第1章3-5 力の覚醒
「こっちよ!」
クレアはファルガレオを挑発して注意を引き付けた。
クレアが走って逃げると、それを追うようにファルガレオはその後を付けた。
―――何としてでも時間を稼いでみせる!
そう思いながら、牽制用の魔法を放つ。
クレアの魔力はもう限界が近い。
極力魔力は使いたくない。
かといって、ファルガレオにダメージを与え続けなければ、
注意がレインに向いてしまうかもしれない。
それでは本末転倒だ。
―――極力魔力を抑えて撃たないと。
あと何発撃てるか・・・。
そんなことを考えながら、ファルガレオを引き付ける。
あんなに走り回っているのに、ファルガレオには疲れの色が見えない。
クレアは魔力も限界に近いが、体力もそれにまた等しい。
体力のほうが先に尽きてしまう可能性もある。
―――こっちも限界が近い。レイン、早く!
そう思いながらファルガレオの攻撃を回避し、レインから離れた場所へと誘導する。
―――もうひと踏ん張りだ!
クレアは心の中で自分に活を入れた。
――――――――――――――――――――――――――――――
レインは自分から溢れる何かよく分からない力に意識を集中させている。
―――コントロールするといってもどうすればいいんだ?
力に飲み込まれないようにするのが精一杯だ。
少しでも意識を逸らすと力に飲み込まれかねない。
―――俺はデフュロスと戦った時、どのようにやった?
あの時の事は、かなり集中していたせいかよく覚えていない。
この力を制御しなければ、絶対にファルガレオに勝つことはできない。
―――でも、どうやってやればいいんだよ!
全く解決策が思い浮かばない。
焦れば焦るほど何も思い浮かばず、そればかりか集中力も途切れてしまう。
集中力が切れれば、力に飲み込まれ、暴走してしまうかもしれない。
レインは頭を悩ませた。
その時だった。
ふいにレインの意識がどこかで分からない場所へ飛んだ。
―――ここは?俺は試験を受けていたんじゃなかったのか
レインは闇の中をさ迷っている。
そこは何もなく、ただただ闇が広がっている。
「誰かいないのか!」
声を張り上げても返事はない。
―――ここから出られないのか?
そう思ったとたん冷や汗が出てきた。
解決策も何もないまま闇の中を歩く。
レインはしばらく歩き続けた。
もうどれくらい歩き続けただろうか。
途方に暮れていると、突然目の前に謎の光が現れた。
よく見てみると、光が人の形を象っている。
突然、光が声を発した。
(この力を制御したいか?)
「お前は誰だ?」
(さあ誰だろうな)
光は答えようとしない。
(まだこちらの問いに答えてもらってないぞ)
「ああ、制御したい。制御しないとこの状況がどうにかならないと思う」
(そうか。一つ教えてやるよ。お前はすでにその力を身に宿している。制御出来るかはお前次第だ)
「だからどうやって制御すればいいんだよ」
(そんなことも分からないのか?ヒントだけ教えてやる。
デフュロスと戦ったとき感覚を思い出せ。ただそれだけだ。
じゃ、俺はこれで)
光は消えようとした。
そこにレインが質問をした。
「最後にもう一度だけ聞く。お前は誰だ?」
(それに関しては俺も分からん。でも、またお前とは会える気がする)
そう言って光は消えた。
レインは光の言っていたことを思い出した。
―――デフュロスとの戦闘?そのときに何があった?
頭の中の記憶をたどってゆく。
レインは一つ思い出した。
―――力?そうか、デフュロスと戦ったとき何者かから力を貰ったのか。
そう考えていると、ふとある物を思い出した。
―――紅い、剣。
光はこうも言っていた「お前はすでにその力を身に宿している」と。
レインは紅い剣を想像した。
そうすると紅い剣が目の前に現れた。
それを躊躇なく自分の胸に突き刺した。
「うぐっ!」
強烈な痛みが広がっていく。
それと引き換えに自分の身に力が宿っていくのが分かる。
レインは闇を手で切り裂いた。
闇が晴れ、意識がもとの世界へと戻っていく。
―――さあ、反撃開始だ。
――――――――――――――――――――――――――――――
―――レイン、まだなの?
クレアは魔法を放ちながら、走っている。
体力も魔力も限界はもうそこまで来ている。
一瞬でも気を緩めれば、意識が失いかねない。
クレアはレインの方を見た。
レインを見たとき、クレアは驚愕した。
―――レインが意識を失っている!?
レインの体を囲んでいた靄は消え、レインはじっと突っ立っている。
ファルガレオの注意がレインに向いてしまえば、レインは死んでしまう。
しかし、クレアには魔力がほとんど残っていない。
今放っている魔法をあとどれくらい使えるか分からない。
―――レイン、早く戻ってきて!
クレアは魔法を放った。
しかし、クレアの手から魔法が出ることはなかった。
ついに魔力が尽きてしまったのだ。
魔法の使えない魔術師のハウンドは武器を持っていないのと同じだ。
「まずい!」
クレアは魔法を使えなくなった。
そこにファルガレオの鋭い尻尾がとんできた。
クレアは回避も防御も出来ず、後方に吹き飛ばされる。
咄嗟に受け身をとったが、全てのダメージを抑えることが出来なかった。
―――このままじゃ・・・やられる
そう考えながらも体が言うことを聞かない。
ファルガレオがクレアに向かって突進してきた。
クレアは死を覚悟した。
ファルガレオの突進がクレアを吹き飛ばす瞬間、ファルガレオがピタリと止まった。
―――何がどうなってるの!?
クレアは困惑した。
次の瞬間、声が聞こえた。
「クレア、こんなになるまで戦ってくれてありがとう。
後は任せてくれ」




