9話
うぅ……ここは?
俺は周りを見た。
「気がついたようじゃの」
「!?」
俺の隣には、さっき襲いかかってきたじいさんがいた。
「安心せい。もう何もせんわい」
「……さっきは何で攻撃してきたんだ?」
「それはお主がわしの家を覗いておったからじゃよ」
「家?」
「そうじゃ。ここはわしの家じゃ」
そうだったのか。そりゃ自分の家を覗いてるやつがいたら不審者だと思うよな。
「すみません。この山を登っていたら家があったもので、どうしてこんな所にあるのか気になって」
「そうじゃったか。それはすまんことをしたのう」
「いえ、俺が悪いのでお気になさらず」
「そうか。それにしてもお主は何故こんな所を登っておったんじゃ?反対側に登山コースがあったじゃろ」
「元々は興味本位でこの山を登ろうと思ったんですが、折角なのでトレーニングを兼ねて険しい場所を登っていたんです」
「そうか、トレーニングか……それにしてもお主、先程は中々いい身のこなしじゃったぞ。自分で言うのも何じゃが、わしは剣の腕には自信があるからの」
「ありがとうございます。でもあれは偶々です。俺は剣の扱いには慣れていないので」
「そうなのか?」
「はい」
「じゃがお主の武器は剣じゃったろう?今まで剣術を習ったことはないのか?」
「はい。全くないです」
「そうか……よければ剣を見せてくれんじゃろうか」
「どうしてですか?」
「興味があるからじゃよ」
まあいいか。
「分かりました」
そう言って、俺は武器を出す。
「……やはり珍しい色をしておるの」
「そうですね。まあ少し変わってますね」
「少しどころではないと思うんじゃが。まあよい。ありがとう」
「いえ、いいですよ」
じいさんは俺の顔をまじまじと見てくる。何だ?
「どうしました?」
「いや、お主の目が少し気になっての。何か辛い事でもあったのか?」
目を見て分かるのか。すごいな。
「そうですね」
「そうか。よければ聞くぞ」
「……」
「話したくないなら無理にとは言わんがの」
「……いえ、聞いてください」
そして俺は今まであった事……あの女の子と理亜の事をぼかして説明した。この世界ではないから詳細は語れない。
そうして話し終えた。
「……そんな事があったんじゃな」
「はい」
「……」
じいさんは何事か考えているようだ。
「……お主、わしの弟子になるか?」
「……はい?」
「お主はその女の子達を助ける事が出来なかった。それは変えようのない事実じゃ。じゃが、もしこの先お主がまた助けたいと思った人が出来たとして、今のお主の力では同じ事を繰り返すだけじゃ」
「……そう……ですね」
全くその通りだ。俺には力がないから。だから2度も同じ事を繰り返した。それは紛れもない事実だ。
「それなら、前を見据えて強くなるしかなかろう」
「……」
「お主はまだ若い。これから色々な人と関わっていくじゃろう。その都度襲いかかってくる脅威に立ち向かうための力が、強さが必要になってくる」
「……」
「じゃから、もう後悔することのないよう、前を見据えてひたすら努力するんじゃ。それが同じに出来る精一杯の償いじゃろうて」
「……」
俺は黙って聞いていた。じいさんの言葉は俺の心にとても響いた。そうだよな。同じ事を繰り返さないように努力する。こらから出会う人を助ける。それがこれまで俺がしてきた事の償いになるなら……
「……分かりました。弟子にしてください」
「うむ。よかろう。そう言えば自己紹介がまだじゃったな。わしの名は東郷総司じゃ」
「俺は難波レイです」
「レイか。よい名じゃ。これからよろしくの」
「はい、師匠!よろしくお願いします!」
こうして、俺は新たな決意とともに1歩踏み出したのだった。
「では、レイよ。まずはお主の武器を出す速度を速くするぞ」
「はい!」
「まずはわしがやるから、見ておるのじゃぞ」
そう言って師匠は武器を出した。1秒かかってるかどうかという速さだ。
「速い……」
「まあこんなもんじゃの。やってみなさい」
「はい!」
俺は何度かやってみるも、武器を出すのに3秒ほどかかってしまう。
「駄目だ……」
「何か合言葉を言うといいかもしれんぞ。実際にそういう事をしている者もおる」
「分かりました」
しかし合言葉か……そうだ!
「リベレイト!」
ブンッ!
「おお!」
「ほう」
今のは1秒程で出来た。
「出来ました!」
「やりおるの。それにしてもリベレイトとは何じゃ?」
「俺達みたいな人はソウル・リベレイターって呼ばれていると聞いたので、そのリベレイターから取ってみました」
「成る程の。まあ何にせよ、今の速さなら合格じゃな」
「ありがとうございます!」
「では剣を振るうための基礎的な動きを教えるぞ」
「はい!」
そうして俺は1週間、みっちり基礎を叩き込んだ。
稽古以外は師匠の家で居候になっているので、家事全般を俺がやった。買い物は山を下りなければならないが、それもトレーニングの一環として進んで引き受けた。そのため家事も上達した。
「では、わしが考えた剣技を同じに教えるぞ」
「はい!」
聞く所によると、師匠はオリジナルの剣技を使えるという。それを今から教えてもらう。
「まずわしの剣技じゃが。名を心証流と言う。
「心証流……」
「心の証と書くんじゃ。わしの剣技はその名の通り心の証。心の在り方で同じ剣技でも変わってくるんじゃ」
「そんなに繊細な剣技なんですか?」
「そうじゃ」
「じゃあ俺と師匠でも違ってくるんですか」
「そりゃそうじゃ」
「それだと教えてもらっても全く違うものって事もあるんですか?」
「いや、そこまでは違わんよ。型は同じじゃ。しかし構え、剣を持つ角度、振り抜く速さなどが使う者によって変わってくるんじゃ」
「そうなんですね。何だかそれって、面白いですね」
「そうじゃろう。誰が使っても同じじゃと面白くないからの」
「分かります」
「それでは始めるとするかの」
師匠はそう言って、俺から離れた。
「よく見ておくんじゃぞ」
「はい!」
俺は真剣に師匠の動きを見ていた。
「心証流秘剣ー焔」
師匠は剣の切先を地面すれすれの所に構えると走り出した。そして最後に斬り上げを放つ。そして師匠はこちらに来た。
「どうじゃ?」
「すみません。あまりすごさが分かりませんでした」
「そうじゃろうな。では今度は技を受けてみなさい。もちろん寸止めするから安心せい」
「はい」
そうして師匠と俺は距離を開けて対峙する。
「いくぞ」
「はい!」
師匠はまたさっきの構えを取る。
「心証流秘剣ー焔」
そのまま師匠は走って来た。
「!?」
そして俺に斬り上げをしようとして止めた。
「どうじゃ?」
「剣が見えませんでした」
「そうじゃろ。この技は弧を描いて走る事で相手に常に剣を見せておき、最後に身体で剣を隠す事で出所を見えなくする技じゃ。そしてそのまま焔の如く斬り上げを見舞う。それが心証流秘剣ー焔じゃよ」
「すごいですね」
「まあの。しかし焔は心証流の中でも初歩的な剣技じゃからの。この程度で驚いていてはいかんぞ」
「そうなんですか」
すげーな、これで初歩かよ。
「それではやってみなさい」
「はい!」
そうして俺は師匠の剣技をマスターするため、毎日鍛練を重ねるのだった。




