表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/51

弱点と言えば

 ゾンビ潰しに没頭しているとかなりの範囲を制覇してしまったようだ。

 宇宙服ゾンビとプレイヤーゾンビが入り混じったりもしたのだが、今のところは問題なく処理できている。

 相手が魂技を使えないようなので、攻撃がワンパターンで尚且つ体が脆いから苦戦を強いられることがない。宇宙服ゾンビの方が素早く耐久力も高いのは、宇宙服のような防具の効果だと思う。

 ここまで技術が発展している世界なら、着ている人の身体能力を上げるぐらいの機能は付けてくる、と勝手に信じている。

 ちなみに目的もなくがむしゃらに墓場を荒らしている訳ではなく、扉の対面方向に進んでいるつもりだ。正確に真っ直ぐ進んでいるかは非常に怪しいが。


 まだ二階なので敵は比較的弱めで助かっているのだが、無理難題を押し付けられ苦戦しないと、ついつい怪しんで疑ってしまう。

 何か大きな罠が待ち受けているのではないか。これは俺が油断をしたタイミングを狙って強敵が襲ってくるのではないか。と疑心暗鬼を生じてしまう。

 そんなことを考えながらも着実に安全最優先で墓を荒らしていく。

 結構な距離を進んだところで敵が一変した。宇宙服ゾーンは終わったようで、今度はまたプレイヤー風のゾンビが現れた。

 ただ、今回のは体が殆ど腐敗していない。モノによっては生前とほぼ変わらないぐらいフレッシュな感じがする。


「ここから鮮度が上がるのか」


 一番手前にいたフレッシュゾンビが襲い掛かってきたのだが、今までの敵と段違いの速さだ。

 武器は巨大なヌンチャクなのだが、振り下ろし速度が今までの中で断トツの速度。半ば本気で避けると、先端が大地に激突して粉塵を巻き上げ地面が爆ぜた。

 地面が大きく穿たれ、その威力が尋常ではないことを物語っている。

 これは魂技が絡んでいそうだな。目は虚ろで口からは「あーあー」と意味不明な言葉しか発しないが、今度のゾンビたちは魂技が使えるようだ。

 ここまで温存していた矢を二本放つと、一本が防がれたがもう一本は脳天を貫いた。

 反射速度も悪くないな。倒せないことはないが、それは相手が一体の場合。

 俺の目の前には現在七体のゾンビがいる。少し前までより数は減ったが単体のレベルが赤丸急上昇しすぎだ。


 矢を額から生やして倒れたゾンビを乗り越えて次に現れたのは大きな鎌をもった女性。また扱い難そうな武器を選んだな、この人。

 一気に押し潰すのが手っ取り早いと、ハンマーのような形状に変化した石の棍を振り下ろしたのだが、横に軽く跳んで紙一重で躱されてしまう。

 相手の身体能力が上がっているので、この形状だと当てるのが少し辛い。ということで、いつもの形状に棍を戻しておくか。

 さ~て困ったな、どうしようかね。一応、これも試しておこう。


「うおおおおおおおおおおおっ!」


 全力で『咆哮』を放つと大気が震え、近くまで走り寄ってきていたフレッシュゾンビが仰けに反っている。その隙に棍を叩きつけたのだが手にした刀の腹で攻撃を受け流された。

 おいおい、そんな高等テクニックまで使ってくるのか。それに、一瞬だけ怯んだようだが全員が普通に歩み寄ってきている。

 ゾンビになると精神自体が消え失せているので威圧されることもないのか。

 益々追い詰められた感があるが、俺は全くといっていいぐらい焦っていない。アンデット系の基本中の基本。相手の弱点である攻撃を試していないからだ。


「邪神さんよ。ちゃーんと基本は押さえてあると信じているぞ」


 側面から足音を忍ばせて迫っていた黒装束の男を薙ぎ払う際に、俺は石の棍に炎を纏わせた。

『炎使い』の魂技を所有しているので炎を思うがままに操ることができる。火力に限度はあるが。

 さっきまでと違い軽くなった石の棍はスイングの速度が比べ物にならない。その一撃を二の腕に受けたフレッシュゾンビはいとも容易く腕が引き千切れ、胴体の半分まで棍がめり込んだ。

