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墓地探索

「あっちのダンジョンでは墓地ステージはなかったな」


 この異世界のゲームは日本のあらゆるゲームを取り込んで発達させたので、ホラーゲームも存在していたらしい。

 この墓石も地球の流儀に沿っている。最近は日本の墓石も四角柱の物ではなく、もっと平べったい洋風の墓石が流行っているのだが、まあそれはどうでもいいか。

 木が点在しているが、ご丁寧に全て枯れ木だ。枯れ葉が数枚残っているのが風情を感じさせる。

 結構なゲーム好きだったのでホラーゲームにも手を出してきたが、正直得意なジャンルではなかった。

昔の物は好きなのだが最近のゲームは映像がリアル過ぎて、本気で怯えそうになるからやめて欲しい。

 それでも、名作と呼ばれる作品はある程度はやってきたので免疫が付いたのか、この状況下でも全く恐怖心がないことに自分でも驚いている。

 これはゲームのおかげというより魂技で精神力が膨大に増えた恩恵かな。あと『暗殺』の冷静沈着になる効果も大きい。


 月明かりで最低限の光源は確保されていて、おまけに『暗視』があるので何の問題もなく辺りが見渡せる。

 建物は一切なく、荒れ地に雑草も適度に生えている。あとは墓石と枯れ木、それだけだ。

 近くにあった墓石に近づき何か書かれていないか目を向けると、書いてあるな文字がそれも――日本語で。

 書かれている文字は『佐々木 源治 享年二十六歳』とある。これが雰囲気づくりの為の細かい演出なら別に構わないが、本当にこの人物が眠る墓だとしたら。

 俺がそんなことを考えていると墓石の前の土が大きく盛り上がった。


「まあ、こうなるよな」


 地面から飛び出したのは人間の腕。それも肉が削げ落ち白い骨が見えている。

 更に、もう片方の腕と頭が地面から飛び出てきたのだが、頭にはわずかばかり髪が残っているが、残りは皮膚すらなく頭蓋骨が剥き出しだ。

 右目は空洞になっていて、鼻は半分取れ掛かっていた。服装は元スーツだったのだろうが穴が開き変色している。そして、酷く臭う。それは言うまでもなく腐臭だった。

 まあ、平たく言えばゾンビが地面から全貌を現そうとしている。今は上半身だけなので、取りあえず頭をホームランしておいた。


 腐肉と骨を撒き散らしながら頭が墓地の奥へと飛んでいく。

 頭を失うと死ぬという決まり事は守ってくれるようで、首から下は身動き一つしなくなり数秒後にぐずぐずに溶けて消えた。

 ゲーム好きの演出を逆手にとって悪いが、地面から現れる時に倒せばいいのにと誰もが一度は思ったことがあるだろう。

 それを実行したまでに過ぎない。ずっとこの展開をやってくれるなら経験値稼ぎとして美味しいのだけど。

 更に墓石の前の地面が一斉に盛り上がり、少なくとも二十体以上のゾンビが産まれようとしている。

 完全に姿を現す前に軽く十体を潰し、頑張って出てきた残り十体もあっさり倒す。ゾンビだけに動きが鈍重で、見た目のグロテスクさに耐えられれば敵ではなかった。


 ホラーゲームだと主人公が普通の人なのでゾンビも強敵に感じるが、身体能力が人並み外れた主人公がいるファンタジー世界のゾンビは雑魚になる。

 倒している最中に気づいたのだが、ここのゾンビはどうやら日本から送り込まれたプレイヤーの成れの果てらしい。

 服装や手にした武器が見覚えのある物ばかりだからだ。バックパックを背負ったままのゾンビも複数いたので、倒してからバックパックだけを引き剥がすと体と装備類は消えてもバックパックは残っている。

 死んでも働かされることには同情するが罪悪感はない。

 アイテムをドロップすることもないので、残っているバックパックの中身に期待するしかないか。

 一応、手を合わせてからバックパックの中身を地面にぶちまける。

 回復薬が三つに携帯食料が三つ……あとは見たことない小瓶が三つ。ラベルには髑髏マークがあり下に毒薬と書いてある。非常にわかり易い。

 アイテムがありきたりすぎる。これってバックパックを引き剥がさなくても、倒した後に残っていそうだな。次に試してみよう。


 その場に座り込み時間が経てば再び同じ敵が湧くのか実験してみたのだが、五時間過ぎても変化はなく平穏そのものだ。

 一日ぐらい待たないと湧かないのかもしれないな。五時間は安全になるとわかっただけでも充分か。これで、安心して休憩することができる。

 その場から立ち上がると再び墓地エリアを移動した。すると三分も経たないうちにまたもゾンビたちがぞろぞろと墓石の前から這いずり出てきた。

 大体自分を中心に半径百メートルぐらいの範囲から敵が現れるのか。それも全て墓石の前の地面から。

 取り敢えず、今回の敵は掃討しておこう。

 ゾンビだからといって全員がのんびり歩いてくるわけじゃない。最近流行の本気で走る素早い系も混ざっている。といっても頭が腐っているようで飛び道具を手にしていても使えないし、武器をまともに扱えるゾンビは皆無だ。


