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ボス

 ロールプレイングゲームをする時は各々の性格が出ると俺は思っている。

 そして、そのプレイスタイルは大きく三つに分けられる。


 一、ストーリー重視で寄り道をせずに最短コースを突き進む。

 二、マップでアイテムのありそうな場所は探りサブストーリーもこなしていく。

 三、あらゆる場所を全て探索して、サブストーリーも全て制覇、隠し要素は全て出してダンジョン内のマップでは充分すぎるまでレベルを上げて、中ボス戦で全く苦戦しない。


 昔は三のやり込みゲーマーだったのだが、社会人になってからは主に一もしくは二が限界だった。金はあっても時間がないというジレンマだよな。

 今は金が必要なく時間も余っているのでこうやって思う存分やり込める訳だが。

 ということで、結構な数のゾンビたちを成仏させている。当初はゴールを目指していたのだけど、魂技の伸びもいいのでこの墓地ゾーンでとことんまで魔素稼ぎをすることにした。

 もう三日目になるが一度倒したゾンビたちが再び現れることはない。ゲームならマップを移動したらリセットされて湧いてくるというのが定番だが、同じマップ内で作業しているので問題ないようだ。

 かなり広範囲の掃除が終わったのだが、ここに居座り続けてわかったことがある。無限に広がる墓地のように見えて途中見えない壁が存在した。

 正確には本物の塔の壁があって、そこに奥行きのある映像を映し出しているといった感じだ。たぶん、一階も同じ仕組みで実際以上の広さを演出していたのではないだろうか。

 まあ、それでも異様な広さであるのは間違いないが。


「ここも掃除終了っと」


 入り口だった扉付近に戻ってそこの周辺から潰していったのだが、入り口の近くは敵の腐敗が激しく弱いので戦いやすい。

 石の棍に炎を纏わせたら驚きの速さで処分できた。

 逆に宇宙服もどきはスーツに熱耐性があるらしく、普通に殴っても炎が通用しなかったのだが相手は殺された死体。死んだときに負った傷やスーツに穴があるので、そこを狙えば同様に燃やすことが可能。

 魂技『炎使い』があって本当に助かった。これがない人はかなり苦戦するかもしれないな。

 相手が湧いてくる距離や習性も確認し終えると、一気に討伐速度が上昇した。

 無警戒という訳じゃないが、以前と比べて容易く敵を葬ることができている。作業効率は当初と比べて五倍ぐらいじゃないだろうか。


 初期ゾンビゾーン、宇宙服もどきゾーンも掃除が終わり、残るは魂技が扱えるフレッシュゾンビが湧く一帯となった。

 ここは墓石が点在する様になり、他の場所と比べて密集していないので敵の数が少なくなっている。その代わり質が上がっているのだが。

 魂技が使えるので厄介な存在には違いないが、数をこなしていると自ずと欠点が見えてくる。

 まず、脳が腐っているようなので高度な思考はできない。攻撃方法も体に染みついている動きといった感じで、フェイントをしてくるわけでもなくワンパターンだ。


 遠距離攻撃を主体としていた敵だとかなり対応が楽になる。

 弓を弾く真似はするのだが矢がない、もしくは弦が切れているので最終的には弓で殴ってくる。

 銃を手にしている場合は引き金を引くのだが弾がもうないらしく、カチカチと撃鉄の降りる音だけがしたかと思うと、最終的には銃を投げつけてきた。

 たまに遠距離と近距離を両方とも鍛えたらしいゾンビが現れたりもするが、どっちつかずの能力なので近距離専門よりも対応は楽だ。

 それに何といっても火が弱点というのがメリットだ。この狩場は俺に適しているので、有利な場所で鍛えるというのはゲームの基本中の基本。

 昔、聖職者タイプのキャラを鍛える為にネットゲームで半年以上、闇属性の敵しか現れないマップで狩り続けたことがある。それに比べたらまだ数日しか籠っていない今なんて生温い。


