表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中二病棟、天に舞う  作者: 倫理
3/11

episode2:教室

「ここだな」


 駅から歩いて数分、目先に吉並高校の校章が見えた。

 “入学式”の垂れ幕が張られた校舎。

 新入生であろう生徒と、横に並んで歩く親の姿がみえる。

 実にまぶしい光景だ。

 もちろん俺もその一人なわけだが。

 ちなみに、俺達の親は式の開始に合わせて来るらしい。


「悠花、春男さんかなり眠そうだったけど、いつもあんな感じなのか?」


「月が出ているうちは」


「まさか、式に遅れて恥かくなんてことは……」


「問題ない。マイファーザーは、やるときはやる男」


「そうかい」


 とりあえずそれは信じておこう。

 第一印象としても、まじめそうないい人だったし、大丈夫だろう。


「えーと、新入生は1年教室で待機、か」


 案内板に従い、歩いていく。

 教室前には、クラス分けと席順の張り紙があった。

 今年の1年はA~Dの4組で収まるようだ。

 大体三十人で一クラスみたいだな。


「1-Aか。悠花は?」


「奇しくも等しい」


「おー、まぁよろしくな。じゃ、俺後ろの席だから。近くの席のやつぐらいは仲良なっとけよ」


「ぅ……」


 悠花の小さいうめき声が聞こえたが、気にせず自分の席へ向かう。

 この世は弱肉強食だ。

 なんか違う気もするけど、現実は甘くないってことが言いたいから、近しいだろ。

 まあ中二病拗らせてても流石に高校生だ。

 親しい友人も今までにいただろうし。

 友達ぐらい、自然にできていくハズだ。

 何も心配ないさ。

 それよりまずは、我が身が先だ。

 先ほどまで散々他人のことを言ってきたが、俺も言えた口ではない。

 席に座ってはみたものの、周りは既に和気あいあいしており、とても滑り込める間が見当たらない。

 もういっそ物理的に滑り込んでウケを狙いに行くのも手だが、今後の俺の立ち位が半ば決まってしまう危険性がある為、それは最終手段としよう。

 しかし、このクラスにも知り合いぐらいはいるハズなんだが、真新しい制服と知ない顔が相乗効果し、うまく認識できない。

 やれやれと肩を落としていると、隣から声が聞こえた。


「おーい。お前」


「ん……俺?」


「案内の紙落としたぞ~、って空汰じゃねぇか!」


「もしかして……“公太郎”か?」


 “飯井 公太郎(いい こうたろう)”。

 小学生の頃、よく遊んでいたやつだ。

 中学からはバラバラになり、気が付いたら連絡するのも忘れていた。

 我ながら酷い有様だ。


「久っしぶりだな~! 元気だったかよ!」


「ま、まぁまぁやってるよ」


「なんだそりゃ、ははっ!」


 そうだ、この他愛もない会話。

 これこそ高校生らしいじゃないか。

 ようやっと一歩を踏み込めた感じではあるが、実際は初対面と打ち解けたわけでないし、公太郎は前席の方だ。

 これでは悠花に言った言葉がブーメランしてしまう。

 せめて名前だけでも把握しておかないと、と俺は近い席を見回す。


 「右隣は、……いっ!」


 あきらかにヤンキーな男だ。

 悠花と違う方向で痛いタイプ。

 目が合わなくて助かった。

 これは知り合いになるだけ損だ。

 見た目で判断するのはよくないのだろうが、制服を着崩し、机の上に足を上げてんぞり返ってるあたり、その印象通りでしか受け取れない。

 おまけに思いっきり茶髪だ。

 金髪でないだけよかったと思えばいいのか?

 案の定、彼の周りに近寄る人はいないようだ。

 俺の周りにもなんだか人が少ないと思っていたが、こいつの影響だったのか。

 早々に席替えを願いたい。

 右は望み薄、左は……。


「寝てる……」


 ことごとくだ。

 運が悪いとしか言いようがない。

 公太郎も席の方に戻ったようだし、退路は断たれた。

 式まではもう少し時間がある。

 さて、と。

 俺は左にならい、ぐったりと机に突っ伏した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「新入生のみなさん、おはようございます!」


 勢いよく入ってきたのは、おそらくここの担任になる先生だろう。

 ようやく式のはじまりか。

 先生が入って来ると同時に、バラバラと座り出すクラスの生徒達。

 始業前着席状態だった俺は、ゆったりと伸びをした。

 ふと右隣に目をやると、その席にあのヤンキー男はいなかった。

 指導室行きか、はたまたエスケープか?

 まぁどうでもいいか。

 左隣は相変わらず寝ている。

 起こした方がいいんだろうが、相手は女子だしなぁ。

 下手に触るのは厳禁だろう。

 放っておいても、式へ向かうみんなの物音とかで起きるハズだ。

 しばらくすると、式へと向かうよう指示がされた。

 がやがやと廊下に出る生徒達。

 前席から順に並んでいくのに従い、俺もそろそろかと立ち上がる。

 しかしお隣の彼女は、すやすやと寝息を立てている。

 一体、何ターン眠るつもりなんだろうか。

 廊下のほうももうすぐ並び終わりそうだ。

 ……流石に起こした方がいいよな。

 周囲の目というものもあるし、ここはさりげなく椅子の足を軽く蹴る形でいくとしよう。

 これでも起きなければあとは自己責任だ。

 俺は廊下へ向かう流れでスッと足を伸ばし、対象の椅子の足にひっかかりつつ、こけそうなフリをして一言。


「おっとごめん! 引っかかった」


 これで自然さもアップだろう。

 我ながら完璧だ。

 彼女もようやく上体を起こし始めた。

 これにて一件落着、と俺はみんなの並ぶ廊下に向かった。


「なに人の椅子蹴ってんのよ」


 その声は後方から聞こえた。


「人が寝てるっていうのに、何だってのよ」


 俺はその声を初めて聞いたが、声の主は分かっていた。

 聞こえなかったふりをしてその場を立ち去ろうと歩みを進めたが、偽装虚しく声の主に腕を掴まれた。


「ちょっと聞いてんのあんた」


 ここまでご指名されてしまっては仕方がない。

 俺はなるべく自然に、かつこの場をスムーズに去れるよう言葉選びを始めた。


「いやぁごめん、椅子に引っかかっちゃって。でもそろそろ集合しないと入学式始まっちゃうしさ、君も行かないと」


「行かないと何なワケ?」


「えっ、いや何って言われても」


「ったく、邪魔だからどっか行って」


「じゃ、ま? ってお前!」


「五月蝿い」


 彼女はその一言で一蹴し、再び眠りについた。

 なんで両隣問題児なんだ。

 ……これ以上関わるのはよそう。


 俺は、今日の運勢を最悪にした神に中指を立てつつ、早々の席替えを切に願いながら、入学式が行われる体育館へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