 そこで炎を更に滾らせると、全身があっという間に炎に包まれ消し炭と化した。

 アンデット系といえば聖属性や火属性に弱いのが定番。やはりその法則は邪神の塔でも通用するようだ。


「じゃあ、火葬を始めようか」


 弱点さえわかれば敵ではない。当てさえすれば勝ちが確定するのだから、石の棍を細くして速度重視で戦えば圧倒できる。

 杖を手にした男が殴りかかってきたが、その動きは誰よりも鈍い。生前の戦い方は魂技を魔法のように操り遠距離攻撃を得意にしていたのかもしれないな。

 だが、ゾンビになったことにより頭が腐っているので、無意識の内に発動している魂技以外は使用不可となっているようだ。

 そんな男に少し憐れみを覚えたがその頭を吹き飛ばしておく。更に弓を持って殴りかかってきた女ゾンビには、首に手を当てて直接燃やしておいた。

 棍でも素手でも触れた瞬間に炎を燃え移らせることができるので、相手は俺の攻撃が掠っても終わりとなる。この階層は自分の能力に適した場所のようだ。


 前のダンジョンの最終階層の酷さを知っているだけに温く感じてしまうが、まだ二階なのだからここで鬼畜な仕様にするほど、鬼ではなかったということか。邪神だけど。

 でも、俺が炎を操れるから難易度が下がっているだけで、これがなければ苦戦した可能性が高い。それでも負けていないと確信しているが。

 俺は最後の最後で最上級の魂技を二つも手に入れたことで強さが向上したが、今までのプレイヤーは最上級魂技を一つも得ることなくクリアーした者が大半らしい。

 そんな人たちがここに挑んだ場合、二階ですら乗り越えるのは困難だろう。ただし、それは一人で挑んだ場合による。

 異世界人も俺の先輩にあたるプレイヤーたちも、単独で挑んだ人は稀で殆どが複数人で攻略を開始しているそうだ。


 まあ、そうだよな……あのダンジョンよりも確実に難易度が上だと思われる邪神の塔に一人で挑戦するメリットは殆どない。あそこでは人を信じることの怖さを知ったが、共にクリアーした仲間なら信じられるだろうからな。

 俺の場合はみんな日本に帰還してしまったが。


「みんな、平穏な日常を謳歌しているのかな」


 管理人代理の言葉を信じるなら、日本に戻っても魂技は残っているそうなので、あちらでは魂技を使って好き放題やれている筈だ。少しだけ羨ましい。


「後悔は……してないけどね」


 自分で選んだ道だ。彼らと同じく日本に帰ることも可能だったのに、邪神の塔の攻略を選んだのは自分自身。今更ぐだぐだ未練がましく文句を言うのは格好悪すぎる。


「でもまあ、ちょっと惜しいよな」


 誰もいない場所で本音を漏らすぐらいは勘弁してほしい。

 総合計で軽く百以上のゾンビを倒していて思うことは、身体能力が徐々に上がってきているということだ。魔素を吸収してレベルアップというのは間違いない。

 あと、前のダンジョンでは魂技は使い込む程に能力が強化されていったのだが、ここでもそれが適応されるのか。もし、そうなら少なくとも『炎使い』は上がっているよな。

 それと『ベルセルク』『棍技(網綱流)』が上昇してくれていると、今後に少しだけ光明が見えてくる。

 とまあ、考え事をしながら敵を薙ぎ払っていたのだが、これで周辺のゾンビ狩りは終了かな。また移動したら出てくるだろうが、丸一日戦い続けたのだから少しは休憩しよう。

 乾燥肉のスープを用意して、それを味わいながら管理人代理から渡されたカードを確認する。ここには魂技のレベルが記載されているので、前回と比べて上がっているといいのだけど。


『ベルセルク』2→3『暗殺』3→4『熱遮断』8『石の匠』5『棍技(網綱流)』7→8『未来予知』6『炎使い』4→5『麻痺耐性』8『幻覚耐性』8『毒耐性』8『木工』7


 悪くないな。期待通りの結果と言ってもいい。『暗殺』が上がっているのが意外だったが、常時発動している能力だからか。それに『暗殺』には『射撃』の魂技も含まれているので、何度か弓を使った分も含まれたのか。

 この魂技の数値は10に到達すると進化する場合もあるから、今後に期待しておこう。

 墓場で大の字になって寝転んでみるが恐怖心は全くない。

 日本にいた頃なら、間違ってもこんな事をする勇気はなかった。能力だけじゃなく精神面も変わったことを実感させられる。

 あのダンジョンでは変わらなければ生き抜くことができなかった。

 人に裏切られ、騙し、欺き、殺す。何度も殺し、何度も殺され、命に対する重みがわからなくなりかけていた。

 けど、ここでは命はたった一つ。臆病なぐらい慎重で丁度いい。


「寝るか」


 考えが堂々巡りを始めそうだったので、頭から振り払い目を閉じた。

 どうせ隠れる場所なんてないのだから、墓地の真ん中で優雅に眠るとしよう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