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中二病棟、天に舞う  作者: 倫理
7/11

episode6:思惑

 ――放課後。

 俺と公太郎は昼休み決めた通り、部活見学に行くことにした。


「しかし、どこから見に行くか……」


「空汰は中学何やってたんだ?」


「俺は前に言った通りパソコン部だった。これと言って特別なことはやってない」


「小学校のときのバスケは? 続けてなかったのか?」


「別に好きでやってたわけでもなかったしなー。公太郎はどうなんだよ」


「小学校は野球しかやってなかったし、中学は野球とテニスと卓球と剣道と柔道と水泳と陸上と」


「待て待て、野球だけじゃなかったのか、何個やってんだ!」


「まぁ転々とやってたけど、結局しっくりくるのは無かったかな」


「そうか。となると、文化部見てみるか?」


「文化部かー。この学校かなり部活多いよな。何があるんだっけか」


「部活見学のパンフレットまで用意されてるくらいだもんな。これは相当力入れてるんだよな」


「なになに……『吹奏楽部』に『書道部』に『美術部』、『非科学事象観測部』に『人体実験部』に『空想実現部』?」


「よくあるものから珍しいタイトルまでひしめいてるな。後半はおよそ予想もつかない上にあまり近寄りたくもない」


「だな。とりあえず上から順番に行ってみるか?」


「そうだな。まぁ、明らかに行かないとこは飛ばしてな」


 ということで、俺達は片っ端から見て回ることにした。

 勿論体験も出来るのだが、下手に参加すると中身も分からず、流れに乗って入部させられるリスクがある為、今日は側から見るだけにした。

 文化部でやはり一番人気そうなのが吹奏楽部。

 あいにく俺たちは楽器経験など無く、音楽にも疎い為、最初から候補外としていた。

 文化部は基本的に特別棟の各教室で活動しているが、物によっては外でやっていたりもするらしい。

 現に科学部が簡易ロケットを空高く打ち上げている。

 あれもまた勧誘の出し物というところだろう。

 こうして俺たちはしばらく見て回っていたが、どこもしっくりくるものが見つからなかった。

 こうなれば、しのごの言わず入ってしまうのも手なのだろうが、まだ慌てる時間ではない。

 時間、と言ったがこの学校、実は部活の半強制参加制度がある。

 進学組だからとか、委員会にいるとか、体調の問題とか特別な理由でも無い限り、無部は認められないのだ。

 入学式から一ヶ月の猶予がある為、すぐに決めなければというわけではない。

 しかし候補ぐらいは今日のうちに決めていきたいところだ。

 公太郎も同じ思惑らしい。


「おや、そこにいるのはオムライス好きの公太郎君かな?」


芦尾(あしお)先生!」


 “芦尾 真里(あしお まり)”、我が一年A組の担任だ。

 見た目二十代後半といった具合で、吉並高校にも去年就任したばかりなのだそうだ。

 ハツラツとした態度で元気みなぎるその姿は、実に好印象だ。

 これから人気の的になることだろう。


「部活見学かな?」


「そうなんすよ。何にすればいいのか全然で」


「よかったら二人とも、家庭科室に来ない?」


「家庭科室ですか?」


「うちの部で今日オムライス作ってるんだ」


「オムライス……!」


 公太郎の目が輝き出している。

 いや、ヨダレの見間違いか。


「というか、“うちの部で”ということは」


「そう! 私は家庭部顧問だよ」


「へー、家庭部。そういえば公太郎、昼に家庭部の部員に会ったんじゃなかったか?」


「ん、あぁそうだよ」


「あら、もう面識あるのね! じゃあ丁度いいじゃない」


「と言っても一人だけでしたけど……」


「まぁいいからとりあえずおいでよ!」


 特別棟二階、家庭科室。

 吉並高校の校舎は、教室棟四階建、特別棟三階建、それに体育館を合わせたつくりになっている。

 教室棟は一階が一年生、二階が二年生、そして三階が三年生の教室となっている。

 ちなみに四階は、生徒会室と図書室、あとの部屋は特別棟に入らなかった部活動が使っているとのことだ。(本校部活動パンフレットより)