「強くなったことで余裕ができたな」


 前のダンジョンでは生き残ることに必死で余裕が全くなかった。

 今は始めからある程度の強さが確保されているので、ゲームと例えて戦えるまでの余裕がある。これが油断に繋がらないようにしないと。

 更に三日が過ぎ、殆どのゾンビを倒した。次の階に繋がっているらしい扉は確認済みなのだが、近寄らないようにしている。扉の前に巨大な十字架が立っているからだ。

 如何にもボスが出ますよと宣言している。そこで周りの墓から潰していたのだが、それも何とか終わった。

 これを残しておくとボス戦の途中で仲間を呼ばれるというパターンが待っているからな。

 巨大な十字架の周辺に十ぐらい墓石が残っているが、近づけないのでそこは諦めるしかない。


「さーて、どうするかな」


 巨大な墓石を遠くから眺めつつ食事をしているのだが、ここからどうするかが問題だ。

 ゲームなら正面から突っ込むしか手段が無い。だけど、ここはリアルだ。事前にやれることは幾らでもある。

 一定の距離に近づくと敵が墓石の前から現れる。これはほぼ間違いないだろう。

 今までの敵は半径百メートルまで近づくと地面から湧いてきた。念の為に二百メートルぐらい距離を取っているが、距離があり過ぎて細工が難しいんだよな。

 可燃性のある油を地面に染み込ませて燃やす、というのがベストな気がするがそんな便利なアイテムがない。

 そもそも、初見でボス戦をするというのが不安だ。ゲームならセーブしてから挑めるから一度目は死んでもいいから情報収集に専念できる。前のダンジョンでもその手が使えた。


「やっぱり、まずはボスの確認だよな」


 食べ終わると道具を片付けてから、枯れ木の裏に移動する。近くの墓石を棍で砕き、その破片を巨大な墓石の前に放り投げた。


「反応はなしっと、もうちょい大きいのでやってみるか」


 ボーリングぐらいの大きさがある墓石の破片を同じように投げ入れてみた。それでも敵が現れることはない。

 やっぱり生身の人間が近づかないと意味がないのか。

 ギリギリの距離まで近づき辺りを確認する。墓石と枯れ木が点在しているぐらいで相変わらず建物がない。

 使えそうな道具は無いかな。敵がドロップした毒瓶が幾つかあるがゾンビに毒が通用しないのは実験済み。調味料の塩も試してみたが効果はなし。

 後はコンパウンドボウの予備として渡された弦。滅多なことでは壊れない耐久力らしいが、念の為にともらってきた品だ。長さは五十メートル以上ある。

 あとは食料とタオルと生活必需品か。ある物で何とかするしかないか。





 一時間以上、あれやこれやと試行錯誤をしていたのだが、腹を括って踏み込むことにした。

 百メートルの範囲に入ったのだが反応がない。慎重に進んで行くがまだ敵に動きがないのか。五十、四十……あと十歩も進んだら墓石に手が届く距離で、足元から振動が伝わり十字架の前の地面が大きく盛り上がって――そこで背を向けて全力でその場から走り去る。

 初見で正面から挑むような真似をするわけがない。

 背中越しに感じる強大な気配を無視して、一切の躊躇いがない全力逃走。

 相手はまだ現れる演出中なのか、気配が遠ざかるのみ。百メートル以上は距離を確保できたのでチラッと後方に視線を向けると、そこには美しい女性の顔があった。


 その瞳は黒曜石のように黒く、目尻が下がっていて穏やかに微笑んでいる。唇も血色が良く少し肉厚で一般サイズよりは一回り大きい。そこだけを注目するなら間違いなく美人の部類だ。

 これだけ距離があるのに相手の容姿がハッキリとわかったのには理由がある。

 その顔が異様に大きいのだ。顔だけで俺の身長を易々と超える巨大さで……いや、顔だけでという表現は間違っているな、首から下が存在しないのだから。

 巨大な顔が地面の上に乗っかっている。それだけでも不気味なのだが更に不快感を増してくれるのが、顔中から飛び出ている無数の腕。

 顔中から人間の腕が生えている。頭や側面、おそらく後頭部にもびっしり腕が生えているのだろう。それも腕に統一性がない。細さ長さ色がバラバラで全部の腕が別人に思える。


「これはキモい」


 微笑んでいる女性の顔は俺の姿を確認すると顎辺りに生えた無数の腕を活かして、こちらに向かって駆け寄ってきた。

 精神力が大幅に増えているのに寒気がして髪が逆立つような感覚がしたぞ。

 これ日本にいた頃の俺なら絶叫を上げながら逃げ惑っていただろうな。女性の顔が微笑んでいるのが逆に恐怖を増大させている。

 腕が多いからなのか移動速度が思ったより速い。俺との距離が徐々に縮まっていく。進路方向に墓石が転がっていたので大きく跳躍して、避けると勢いを殺すことなくそのまま走り続ける。

 同じ個所に差し掛かった巨大顔面はその巨体なら問題ないと判断したようで、墓石を乗り越えて速度を落とさず通り過ぎ――ることができなかった。


「ぎいいやあああああっ!」


 鼓膜を引っ掻くような甲高い叫び声が墓地に響き渡る。

 脚を止めて振り返ると、巨大な顔に赤い横線が三本入った姿で化け物がこちらを睨んでいた。

 赤い線からは大量の血が噴き出し、激情を隠そうともしない憤怒の表情を血で染めて、おぞましさが倍増している。

 足代わりの腕も数本千切れているようだな。

 俺が仕掛けておいたワイヤートラップに見事に引っかかってくれたようだ。

 墓石や枯れ木に括りつけておいたコンパウンドボウの予備の弦に勢いよく突っ込んだ結果こうなった。

 滅多なことでは壊れない頑丈さだというのは嘘じゃないな。


 俺はコンパウンドボウに石の矢をつがえる。この石の矢は墓石を削って作った矢だ。

 魂技の『石の匠』があるので石の加工は容易でこの矢も簡単に作ることができた。更にこの魂技には特筆すべき点があり、俺が手にした石は全て硬度が増すのだ。ただの墓石だというのにこの矢は鋼鉄よりも硬く強化されている。

 それに石の矢にはメリットが存在する。このように『炎使い』の能力で火を纏わせても、木の矢と違い燃え尽きることがないっ!


 コンパウンドボウから放たれた炎の矢は、腕をもがれ動きを封じられた女の顔面に突き刺さる。

 一撃で仕留められるとは思ってもいないので、二射、三射と矢を撃ち込む。

 合計十本の矢を生やした女性の顔面は炎に包まれ、身の毛もよだつような断末魔を上げながら崩れ落ちた。

 動きを封じて遠距離から安全に相手の弱点を突く。今回の戦い方は理想に近かった。満点とは言わないが及第点を与えてもいい出来だ。

 相手が動かなくなり消滅するのを見守ってから、俺は戦闘態勢を解いた。


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