101話
「ここよ」
女性が指差すのは、さっき女性が鞄を盗まれた場所から100メートル程離れた場所だった。
「ここって、宿ですか?」
女性が案内してくれた場所は、看板に『ミセリス』と書かれた宿泊施設だった。
「そうよ、私の家は宿をしているの。さあ、入って」
そう言って、ドアを開けてくれる。
「お邪魔します」
俺はそう言って、中へ入った。
中には机と椅子がいくつかあり、その奥に受付があった。そして、そこに男性が1人立っていた。
「いらっしゃいって、カレンか。そちらはお客さんか?」
そう受付の男性が声をかけてくる。
「違うわ。この人は私を助けてくれたのよ」
「どういう事だ?」
そこで、さっきあった出来事を伝える。
「そんな事があったのか!?それで、お前は大丈夫だったのか!?」
男性は女性にそう聞く。
「ええ、私は大丈夫よ。彼のおかげで鞄も無事だし」
女性がそう言うと、男性は安堵したようで胸を撫で下ろしていた。
「それで、彼にお礼をしようと思ってついて来てもらったのよ」
「そうか。そういう事だったら、こっちに座ってくれ」
俺は男性にそう言われ、椅子の1つに座る。
男性と女性も俺の前に座る。
「自己紹介がまだだったわね。私はカレン・メイザーよ。彼は夫のマックス」
「マックス・メイザーだ。妻を救ってくれてありがとう」
そう言って、マックスさんは頭を下げてくる。
「いえ、偶然通りかかっただけですから」
「でも、あなたのおかげで鞄は無事だったわけだし、本当にありがとう」
カレンさんもそう言ってくる。
「いえいえ」
「そうだわ、今お茶を出すわね」
「あ、お構いなく」
そうして、カレンさんは行ってしまった。
「それにしても、本当に妻が無事でよかったよ」
マックスさんはそう言う。
余程カレンさんを愛しているのか、その顔は本当にカレンさんの無事にほっとしているようだ。
そこで、カレンさんが戻って来た。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
俺は差し出されたお茶を受け取る。
「それで、あなたのお名前を聞いてもいいかしら?」
そう言えば、まだ名乗ってなかったな。
「俺は難波レイです。レイと呼んでください」
「分かったわ。それで、何かお礼をしたいのだけれど、何か欲しいものはある?」
カレンさんはそう聞いてくる。
「あまり高価な物を要求されても困るけどな」
マックスさんはそう冗談っぽく言う。
まあ、元々何も貰うつもりはないんだけど……
「……あ、それならここに1泊させてもらってもいいですか?実はお金がなくて」
俺がそう言うと、2人は頷いてくれる。
「そんな事ぐらいでいいなら、もちろんオッケーよ」
「ああ。それどころか、1泊と言わず1週間泊まってもいいぞ」
マックスさんはそう言ってくれる。
「いえ、流石にそれは悪いですよ」
「あなた、欲がないのね」
カレンさんはそう言ってくるが、何か貰うために助けたわけじゃないしな。
「それと、どこかで働けるところはありませんか?」
俺がそう聞くと……
「働けるところか……ここで雇ってもいいんだが……」
「生憎、私達の収入じゃあ人を雇うのは厳しいわね」
「ある程度なら、力仕事でもいいですよ」
「力仕事か……ソウル・リベレイターなら、ギルドに入れるんだがな……」
おお、この世界にもソウル・リベレイターはいるのか。
「実は俺、ソウル・リベレイターなんですけど」
俺がそう言うと、2人は驚く。
「えっ!?」
「本当なのか!?」
「ええ」
俺は頷き、刀を出す。
「リベレイト」
ブンッ!
「うおっ!?」
「本当だわ……」
俺は2人に聞く。
「これなら、そのギルドってところで働けますかね?」
「ああ、大丈夫だと思うぞ。それより、その剣……」
ああ、そう言えば久しぶりだな。
俺はいつものように誤魔化し、そのまま話を進める。
「それと、ギルドって何ですか?」
俺はそう聞く。
「ギルドって言うのは、この国の近くにあるダンジョンを攻略するための組織さ」
ダンジョン?
「あの、ダンジョンって何ですか?」
「え!?ダンジョンを知らないのか!?」
「はい、知りません」
「本当なの?ダンジョンって、この世界ではすごく有名よ」
いや、そう言われてもこの世界に来たのはつい数時間前だしな。
だけど、本当の事を言うわけにはいかないからな。
「すみません、知りません」
俺はそう言う。
「……そう。それなら仕方ないわね」
「ダンジョンとは、簡単に言うとモンスターが現れる場所だ」
モンスター!?おいおい、これは遂に本格的なファンタジー世界が生成されたのか!?
「モンスターって言うと、ゴブリンですか?」
「そうだが、ゴブリンは知ってるのか?」
「あー、まあ何かの本で読んだような気がするんですよ」
俺はそう誤魔化しておく。
「そうか。それは恐らくダンジョンについて書かれた本だろうな」
「多分そうですね」
危ない危ない。俺は何も知らないって言ったのに、モンスターの名前を出したら怪しまれるよな。気をつけないと。
「それで、そのモンスターを倒すために出来たのがギルドだ」
「となると、そのギルドに所属しているのはソウル・リベレイターばかりってわけですか」
「まあ、一般人の職員を除けばそうなるな」
成る程。そうなると、俺は遂に漫画やゲームのような世界に来た事になるな。
「それなら、俺はそのギルドを訪ねてみます」
「分かった。まあ、ギルドでやっていくのはかなりの実力がいるからな。頑張れよ」
「私も応援してるわ。頑張ってね」
マックスさんとカレンさんはそう言ってくれる。
「ありがとうございます」
「だが、今日はもう夕方だし、明日にした方がいいと思うぞ」
マックスさんにそう言われ、俺は窓の外を見ると、あと1時間もすれば日は沈みそうだった。
「そうですね。では、今日はここに泊めていただきますね」
「ああ、そうだったな。カレン、部屋に案内してやってくれ」
「ええ。ついて来て」
「はい」
俺はカレンさんについて行く。
俺達は受付の横にある階段を上って2階に来ると、そのまま突き当たりまで進む。
「ここの部屋を使って。端の部屋だから、他の部屋よりも少し広くなってるわ」
「え、いいんですか?」
「ええ。他にお客さんもいないし、折角だから使って」
俺が聞くと、カレンさんはそう言ってくれる。
「ありがとうございます」
「いいのよ。それより、夕飯が出来たら呼ぶわね」
「え、ご飯も食べさせてくれるんですか?」
「普通はお金を貰うんだけど、今回は特別よ。それじゃ、ゆっくりしてね」
そう言って、カレンさんは俺にウインクして、そのまま歩いて階段の所まで行き、そのまま下りて行く。
「何から何まで悪いな……」
こうなったら絶対ギルドに入って、しっかりお金を払おう。
俺はそう決意し、部屋のドアを開けて中に入る。
中は1人で使うには広く、2人でも十分生活できる程の広さがあった。
俺は椅子に座り、そのまま窓から外を見る。
「さて、これからどう生きていくか……」
俺はこれからの生活について考えながら、外の街並みを眺めていたのだった。




