ホラー【1】
「なぁ、肝試ししねぇ?」
そう佑樹が言ったのは、夏休みが始まる一日前だった。
「肝試し? やだ、怖いじゃん」
眉に皺を寄せながら、隣に立つ真紀が言う。
七月中頃、気温も高く、汗を吸ったセーラー服が肌にはりつく。
ざわざわと浮かれ気分な教室の片隅に、私たち五人は集まっていた。
「だって、来年からは大学受験で遊べなくなるんだぜ? 高校生活を思いっきり謳歌できんのは今年が最後じゃねえかよ」
「だったら海とか、もっと楽しいとこでいいじゃない」
「そんなの去年も行っただろ? もっとさ、ヒヤヒヤするような体験とかしたくねぇの? どうせ怖いんだろ?」
脚を組んで椅子に座る佑樹は、不満そうな真紀を、ニヤニヤと挑発するような笑みで見上げていた。
「私も真紀に賛成だよ。肝試しなんてやりたくないもん」
腕を組む真紀の肩に両手を乗せて言うのは、奈緒だ。
「でも、面白そうじゃない?」
「な? 功太もそう思うだろ?」
「げっ、功太まで……。結月は? 肝試し、行きたかったりするの?」
みんなの会話を聞いているだけだった私に、真紀が話をふる。
私はすぐに首を横に振った。
「えーっ、行きたくないよ。肝試しなんて怖そうだし」
「なぁーんだ。つれねぇやつだな……あ?」
その時、なにかを見つけたのか、佑樹が床に手をのばす。
それから、その何かを机の上に置いた。
「何それ?」
「知らねぇ、落ちてた」
それは、紫色の広告のようだった。
机の上からその広告を取り上げた功太が、首を傾けながら文を読み上げる。
「夢のような時間を過ごそう、裏野ドリームランド……? 遊園地の宣伝?」
広告を裏返すと、表紙を私たちの方へ向ける。
アトラクションの置かれた昼間の園内の写真が大きく下の方にはりつけられ、アトラクションの名前や説明、その他の設備などが写真と共に載せらている。
一番上には、紫色の背景にもよく映えるような蛍光のピンクで『裏野ドリームランド』と大きく書かれているが、紫とピンクという色の組み合わせからか、どこか不気味な雰囲気も漂っていた。
「遊園地の広告なんて、誰が落としたんだろ」
奈緒がそう言った時。
「あ……ねぇ、私、ここ知ってる」
功太の持つ広告を掴みながら言ったのは、真紀だった。