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妻の散文  作者: 朝な夕な


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10/11

座敷わらしを見た気がしました。

 来年度には入園という年齢の娘と先日、初めての保育園見学に行きました。

 都会ほど熾烈ではありませんが、長野でも保育園の定員割れはあまりないので入園は難しいです。しっかりしている人は計画的に、四月から見学に通い始めます。平等な抽選とは言われていますが、『この園に通わせたい!』という熱意が伝われば印象はいいですからね。

 それなのに私が、今までダラダラ引き延ばしていた理由。

 単なる人見知りです。娘でなく私の。

 ありがたいことに、ポチポチ書いていた小説を書籍化するというお話をいただいたりして、初めての経験に戸惑い多く……とか言い訳し続けました。

 はい。行こうと思えばいくらでも行けますね。半年経ってようやく決心つくとか、本当にダメ人間。娘はいい迷惑。

 半ば引きこもりのような人間には、ハードルが高いのです……。

 それでも歩いて五分の位置にある保育園に娘を入れたい。自分が卒園した場所だから安心というのもあるし、今後のことを考えても絶対いい。

 こうして、久々に足を踏み入れた保育園。

 自分が子どもの頃とは全然違う改築された建物に、恐る恐る入ってみました。

 初めの内はとても緊張しました。

 私以外の方達はもう知り合いだったりして、出遅れ感が半端ない。でも全部自己責任。娘が楽しく遊べていればそれでいいと思うことにしました。

 絶賛イヤイヤ期なので、泣いたらどうしよう。お友達と仲よくできなかったらどうしよう……。

 そんな心配をしていましたが、全部取り越し苦労でした。コミュ力高いね、私と違って。

 おままごとをしたりお絵描きをしたりして一時間ほどが経つと、自由時間になりました。このまま遊んでいてもいいし、園庭に出て遊んでもいいという時間です。

『お外で遊んでみようか?』と誘うと、娘はここでイヤイヤを発揮。『お外出ない。お外出ない』と泣きそうになります。

 別に強制でもないので、好きにさせました。

 その後は何とか、お部屋に残った組の方と話すことができました。

 上の子も同じ保育園を出ているらしいその方は、とても優しく、のびのび自由な園風で、親の役員決めもない。保護者同士の食事会などもないと、オススメしていただきました。

 下調べをほとんどせずにいた私に、申込書はいつ頃もらうのか、どうやって書くのか、いつ頃結果が出るのか。本当に色々教えてくれました。

 娘も楽しそうだったし、私もためになった。最終的にはとても大満足で園見学は終わりました。

 が、ここからが長かった。

 外に出ると、娘が園庭に滑り台を発見。遊びたいと言い出したのです。

 ぞろぞろと帰っていく子ども達の群れの中、梃子でも動かない我が娘。イヤイヤ期全開。さっき『お外出ない』って言ったのに。

「ママは一緒に行かないよ。置いてっちゃうよ」

 脅すと弱気な顔になりましたが、やっぱり動かない。園庭で楽しそうに遊ぶ年中さん達をじっと見つめ続けています。

 うちの娘を心配して、一緒に残ってくれるお母さんがいてくれました。優しい方がいっぱいです。そして私は色んな人に迷惑をかけ通しです。ちなみにその方のお子様はいい子で、お母さんの側で大人しくしていました。

 とは言っても、うちの子も園庭と玄関の境界を越えようとはしません。まぁ大丈夫だろうと、そのお母さんと盛り上がっていました。

 けれどふと視線を送った時、娘は園庭の方へ一歩踏み出しているではありませんか。

 いやいや大丈夫だよね、このくらいの年の子は、親の側離れるの怖いよね。

 そう信じていたのに。

 しばらくしてまた見てみると、娘と背中越しに目が合いました。先ほどとは打って代わって、彼女は毅然とした表情。その目は確かに語っています。『行ってくる』と。

 直後、颯爽と走り出す娘。

 待って! と伸ばした手が届くはずもなく。

 園庭を走り回る先生を、夢中で追いかけ回す年中さん達。そこにニコニコ笑顔でしれっと交ざる娘。


 ――座敷わらしか、君は!?


 あっという間に周囲に溶け込む娘は、まるで日本昔ばなしの座敷わらしのよう。騒ぎにもなっていません。あれ、みんなには見えてないのかな……?

 私はずっとお付き合いしてくださったお母さんに、力なく頭を下げます。

「……捕まえてきますね。ここまで、本当にありがとうございました」

「いいえ、こちらこそ楽しかったです。……頑張ってくださいね」

 優しい笑顔で励ましていただきました。ドンマイ、という心の声が聞こえてくるようです。

 その後娘は砂場で男の子に交じったり、滑り台を何度も滑り続けたり。園見学を誰よりも満喫していました。もう園見学の時間は終わってますけどね。

 先生方がゆるっと優しく、本当に全く気にしていなかったのが救いです。困惑など欠片も見せずに『大丈夫ですよ~』と言ってくださり、天使のように見えました。

 結局娘は、年中さん達がお昼ご飯を食べに戻るまで、ずっと一緒に遊んでいました。帰り際には砂場で遊んだ仲間達とハイタッチ。『また遊ぼうね!』とメッチャ親しげな男の子達。女の子達も頭を撫でてくれました。

 最後にまた帰りたくないとイヤイヤ発揮するかと思われた娘は、ご満悦で『ごはん食べる』と歩き出します。何てマイペース。私達、すごくたくさんの人に迷惑かけたんだよ?

 ですが私も何だか楽しくなってきて、一緒に笑ってしまいました。



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