第2章2-11 3度目の解放
いつもより少し長めです。
シェイドドレイクは激怒した。
その毛と鱗は逆立っている。
さらにその目は紅く輝き、怒りを露にしている。
レインを睨み付け、威嚇していた。
次の瞬間、シェイドドレイクが姿を消した。
否、その様に錯覚した。
怒りの影響により、スピードが先ほどよりも上がっている。
レインは咄嗟に剣を構えた。
剣の腹とシェイドドレイクの爪がぶつかり、火花が散る。
さらにかなりの衝撃。
剣でガードているとはいえ、骨に直接響くような衝撃だった。
明らかに攻撃力が上昇しているのが目に見えて分かった。
「ぐっ!」
レインは必死に衝撃を堪える。
しかし、さらにシェイドドレイクの攻撃は強くなっていく。
―――スピードもパワーもさっきとは比べ物にならねぇ。
このままガードし続けるのはまずいな。
レインはそう考え、後ろに下がった。
だが、そう易々と後ろに下がらせてくれるほど甘くはなかった。
シェイドドレイクは地面を蹴って、レインに飛びかかった。
「ちっ!そう簡単には下がらせてくれないってか」
レインは舌打ちして、右に身を投げた。
シェイドドレイクは暴れ続けた。
レインはそれを回避しながらシェイドドレイクに近づいた。
シェイドドレイクは爪を振るった。
レインはそれを前に転がって回避した。
そして、大剣を引き抜き、一閃。
しかし、振るった剣は軽々と回避されてしまう。
大剣は一撃の威力は高いものの、攻撃が重くなってしまう。
双剣のような軽やかな動きはできない。
このエネミーはスピードが速いため、大剣では攻撃が当たりにくい。
回避したシェイドドレイクは反撃をしてくる。
跳んだ体勢のまま、身をよじらせ、その鞭のような尻尾を叩きつけてくる。
攻撃していたレインに回避する術はなく、尻尾が直撃した。
幸い尻尾が当たる瞬間、少し身を引いたがそれでも右肩に攻撃を受けてしまう。
「ぐあッ!」
想像を超える程の痛みが全身を駆け巡る。
雷に撃たれたような体を一直線に貫く痛みが走る。
最悪、腕の骨が粉々に砕け散っているかもしれない。
試しにゆっくり動かしてみる。
レインは痛みで顔を歪めた。
痛みは残っているが、骨は折れていないようだ。
右腕はまだ動く。
「大丈夫か、レイン!一旦下がれ。
シェイドドレイクはこっちで引き付ける」
シオンから声がかかった。
その言葉を聞いて、レインは後方に下がった。
シオンはシェイドドレイクの注意を引き付けるために、弾丸を放つ。
弾丸はシェイドドレイクに当たるたび、少し爆発した。
射撃が煩わしくなったのかシェイドドレイクはシオンの方を向いた。
ターゲットはレインからシオンへと移った。
銃は発射する度に、少しの反動が発生する。
銃使いがエネミーのターゲットをとるのは圧倒的に不利な状況だ。
ましてやシェイドドレイクはスピードが速い。
ダメージを与えながら、被弾しない立ち回りはほぼ不可能だ。
しかし、手負いのレインに注意が向いているのはもっと危険だ。
「こっちだ!かかってこい!」
シオンは叫んだ。
その言葉に反応したのかシェイドドレイクは突進を繰り出した。
そして、シオンの近くまで距離を詰めると、その爪を降り下ろした。
シオンは後方にステップを踏んで回避した。
シェイドドレイクの爪が地面に突き刺さり、土煙が立った。
先ほどまでシオンがいた場所は爪によって抉られていた。
抉られた部分はクレーターのようになっていた。
シオンは2、3発の弾丸をシェイドドレイクに撃ち込む。
あくまでも引き付ける為だ。
深追いする必要はない。
シオンは弾丸を撃ち終わるとすぐに銃を抱え、走り出す。
シオンの銃はそれなりの大きさがあるため、あまり早くは移動できない。
「はぁっ、はぁっ!」
シオンは息が上がっている。
あと何回撃って走る動作が出来るか分からない。
あと何分体が動くか分からない。
体はとうに限界を迎えているかもしれない。
シオンを動かしているのは気力だけだ。
それでもシオンは走り続ける。
シェイドドレイクは全く疲れる気配がない。
むしろ攻撃が激しくなっているような気さえした。
シェイドドレイクが爪を振るった。
疲れが溜まっていたせいか、シオンの反応が一瞬遅れた。
気がついた瞬間にはもう遅かった。
シオンは宙を舞っていた。
武器ももう手から離れている。
そのまま背中で着地した。
「かはっ!」
肺の酸素が全て吐き出される。
体に力が入らない。
―――ここ、までか。すまない、レイン。
シェイドドレイクがゆっくりと迫って来た。
―――――――――――――――――――――――――――――
まだ腕の痛みは残っている。
まともに動かせるか分からない。
今はシオンがシェイドドレイクを引き付けてくれているが、
それがあと何分もつか分からない。
シオンが引き付けている間に腕が回復する可能性は極めて低い。
このままいけば必ずやられてしまう。
この状況を打開する方法を考えなくてはならない。
―――何か、何か方法は無いのか。
頭の全てを考えることに集中させた。
そして、ある一つの考えが浮かんだ。
この考えはもともと頭の中にあったのかもしれない。
どんなリスクがあるのか分からない。
だから、考えたく無かったのかもしれない。
今のこの状況、リスクなんて考える暇なんかない。
レインは決心した。
シェイドドレイクを倒す方法はこれしかないから。
こんな考えしか浮かばなかったから。
そして、心の中で叫んだ。
―――ほんの少しの時間でもいい。力を与えてくれ!!!
次の瞬間、自分の心臓がドクンと跳ねたように感じた。
そして、心臓が抉られるような痛みに襲われた。
レインはそれを必死に耐えた。
痛みは一瞬だった。
でもそれが長く感じられた。
その痛みののち、力が奥底から湧いてきた。
自分が自分で無くなったような感覚。
レインは剣を構え、駆け出した。
体が軽く感じた。
―――――――――――――――――――――――――――――
シオンは死を覚悟した。
シェイドドレイクが迫って来ている。
あの爪に引き裂かれて死ぬのだろうと思った。
次の瞬間、シェイドドレイクの後ろでエネルギーが爆発した。
シェイドドレイクの体が跳ねる。
シオンは何があったのかよく理解出来なかった。
シェイドドレイクの後ろには、黒紫の剣を持った少年が立っていた。
次も読んでいただけると嬉しいです。




