に出会えた。俺はそんな事を思いつつ、1人で刀を振り続けた。


それから1週間後のことだった。師匠は亡くなった。俺は家の近くに師匠の墓を建てた。俺はその後も師匠の家に住み続けた。ここで一生を終えると決めた。ここで俺は師匠と出会い、色々な事を教えてもらい、再出発出来た場所。そんな場所で、俺はずっと剣技を磨き続けた。

そして俺も年を取り、遂に限界が来たようで、気づけば意識を失った。


「やあ、戻ってきたね」

「……そうか。俺は死んだのか」

「そうじゃないと戻ってこれないしね」

「……そうか」

「今回は長かったね。4時間を超えてるよ」

そうか。あの世界で何十年と過ごしても、こっちの世界では何時間なんだよな。

「今回は脳にも変化は見られないから、普通に死んだのかな?」

「ああ、そうだ」

「そっか。この後はどうする?」

「トレーニングするよ」

「分かったよ。じゃあ僕はこの研究室にいるから」

「ああ」

そうして、俺はトレーニングルームに向かった。少しでも強くなるために。


夜。俺は考え事をしていた。

「……不思議な感じだな」

とても不思議な感じだ。俺はVRの世界で何十年も過ごしていた。今日の朝の時点でも、精神年齢としては30歳を過ぎていた。まあそれどころではなかったから、あまり参考にはならないが。

「今、俺の精神年齢は100歳以上ってことになるよな」

それなのに、現在の身体は17歳のままだ。しかもVRの世界ではずっと鍛えていたから動きやすかった。しかし、この体は17年間殆ど運動をしてこなかった体だ。最近トレーニングをしているが、それではVRの世界のようなパフォーマンスには程遠い。

「だからって焦ってトレーニングしても、オーバーワークになるからな」

そこが厄介なところだ。だがこればかりはどうしようもない。

「また明日VRの世界に行くとして、俺はまた精神年齢と肉体年齢が離れるのか。いや、明日どころかこれから何回もVRの世界に行くんだろうし、その度に精神年齢だけ年を取るのか」

そしてVRの世界から戻ってくる度に現実の体が動きにくいと感じるんだろうな。まあ仕方ないか。

「暫くは効率のいいトレーニングをするしかないか」

今後の方針を考え、ある程度決まったところで俺は寝たのだった。


朝。俺は起きるとトレーニングルームに向かった。

そしてランニングマシンで走る。俺はVRの世界では毎朝30キロのランニングをしていた。しかし、現実の体ではそんなに走れないので、一先ず5キロを目標にしている。

そうして走っている時だった。

「あれ?早いね」

ドアの所に春日さんが立っていた。

「ああ、春日さんか。VRの世界では毎朝走ってたから、こっちでも走らないと気が済まなくてな」

「そうなんだね。まあいいけど、終わったら研究室に来てね。またVRの世界に行ってもらうから」

「分かった」

俺の返事を聞くと、春日さんは研究室に向かった。

「今度はどんな世界なんだろうな」

まあ、どんな世界だろうとやる事は変わらない。俺は自分を信じて剣技を磨くんだ。

「さて、再開するか」

俺はまた走り出したのだった。


俺は走り終えて軽くクールダウンしてから朝食を食べ、研究室へ向かった。

「あ、終わったんだね」

中に入ると春日さんがいて、俺に話しかけてきた。

「ああ。それじゃ、ソムニウムに座るぞ」

「ちょっと待って」

「どうしたんだ?」

「一応聞いておくけど、まだNo.EXの方の魂は具現化出来てない?」

「ああ、まだだ」

「そっか。ありがと。それじゃ、座って」

「分かった」

そのまま俺はソムニウムに座り、春日さんの準備が出来るのを待つ。

「よし。こっちの準備は出来たよ」

「俺の方はいつでもいいぞ」

「オッケー。それじゃあ頑張ってね」

いつものように、俺は意識を失った。

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