 力は普通の人よりもあるようだが、攻撃が一直線で困ったら噛みつくことしか考えてないので対処は容易。見た目がグロいだけで敵としては雑魚だ。

 動きが速かろうが石の棍を伸ばして膝を払って破壊してしまえば、後はほふく前進しかできなくなる。後は好きなタイミングで頭を潰せばいい。


「咬まれたらゾンビになるのか?」


 少し気になるが試そうとは思わない。

 掃除が終わってから学んだこととしては、ある一定の距離を進むと一気に敵が湧く。一度倒した敵は墓場から少なくとも五時間は現れない。先に徘徊しているゾンビはいない。

 こんなところか。これだけわかれば対応はできる。

 敵が現れた地面は穴が開いているので、戦闘前戦闘後が一目でわかるのはありがたい。


「よいしょっと」


 俺はまだ穴の開いていない墓石の前に移動すると、地面に石の棍を突き刺した。

 何かを潰した手ごたえがあった。念の為にもう一度刺しておく。

 同じことを繰り返しながら進むと、またもゾンビが現れたのだが俺が先に潰しておいた墓石の前からは、何も出てこなかった。

 半分ぐらいは既に潰していたので、これで掃討も相当楽になる……ギャグではない。

 時間はかかるがこの方法が一番安全かもしれないな。敵が弱くても数の暴力は侮れない。敵がいない方角があると、いざという時に逃走も楽になる。


 この方針で暫く進んでいたのだが、地面に棍を突き刺すと何か固い物体に衝突した。今までなら潰すか貫いた手応えが伝わってきたのだが、武器にでも当たったのだろうか。

 もう一度、さっきよりも力を込めて突き刺すと、何かを貫いた感覚がした。

 少し気になったので、伸縮自在の機能を利用して先端だけを横に伸ばして、貫いた状態で物体を引っ掻けて地面から引っこ抜いた。


「何だこれ」


 土で汚れているので本来の色は不明だが、元々は白色に近かったと思われる物体。

 人型なのだが手足が短くて太い、おまけに頭も異様にでかい。パッと見た感じだと宇宙服のように見える。肩や膝は硬質な何かで補強されてはいるが。

 魔物にも見えないな。墓石にはなんて書かれているのだろう。

 墓石に彫られている文字を読むと『※※※※※』わからん!

 どうやらこの世界の言葉のようだが解読不可能だ。つまり、この変な宇宙服みたいなのは異世界の鎧のようなものなのだろうか。

 顔の部分を手で払うと透明の素材らしく、中が透けて見える。覗き込んで見ると、いい具合に腐敗した顔があった。

 やっぱり、異世界の鎧みたいなものなのかこれは。

 高度な科学と魔法が発達した世界らしいから、宇宙服のようなパワードスーツといった感じか。全身鎧と宇宙服を組み合わせたと思えば納得もいく。


 邪神の塔に挑んだのは無理やり召喚された日本人だけじゃなく現地人もいたのだったな。彼らの死体があって当然だ。

 日本人を召喚した異世界人は総じてクズだと断言するが、それ以前の異世界人は自分たちの手で何とかしようと努力はしていた。そこは正しく評価しておこう。

 自分が引っこ抜いた死体と墓石に頭を下げた。この人たちは邪神の塔に挑んだ同志だ、安らかな眠りを願うぐらいしてもいいよな。


「よっし、気持ちを切り替えよう」


 次からはさっきよりも力強く地面に突き刺す。彼らの死を悼みはするが、それとこれは話が別だ。少しでも安全に生き延びることを最優先にするべきだから。

 敵が湧いてくる距離が掴めてきたので、ギリギリの範囲まで先に潰しておいた。邪神が覗き見していたら卑怯者だと激昂しそうだが、抜け道を探すのもゲーマーとしての正しい道だ。

 卑怯上等。勝つ為に手段を選ぶ段階はとっくに乗り越えた。

 俺が思う邪神の塔を攻略する際の唯一の望みが、邪神がゲーム好きであるということ。

 もしも、俺と同程度かそれ以上のゲーマーなら、難易度を最上級に設定しても必ず抜け道や攻略法を用意する。クリアー方法のないゲームはもはやゲームではないからな。


 「こんなもんかね」


 一仕事終えた気分だったので休憩したかったが、ここの敵と一戦交えてからにしよう。

 一歩踏み出すと、地面から無数の宇宙飛行士もどきが現れた。全員が似た防具を着ているということは、異世界で大量生産されているスタンダードな防具なのかもしれないな。

 何処かコミカルな見た目だが、この防具はかなり優秀でかなり力を込めなければ貫けなかった。敵の数は二十ちょい。さてと、全部潰しますか。

 一番近くの敵に石の棍を振り下ろすと、腕を交差させて受け止めようとする。車のタイヤを叩いたような感触がしたが無視して下まで振り切る。

 衝撃を吸収する能力にも優れているようだが、俺の力が勝ったようだ。

 宇宙服もどきは破損していないが両腕があらぬ方向へ曲がっている。中の腕が折れたか。


 中の人がゾンビなら骨も肉も脆くなっている。生身の人間が入っていたらもっと苦戦するだろうが、これなら力で押し切れそうだ。

 伸縮自在の能力を生かして棍の先端を肥大化させる。それはもう棍というよりは巨大なハンマーのような形状へと変化した。

 たぶん、この敵に最も相応しい形がこれだろう。

 こっちに歩み寄ってきた敵に対し、さっきと同じように棍を振り下ろすと、いとも容易く頭が埋没した。


「おっし、暫くこれで行くぞ」


 モグラ叩きの要領で潰していくか。獲物は何体か既に穴から出て来ているが、そこは気にしないでおこう。


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