 さて、家庭科室。

 半ば強引に連れ込まれたわけだが、さして予定があるわけでもなく、俺たちは暇つぶし程度で付き合うことにした。


「ようこそ家庭部へー!」


 元気のいい芦尾先生の掛け声で、部員が一斉に出て……来なかった。


「先生、誰もいないんですが」


「……さぷら〜いず」


「えぇ……」


 先生がサプライズされてるのか……。


「今は不在なだけよ! 大丈夫! オムライスはちゃんとあるから」


 別にそこは心配したつもりもないが、隣から安堵の溜息が聞こえた。

 言わずもがな、公太郎だ。


「ちょっと待っててねー、今スプーン持ってくるから」


 そう言って先生は奥の用具庫に消えていった。

 公太郎はそわそわしながらオムライスの置かれた机に行き、席についた。

 その様子はさながら、待てを命じられた犬みたいだった。

 俺は別に腹が減っているわけでもないのだが、美味しそうな香りにつられ、俺も席について、先生を待つことにした。

 オムライスからまだ湯気が立っているのを見ると、家庭部員は俺たちが来る直前までいたことがわかる。

 用意されていたオムライスは二つ。

 先生のあんな思いつきのような勧誘で、この用意の良さ。

 不自然なスムーズさに違和感を覚えた。

 まぁ、しかし考えてみればこの時代、電子レンジもあれば携帯もある。

 勧誘人数を部員に連絡し、おおよその時間をみて予め作っておいたオムライスを温めておくなど、造作もないことだ。

 そう考えれば少し手の込んだ勧誘方法だと納得がいく。

 ふと隣に目をやると、待ちきれず手掴みでいこうとする公太郎の姿があった。

 流石にそれはまずいだろと思っていると、芦尾先生がスプーンを持って戻ってきた。


「はーいお待たせ。じゃ食べちゃって!」


「いっただきまーす!!」


 飛びつくような勢いで食べ始める公太郎。

 リスのように頬を膨らませ、文字通り頬張っている。

 見ているこっちが食欲をそそられるような食べっぷりだ。

 俺もせっかくだからとスプーンを手にし、一口。


「いただきます」


 ……美味い。

 何が特別ということは無いのだが、しかし確かな美味さ。

 これなら金を出せと言われても文句はない。

 そんな一品だ。

 公太郎は既に半分食べ終わっている。

 余程好物なんだなぁ。


(――ガチャッ)


「ガチャ?」


 後方から物音がした。

 先ほどまでは誰もいなかったはずなんだが……。

 部員が戻ってきたのだろうかと、俺は振り返った。


「悠花?!」


 部屋の入り口には、何故か悠花がいた。

 戸を締め切り、その前に立ったままでいる。

 ……待て、さっきの“ガチャ”ってもしや――。


「……食べたわね」


「芦尾……先生?」


「ふふふふ……鍵は閉めさせてもらったわ」


 怪しい笑みを浮かべる芦尾先生。

 先ほどまでの態度とは打って変わって策士の顔をしている。(気がする)

 鍵閉めたって、それ軟禁では……?

 おおよそ教師とは思えない行動。

 しかし入学式の日に、我がクラスの担任であると紹介されたばかりだ。

 たしかにここの教師であることは間違いない。

 一体何の目的でこんな真似を……。

 思わぬ事態に思考を巡らせていると、芦尾先生は机の下からおもむろに封筒を取り出した。

 そして中身を取り出し、俺たちに差し出してきた。

 A4サイズのプリント用紙。

 そこに書かれていたのは……。


「入部……届?」


「このオムライスを食べたからには書いてもらうわよ」


 とても美味しいオムライス。

 突如差し出された入部届。

 何故かこの場にいる悠花。

 ……俺たちはとんでもなく面倒なものに巻き込まれたのではないだろうか。


 美味しいものには罠がある……のか?

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